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日本は学び直し後進国? AI人材300万人不足が迫る危機

片見悟史(文部科学省生涯学習推進課 リカレント教育・民間教育振興室長)

片見氏「THE21」

先行きの不透明な時代、学び直しの重要性は増している。では具体的に、何を指針にして学び直しを始めればよいのだろうか。国のリカレント教育施策を主導する、文部科学省の片見悟史氏に語ってもらった。(取材・構成:木村昭徳)

※本稿は、『THE21』2026年3月号特集[圧倒的な差がつく「学び直し」]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
※前後編の前編です

 

VUCA時代を生き残るため学び直しは不可欠

このまま今の生活を続けていていいのか? そんな漠然とした悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか。

現代は、VUCAの時代と言われています。VUCAというのは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、先行きが不透明、将来の予測が困難で混沌とした状況にあることを指します。

新型コロナウイルス感染症の流行を機にワークスタイルが変化していますし、生成AIもすさまじいスピードで日々進歩しています。そんな先を見通すのが難しい時代を生き抜くためには、自分自身をバージョンアップしていくことが欠かせません。学び直しの重要性が高まっていることは間違いないはずです。

社会的に見ても、社会人の学び直しは緊急性の高い課題だと考えられています。特にAI・ロボット関連人材の確保は急務です。少子高齢化によって生産年齢人口の減少が予想されていますから、生産性を上げて生産力の低下をカバーしていかなければなりません。

国は、AI・ロボットの活用や労働の質の向上によって生産性を上げる方針ですが、このままのトレンドで推移すると、2040年にはAI・ロボット関連人材が300万人以上不足すると推定されています。そうした現状があるにもかかわらず、【図1】のように、日本人の社外学習・自己啓発への参加率は、諸外国と比べて非常に低い水準にとどまっています。

その大きな理由としては、労働者の多くが、学習の必要性を感じていないということが挙げられます。Indeedの調査によれば、日本の労働者の3割近くが「スキルを習得したいという意思を持っていない」といいます。

学び行動を取らない理由を聞いたリクルートワークス研究所の全国就業実態パネル調査では、「特に理由がない」という人が半分以上を占めていました。そもそも学び直しという視点がないのかもしれません。

個人的な意見になってしまいますが、これは個人のやる気の問題ではなく、制度や企業をはじめとした構造的な課題だと思っています。労働市場の仕組みとして、「学び直しをしても大して評価されない」「給料などの処遇改善に結びつかない」というのが現状です。これでは学習意欲が上がらないのも当然といえます。

また、日本企業のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)以外の労働への投資は、諸外国と比較して非常に低く、スキル学習を個人の裁量に任せているという現状があります。

これもIndeedが行なった従業員のスキル習得に関する取り組みについての調査では、「特になし」と答えた企業が22.7%に上りました。アメリカの2%と比較すると、その差は歴然です。企業からの支援がない、また個人でそれほど費用や時間をかけられないことも、学び行動をとれない大きな要因となっています。

こうした理由から、「周りがやっていない。だから自分もやらない」という負のループが発生しているのだと考えられます。成人学習参加率と労働生産性には相関関係があることも示されています。

また、「Society5.0」という新しい概念もあります。それは、すべてのものがインターネットでつながり、どんな生き方のニーズにも対応できる体制が整えられ、必要な情報などが簡単に得られる、そんなデジタル技術によって人の可能性を広げようという社会です。

どんな業界であっても、AIをはじめとしたデジタルスキルが求められる時代になりつつあります。将来、何が起こっても耐えられるように、学び直しは必要不可欠なのです。

片見悟史氏「THE21」

 

マルチステージ化するライフサイクル

学習の必要性を感じてはいるものの、何を学べばいいのかわからないという人も多いと思います。少し前までは、教育を受けて就職し、同じ会社でキャリアを重ねて引退というのが、一般的な生き方でした。

このような直線型な人生モデルに対して、現代は「人生のマルチステージ化」が進行しています【図2】。一度就職した会社で最後まで働き続ける人は減っていますし、退職してから勉強し直し、まったく別の道に進む人もいるでしょう。

フリーランスとして働く人も増えています。人生100年時代と言われているくらいですから、定年退職後にもまだ時間はあります。起業したり、ボランティアに力を入れたりする人も多いはずです。

