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医師も注目? スマートウォッチが「脳卒中の早期治療」に役立つ可能性

2025年09月10日 公開

木原洋美(医療ジャーナリスト)

スマートウォッチを賢く使う

進化し続けるスマートウォッチ。現場の医師も注目するその機能、賢い使い方について、医療ジャーナリストの木原洋美さんが専門医への取材をもとに、分かりやすく解説する。

※本稿は『PHPからだスマイル』2025年10月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

異常を察知し命拾いしたケースも

スマートフォンと連携して使う、腕時計型電子機器「スマートウォッチ」のヘルスケア機能が目覚ましい進化を遂げています。主な例を挙げると......。

【心房細動の早期発見】
日常的に脈を測定し、不規則な心拍リズムを検知して心房細動の兆候を捉えると「ぜひ医師に相談してください」といった強いメッセージで警告してくれる。自覚症状のないユーザーが異常に早期に気づき医療機関を受診、命拾いしたケースも。医療機器認定を取得しているものもある。

【睡眠サポート】
睡眠習慣をモニタリングすることで「睡眠の質」を可視化し、生活習慣の改善に活かすことができる。睡眠時無呼吸症候群の兆候の発見にも役立つ。

【高血圧の治療補助】
米国や日本で医療機器として認定を取得した血圧測定機能を持つものの他、光学センサーで血圧を推定する機能を搭載し、日常的な血圧の変化を医師と共有できるモデルもある。精度に課題があるものの、高血圧治療の補助や早期の異常探知につながる有望な機能として期待されている。

【禁煙の補助】
喫煙時特有の手の動きを自動検出し、"まさに一服しそうな瞬間"にリアルタイムで「深呼吸して踏みとどまりましょう」等の応援メッセージをバイブレーションと共に時計画面に表示して思いとどまらせる機能。新たな禁煙補助のアプローチとして注目されている。

「病気の早期発見、生活習慣の改善支援、治療のフォローアップなど幅広い用途でスマートウォッチの実用化が進んでおり、個人の健康管理と医療の橋渡しをする存在になりつつあります」とデジタル医療に詳しい脳神経外科医の髙尾洋之医師は言います。

 

早期発見・治療で人生を守る

髙尾医師が特に注目しているのは「心房細動の早期発見」機能です。

「心房細動は脳卒中の主要な原因であり、早期発見が極めて重要だからです。私は脳卒中の患者さんを目の当たりにしてきて、早期発見・治療がどれほど患者さんの人生を守るか痛感しています」(髙尾医師)

さらに、心房細動は自覚症状のない人も多く、従来の方法では見逃されがちである点も重視しています。

「典型的な症状を訴えない『サイレント心房細動』も少なくありません。事実、7日間のホルター心電図検査では検出されなかった発作が、スマートウォッチによって初めて検出された例も報告されています」(髙尾医師)

精度そのものは医療機器の心電図に及ばないまでも、「常時モニタリングできる」利点は精度のハンデを補って余りあるのだそうです。

2025年に行なわれた調査では、デジタルヘルスに関心を持つ日本の医師400名中、実際にスマートウォッチのデータを診療に利用した経験がある医師は約3割に留まるものの、「機会があれば使ってみたい」という意向を示す医師は約4割にのぼり、全体の約7割が活用に前向きであることが分かりました。

「診察室で患者の訴えを聞くだけではつかみ切れない数週間分の睡眠・心拍などのデータがあれば、診断精度向上に役立つと期待されているのだと思います」(髙尾医師)

最後に、これらのヘルスケア機能を最大限に活用するためのポイントを紹介します。

 

【ヘルスケア機能の賢い使い方】

①日々の健康モニターとして活用する
毎日装着してデータを記録し、自分の体調パターンを把握しましょう。「今日はあまり歩かなかったから明日は意識して歩こう」というように、健康管理のモチベーションアップに役立てるといいでしょう。

②異常を疑う通知が出たら、必ず医師に確認を
「心房細動の疑いあり」という通知が出たら、深刻に受け止めて循環器内科を受診しましょう。一方、あくまでも簡易測定である点を踏まえ、軽微な数値のブレに過度に振り回されない冷静さも大切です。

③機能の限界を理解し、正確さを補う工夫を
便利である反面、医療機器ほど高精度ではないことを認識しましょう。たとえば血圧測定機能を毎日使用している場合でも、定期的に上腕式血圧計で確かめてみるよう心がけてください。

 

【取材・文】木原洋美(きはら・ひろみ)
コピーライターとしてさまざまな分野の広告に携わった後、軸足を医療へと移す。雑誌やWEBサイトに記事を執筆。著書に『「がん」が生活習慣病になる日』(ダイヤモンド社)がある。

【監修】髙尾洋之(たかお・ひろゆき)
東京慈恵会医科大学脳神経外科および先端医療情報技術研究部を兼務、准教授

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