THE21 » マネー » 「インフレ率10%超えもありえる」元モルガン銀行東京支店長が危惧する最悪のシナリオ

「インフレ率10%超えもありえる」元モルガン銀行東京支店長が危惧する最悪のシナリオ

2026年01月06日 公開
2026年01月30日 更新

藤巻健史(元米モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)在日代表兼東京支店長,前参議院議員[2期])

日本のハイパーインフレや国力の低迷、日銀の過ちがもたらす危機について、長年警鐘を鳴らし続けてきた元米モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)東京支店長の藤巻健史氏。連載第2回後半の今回は、これまでの日銀の動きから予測されるインフレ率の変動や、それに立ち向かうための対策法を解説していただく。(取材・構成:坂田博史)
※本稿は、『THE21』2026年2月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※前後編の後編です

 

日銀の無策が続けばインフレ率が10%を超える日も

バブル期の1989年12月まで日銀総裁を務めた澄田智氏は、後に「資産価格の上昇を見過ごして、金融引き締めが遅れたのは私の責任だ」といった主旨のことを述べています。 消費者物価指数が安定しているときに、株や不動産などの資産価格が上昇するのは極めて珍しい現象でした。世界的に見ても、そういうことはなかった。だから金利を引き上げる金融引き締めが遅れてしまった。そう述べられました。

資産価格が上昇している今まさに、日銀はこの澄田氏の反省を活かさなければならないはずなのですが、早め早めの金融引き締めは行なわれていません。それどころか、実質金利をマイナスのまま放置しています。これでは、物価上昇を加速させているようなものです。

近年の物価上昇で生活が苦しくなっている人たちが大勢います。「これ以上の物価高は勘弁してほしい」と多くの人が思っていることでしょう。しかし、インフレをコントロールすべき日銀が何も手を打たない以上、ますます物価は上昇していきます。

今回の物価上昇は私たちにとって非常に厳しいものになる。私はそう見ています。

例えば、アメリカのインフレ率は過去に、最高14.8%まで上昇したことがあります。1980年3月のことです。アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)のポール・ボルカー議長(当時)は、このとき金利でインフレを抑えることを諦め、ばらまいたお金を回収するマネタリーベース引き下げに政策を転換しました。

これは強烈な方針転換で、FRBの政策金利であるフェデラル・ファンド金利は20%まで上昇し、10年国債の利回りも15.8%まで上昇しました。 「こんなことをしたら景気が悪くなる」とボルカー議長は叩かれまくりましたが、強い人だったのでしょう、それでも政策を変えることはなく、最後にはインフレ抑制に成功します。

このようにインフレというのは進み始めると抑制するのが難しく、だから早め早めの金融引き締めが重要になるのですが、それができない日銀では、日本のインフレ率が10%を超える日が来ることも、あながち「ない」とは言えない状況なのです。

 

最善のインフレ対策は?株や不動産よりもドル資産

それでは、物価上昇が続く高インフレ経済に備えて、私たちはどのような備えをしておけば良いのでしょうか。インフレ対策というと、株や不動産の購入が勧められますが、私は円資産を外貨資産、中でもドル資産に移すのが最善のインフレ対策だと考えています。

なぜなら、今回のインフレが10%超ともなれば、商品やサービスの価格がどこまで上がるのかわかりませんし、それによるショック(危機)が日本経済にどれほど大きな悪影響を及ぼすのかも読めません。

日本企業の株の場合、その企業が今回の危機で業績不振に陥り、仮に倒産してしまえば株は紙くずになってしまいます。特に、日本国内だけで事業を展開している企業は、日本経済の影響をもろに受けますので危険です。将来的に景気が上がるとしても、それ以前に企業がなくなってしまえば元も子もありません。

株を買うのであれば、海外でも事業を展開しており、海外に多くの資産をもっている企業を選んだほうが良いでしょう。外貨資産をもっていれば、円が暴落しても生き延びられる可能性があります。個人が外貨資産をもつことがインフレ対策になるように、企業も外貨資産をもつことがインフレ対策になるのです。

不動産は、一時的に価格が急落したとしても、時間をかけて価格が戻る可能性は高いでしょう。とはいえ、それも需要のある不動産に限られます。 私がドル資産をもつことが最善のインフレ対策になると言うと、「アメリカもドルをばらまいており、ドルの価値も下がるのではないか」と反論されることがあります。確かに、アメリカもお金をばらまきすぎですからドルの価値は下がります。ただ、為替は相対論ですから、「弱くなるドル」と「めちゃくちゃ弱くなる円」であれば、ドル高円安に進みます。

また、ドルは世界の基軸通貨です。ですから、世界経済が成長すれば、その分ドルが必要とされます。もしドルの供給が少なければ、ドル不足となり、ドルの価値が上がり、世界経済がデフレ傾向になってしまいます。日本経済にとって円高がデフレ要因であったように、世界経済にとってドル高はデフレ要因です。

ですから、日本とアメリカが同じようにお金をばらまきすぎているとしても、日本限定の円と、アメリカ限定ではなく世界で使われているドルでは、その意味合いが違うのです。 以上のことから、今後も日本で物価高騰が続き、インフレ対策を講じたいと考えるなら、株や不動産を購入するのも良いですが、一番簡単で確実なのはドル資産をもつことだと私は考えているのです。

プロフィール

藤巻健史(ふじまき・たけし)

元米モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)在日代表兼東京支店長,前参議院議員(2期)

1950年、東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。米国ケロッグスクールへ社費留学(MBA)、ロンドン支店等を経て米モルガン銀行に転職。在日代表兼東京支店長。その後、ジョージソロスのアドバイザー等を経て参議院議員2期。一橋大学経済学部で13年間、早稲田大学大学院で6年間非常勤講師。日本金融学会所属。

THE21の詳細情報

関連記事

編集部のおすすめ

止まらない円安にどう備える? 日本が再びハイパーインフレに陥る可能性

藤巻健史(元米モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)在日代表兼東京支店長,前参議院議員[2期])

このまま円安は続く? 日米金利差だけではない「本当の原因」

藤巻健史([株]フジマキ・ジャパン代表取締役、経済評論家)

貯金がすべて「紙クズ」になる日に備えるには?

藤巻健史(フジマキ・ジャパン代表/参議院議員)

「資産がすべて日本円」は危険...藤巻健史氏が注目する“お金の逃がし先”

藤巻健史(経済評論家)