2025年04月08日 公開
2025年、アース製薬は会社設立100年を迎える。入社後、営業職で頭角を現し、2014年、42歳の若さで代表取締役社長に就任した川端氏は、「地球を、キモチいい家に。」を企業理念に掲げた。プレイング・マネジャーであり続け、今でも「自分が行ったら決まると思ったらトップ営業をしますよ」と語る同氏に、叩き上げのリーダー論を聞いた。(取材・構成:川端隆人、撮影:吉田和本)
※本稿は、『THE21』2025年4月号[私の体験的リーダー論]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
――1994年にアース製薬に入社されて、営業に配属。今では考えられないような長時間労働のきつい職場だった、とご著書に書かれていますね。
【川端】いい職場、きつい職場を決める一番大きな要素は人間関係で、それは今も昔も変わらないとは思うんです。
ただ、働き方の制度面で言えば、たしかに当時は「これ以上働いたらダメ」と言われることもないし、夜遅くまで誰も帰らないし。私自身も「そんなもんかな」と思っていました。家に帰ってすることがあったわけでもなく、会社にいたというだけの話なんです。残業をしながら隣のビルを見ると、全部の窓に灯りがついてるんですよ(笑)。
――当時は社会全体がそうだった、と。
【川端】そうなんです。今の時代に新入社員として会社に入ったとしたら、それはそれで順応したんでしょうね。
一つ思うのが、仕事で出さなければいけない結果は昔も今も同じでしょう? 昔は長時間労働でしんどかったと言われるけれども、実は会社でボーっとしてる時間もあって、けっこうダラダラとやっていた。今は5時20分には帰ってください、週に2日は休んでくださいという中で、同じ結果を出さないといけない。
あるいは「これ、すぐやっといて」と言われたとして、昔の「すぐ」は数日のことだったのが、今は早い人なら5分で「できました」と返信してくる。
ですから、今のほうがしんどいかもしれないんです。今の人たちは偉いなとも思いますよ。
2009年、広島支店支店長時代の海外研修にて
――入社13年目には、35歳という異例の若さで、全社で7人しかいない支店長の一人(広島支店長)に抜擢されました。若いマネジャーとして、苦労されたのでは?
【川端】結局、マネジメントとは何かという話になると思うんです。どーんと椅子に座って、部下を動かすというのもマネジメント。僕の場合はどっちかというと「数字が目標に達しなかったら、最後は俺が行ったらいいな」と思ってたんですよ。かっこいい言い方をしたらプレイング・マネジャーです。「自分でやるほうが早い」と。
もちろん、そういうやり方には良い面と悪い面がありますが、「数字が目標に達すればいいんですよね」という考え方もできる。とにかく、じっと席に座っているというマネジメントをしたことは1回もないです。「ここは自分で行ったほうがええわ」と思ったらトップ営業をしますし、「自分で行ったら決まるから」とは今でも思ってますよ。
――ずっと携わってこられた営業という仕事も、大きな変化に見舞われている時代ですよね。
【川端】AIの時代に人間の価値はどこにあるのか、と考えると、やはり「感情があるんだから」ということは重要だと思うんです。
例えば、営業の社員に「今日はどこに訪問したの?」と聞くと、「A社さんです。決まりませんでした」という答えが返ってくる。そんなとき僕は「A社さんには何回行った?」と聞くんです。
これは「たった◯回しか行ってない? 決まるまで何回も行け!」みたいな泥臭い根性論ではないんですよ。「相手は人間やんか」という話なんです。
午前中に訪問したらだめだった。担当者は朝が苦手な人なのかもしれない。じゃあもう一度、夕方に行ってみたら? 今日は断られたけれど、たまたま奥さんと喧嘩して虫の居所が悪かったのかもしれない。じゃあ何日かしてもう1回行ってみよう。
AIはいつでも同じ反応を返してくれますが、感情のある人間は毎回、反応が違う。そういうアプローチを重視したいんですよね。
――プレイング・マネジャーの中には、仕事が多すぎて潰れそうになっている人も多いです。どうして川端さんはうまく適応できたんでしょう?
【川端】仕事が多いのは苦にならなかったんです。休みたいとも思わないし。もちろん、寝ますよ(笑)。24時間働けると言うつもりはないんだけれど、あまり仕事の時間とそれ以外の区別はない。今でも予定が埋まっていないほうが嫌なんですよ。予定表を見て、空白があると不安になる。「昼休みはいらないから予定を入れて」と言ったりします。
こういう働き方が合う、合わないはあります。僕はこれでいいと思っているだけで、これができる人が偉いとは思わないし、人にやらせようとも思いません。しっかり休みながら数字を出してる人たちはたくさんいますし、尊敬します。ただ、自分はたぶんそのやり方はできない。それだけのことなんですよね。
――「楽をしよう」といった発想はないんでしょうか?
