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がん以外の病気では緩和ケアを受けにくい 今後ニーズが高まる疾患とは

2026年01月20日 公開

木原洋美(医療ジャーナリスト)

緩和ケアの実態

病による心身の苦痛をやわらげ、自分らしい生活を支える緩和ケア。実は、がん以外の疾患では十分に受けられないケースも少なくないといいます。医療ジャーナリストの木原洋美さんに、その実態と課題について解説していただきます。

※本稿は『PHPからだスマイル』2026年2月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※写真はイメージです

 

緩和ケアはがん限定 ほかの疾患は対象外

「人生でこんなに痛いことはない」―2017年7月、ノンフィクション作家の堀川惠子さんの夫は、長年続けた透析を止めた7日後、耐えがたい苦痛を訴えながら亡くなりました。

緩和ケア病棟は「がん患者限定」なんて知らなかった。間もなく亡くなる患者の苦痛をなるべく和らげ、治療を控えた状態で穏やかに見送るための緩和ケアではないのか。堀川さんは2024年11月『透析を止めた日』(講談社)を出版し、腎不全患者への緩和ケアの在り方について問題提起しました。

著書は社会に衝撃を与え、画期的な「腎不全患者のための緩和ケアガイダンス」の誕生にもつながりましたが、これは腎不全だけの悲劇ではありません。「日本の非がん疾患の緩和ケアはかなり遅れています」と、この問題に詳しい平原佐斗司医師は言います。

実際、日本において緩和ケアを必要とする人の多くは「がん以外の患者」なのに、どんなにつらくても専門的な緩和ケアが受けられないなんて、一体どれだけの人が知っているでしょうか。

「認知症や心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患、神経難病、腎不全など、緩和ケアを必要とする人の多くはがん以外の疾患です」(平原医師)

一方、国際法では、「全ての人が人生の最期の時間、緩和ケアを受けて痛みから解放されるのは人権」とあります。

 

痛みを表現できなくなる認知症は命の危機

腎不全への緩和ケア以外にも、実はこれまでに各領域の医師たちによって、疾患別の緩和ケアは進化してきました。2010年の「循環器疾患における末期医療に関する提言」をはじめ、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2013」、「非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021」、「高齢腎不全患者のための保存的腎臓療法―CKMの考え方と実践」等が作られてきたのです。

「しかしながら政策的には、2017年に心不全のワーキンググループが作られて、翌年には診療報酬が改定され、末期心不全に対する緩和ケアの診療報酬が認められるようになりましたが、2025年時点では進展が見られません」(平原医師)

さらに将来、先進国において、緩和ケアのニーズが急増すると考えられているのが「認知症」です。今後2060年までの間に、全世界の患者数は約4倍、先進国で3.07倍に増加し、その増加率や増加量はがんをしのぐと予測されています。

「認知症の人が1年以内に死亡する危険度は、そうでない人に比べて男性で3.94倍、女性で2.99倍です。末期認知症になるとつらさを伝えられなくなるため、しばしば苦痛を見過ごされて、適切なタイミングで医療にアクセスすることができなくなるせいだと推測されています」(平原医師)

加えて、軽度の段階でも緩和ケアは必要と言われています。患者さんにはしばしば、認知の衰えに対する不安という心の苦痛からくるせん妄・暴言・徘徊等の周辺症状があらわれるからです。

認知症が命の危機に直面する疾患だと知っている人は、それほど多くはないでしょう。ただ、医療現場の関心は高く、2024年に学会化された「日本認知症の人の緩和ケア学会」には、既に850人くらいの専門職が参加しているそうです。

 

主たる担い手は「在宅医療」

現在、日本で非がん患者の緩和ケアを主に担っているのは「在宅医療」です。

「在宅医全員とはいえませんが、非がん疾患に対する経験値は高いと思います。原則、緩和ケア病棟や緩和ケアチームではがんと一部の心不全しか診られないので、非がん疾患の緩和ケアの経験が積めません。一方、在宅医は疾患に関係なく診られますからね」(平原医師)

ただし、腎不全、特に透析を中止した人の緩和ケアは別。在宅医でも経験が少ない分野で、病院と在宅医の連携が整っているケースも極端に少ないため、突然透析中止を決断し、緩和ケアができる在宅医を探しても、見つけるのは簡単ではないといいます。「透析を中止する人は、全体のわずか4.8%なので、多くは病院で亡くなっているのが現状です」(平原医師)

どうやら、日本の非がん疾患に対する緩和ケアはまだまだ発展途上。一朝一夕の進展は望めないまでも、病に倒れた際に穏やかな最期を迎えるために、どうしたらいいのかを家族や主治医と話し合い、準備しておくことが大切。「縁起でもない」なんて避けている場合ではありません。

◎監修:平原佐斗司医師(東京ふれあい医療生活協同組合研修・研究センター長)

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