会社に勤めながら、新しい道や生き方も探す「探検」を続け、次のステップへ「移行」していく。そして、教育や仕事、学び直し、ボランティア、起業などが多様に組み合わさった、人それぞれ人生の構図をかたちづくります。

人生の構図は多様化に流れ、必要なスキルについても個人差が大きくなっていますから、いつ何を学べばいいのかというのは、かなり難しい問題です。

まずは自分自身のライフプランを深く見つめ直すことから始めなければいけません。特に50代以降の方には、定年を迎えたあとにどうするかという視点も必要になってくるでしょう。そのうえで、「なぜ学び直すのか」を明確にすることが大切です。

今の自分に必要なのは、仕事で活きてくる学びなのか、それとも人生を豊かにするための学びなのか。前者はリ・スキリング、後者も含めるとリカレント教育という概念です。

リ・スキリングの中でも、現在の職務で必要な能力を伸ばすことをアップスキリングといいます。それぞれで、学ぶべき内容はもちろん、学べる場所や受けられる支援なども異なります。まずはこの大まかな方向性だけでも絞ってから考えていくと良いのではないでしょうか。

例えば、早稲田大学では「ライフリデザインカレッジ」という、今後の人生をどう生きるかを考えるカリキュラムを用意しています。

このような「生き方を考える」系の講座は増えてきているので、ライフプランの設計という段階で課題を抱えているのであれば、受講してみるというのも選択肢に入ると思います。

片見氏「THE21」

 

リ・スキリングは将来必要とされる分野も視野に

社会人の学び直しといった場合、まずはリ・スキリングを想像する人が多いでしょう。特に40代くらいまでの方は、アップスキリングをイメージするかもしれません。

「いつ何を学べばいいのか」ということは断言できないのですが、今後需要が高まるであろうスキルはある程度予想することができます。転職するにしろ、現在の職務に活かすにしろ、起業を目指すにしろ、将来を予測して動くということが重要です。

文部科学省から提供している情報でいえば、【図3】の「リカレント教育エコシステム構築支援事業」に注目していただくのが良いのではないでしょうか。これは、大学などによるリ・スキリングの活性化を目指し、予算を投じて進めている事業ですが、地域ニーズや産業構造の変化を見据えて、質の高いプログラムが採択されています。

立地や時間の問題もありますから、記載のプログラム自体を受けるのは難しいという方もいるでしょうが、必要なスキルを考える参考にはなると思います。

メニュー(1)は、地方創生の観点から採択されたプログラム群です。ここで採択されたプログラムは、当該地方でのニーズが高いと見込まれたものだといえます。地方経営者に向けたプログラムが中心なので、例えば、地元に帰って事業を起こしたいと考えている方などには参考になるのではないでしょうか。

経営者以外では、今後、アドバンスト・エッセンシャルワーカーの育成も重要なテーマとなっています。エッセンシャルワーカーとは、医療・介護、生活インフラ、物流など、日常生活を維持するうえで必要不可欠な仕事を担う人材のこと。

アドバンスト・エッセンシャルワーカーは、明確な定義があるわけではありませんが、その中でもAIやデータサイエンスなどのデジタル技術を高度に活用して、高い生産性とサービスを実現する人材を指すといわれています。

特に介護などの現場では、ITを活用したいのに人材が足りていないという現場の声が、多く寄せられています。メニュー(2)で採択されている産業の領域は、文部科学省が行なった調査において今後一定のニーズが見込まれると判断された領域であり、文部科学省として積極的に支援を行なっていくことにしています。

例えば、半導体、グリーン、マーケティング、サプライチェーンマネジメント。また、これら以外にも、例えば、蓄電池関係の人材やモビリティ関係の人材のニーズが高まっているという情報もあります。

経済産業省でも、2040年の産業構造を推計しています。これらの発表にも注目してもらうと、将来不足するスキルを知る助けになるはずです。デジタルに関連するスキルについても、経済産業省が、スキル標準を整備したり、補助金により企業をサポートしたりしていく体制を整えています。リ・スキリングの対象選びの際には、こちらにも注目していってもらえればと思います。

片見氏「THE21」

プロフィール

片見悟史(かたみ・さとし)

文部科学省生涯学習推進課 リカレント教育・民間教育振興室長

2006年、文部科学省入省。スポーツ庁政策課専門官、文部科学省初等中等教育企画課教育制度改革室室長補佐、千葉市教育委員会学校教育部参事などを経て、25年より現職。

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