【川端】楽をするために早く対応するんです。頼まれた仕事を「明日しよう」と思って置いておくと、気になって仕方ない。忘れてしまうかもしれないし、仕事が溜まっていくのが嫌。いついつまでに、と期限があったら、ギリギリでやることはまずないです。だいたい早めに終わらせる。
あとで慌てるのは嫌だから、日頃から一生懸命やっておこう。そのほうが楽ができる......と思ってそうするんですが、不思議と楽できないんですけどね。また入ってくるんですよ、次の仕事が(笑)。
ある人に言われたのが、「仕事が次から次に入ってくるのは、仕事ができると評価されているからこそ。仕事の報酬は仕事や」と。だったら、喜んでいいことなのかなと思うようになりました。
――普通なら、仕事がどんどん増えたらパンクしてしまいそうです。
【川端】そうですよね。僕のリーダー論って、参考にならないかもしれない。ごめんなさい(笑)。
一つ言えるのは、仕事が趣味とまでは言えなくても、楽しめたらいいとは思うんです。1カ月のうち、20日間は仕事でしょう。1日24時間のうち、8時間が仕事です。
しっかり休んだとしても、仕事に関わっている時間は圧倒的に長い。みんな休みを楽しむんだけど、圧倒的に多い仕事の時間を楽しまなかったら、「人生、損するな」と思ってるんですよ。少なくとも、嫌々やるのは損している気がするんですよね。
――とはいえ、やはりリーダーとしてのつらい局面もあったでしょう。広島支店長になったときには、周りは年上の部下ばかりだったとか。
【川端】たしかに、支店のメンバーも、支店傘下の出張所の所長も、先輩ばかりでした。ただ、当時の大塚達也社長はオーナーということもあって、役員は全部年上という中でやっておられた。それを見ていたので、あまり年齢を気にしなくてすんだかもしれません。
それと、そのときに思ったのが、本当にしんどいのは「年上の部下」のほう、先輩たちのほうだということ。昨日まで「おい」って呼びつけていた社員が上司になったら......。イメージしたらしんどいじゃないですか。「大変なのは僕じゃなくて、先輩方のはずや」と。
このことに限った話ではないですが、組織ではみんな、何かしら我慢しながら働いてくれているんです。他人のしんどさを思うと、「俺のしんどいなんて、大したことないわ」と思えるようになる。この考え方ができるようになってからは、楽になりましたね。
――今、リーダーとして苦労している読者にメッセージを送るとしたら?
【川端】難しい時代になったなと思ってます。僕らが若手だった時代のほうが、まだ良かったかもわからない。僕が今、話してきたようなことも、これから通用するかどうかもわかりません。ですから、今頑張っている40代のリーダーは尊敬するし、本当に大変な時代になってると思いますよ。
個人のキャリアという点でも難しいですよね。僕自身は、ひょんなきっかけから入社したアース製薬で、これまでずっと働いてきました。でも、今のように選択肢が増えて、転職も身近になっている時代に生きていたら、転職していたかもしれません。時代背景が違います。
――難しい時代なだけに、「リーダーに向いてないんじゃないか」と悩む読者も多いと思います。
【川端】大丈夫、大丈夫。向いてますよ。そのままやっていったらいいと思います。
この先の時代はどうなるかわからないし、過去にも戻れない。僕らが若いときも「昔はこうだった、今どきの若いもんは」と言われました。
40歳の読者がいるとして、今現在は中間管理職として大変で、つらいかもしれない。でも20年後、60歳になったとき、「昔のほうが良かったよな」とたぶん言うんですよ。そう考えると、今の時代も捨てたもんじゃないですよ。
自分だけが大変だと思ったら腹が立って仕方ないと思います。でも、おそらく隣の芝が青く見えるように、同年代のリーダーが「自分はリーダーに向いてないんじゃないか」と悩んでいるんですよ。
「悩んでいるのは自分だけじゃない」と思ったらいいんです。すると、大丈夫な気がしてくるでしょう。そう思わないと、やってられないしね(笑)。
【川端克宜(かわばた・かつのり)】
アース製薬(株)代表取締役社長。1971年、兵庫県生まれ。94年、近畿大学を卒業し、同年アース製薬㈱に入社。2006年、広島支店支店長、11年、役員待遇営業本部大阪支店支店長、13年、取締役ガーデニング戦略本部本部長を経て、14年3月、アース製薬㈱代表取締役社長に就任。現在、(株)バスクリン、白元アース(株)、アース・ペット(株)、アース環境サービス㈱各社の取締役会長も兼務している。近著『BATON バトン トップを走り続けるためにいちばん大切なこと』(ダイヤモンド社)が好評発売中。
更新:04月17日 00:05