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アドラーの考え方で「仕事の悩みが軽くなる」 苦しみから逃れるための選択肢

2025年11月25日 公開

小倉広([株]小倉広事務所 代表取締役)

アドラー心理学

職場の人間関係、部下育成、数値目標(ノルマ)......。
もしアドラーがそばにいてくれたら、こうした仕事の悩みにどう答えてくれるだろうか? 企業研修を数々行ない、アドラー派の心理カウンセラーでもある小倉広氏に、「アドラーだったら、こう答える」を解説してもらった。(取材・構成:辻 由美子 )

※本稿は、『THE21』2025年12月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

2度の鬱病でどん底にそのとき出合ったのがアドラー

今から30年近く前、当時30代だった私は仕事で行き詰まり、鬱病にかかってしまいました。それも2度も。

最初は30歳のときでした。新卒で入社したリクルートで、若くして課長に抜擢されたのですが、間違ったリーダーシップを発揮して部下たちから総スカンを食らい、鬱病になってしまったのです。それでも私は会社に内緒で心療内科に通い、薬を飲みながら仕事を続けました。

2度目はその少しあと、よせばいいのに今度はリクルートを辞めて、小さな会社の役員に就任したのです。そこでまた同じ過ちを繰り返し、再び鬱でどん底です。

私は、トンネルの出口を求めて、ひたすら心理学の本を読みあさりました。そして、それから15年ほどしてようやく出合ったのが、アドラー心理学だったのです。

ただ、このときはまだアドラーをそれほど深く理解していたわけではありませんでした。アドラーが生き方の軸になったのは、それからしばらくしてからです。

ある日、ウェブを流し見ていた私は、アドラー心理学のセミナーを見つけました。気になるセミナーは、とりあえず申し込むのが私の方針です。そのセミナーで初めて体系的にアドラーについて学び、そのことが私の人生を大きく変えたのです。

 

アドラーの考え方を知って幸せな人生を送ろう

アドラー心理学は人の成長や教育に特化したところが、他の心理学と違う点です。私自身も変われましたし、今は私の教育研修にもアドラー心理学を応用し成果をあげています。

アドラーの中心をなす概念は、皆がつながっているという共同体感覚と勇気です。アドラーは、「勇気がある人は、すぐに誰とでも友達になるだろう」「いつも両手を広げて人を受け容れている」と述べています。

ある人がアドラーに「だまされたらどうするんですか?」と質問したとき、アドラーは「人を受け容れたほうが良い人生になる」と伝えたと言います。

「最初から警戒して誰とも友達にならない人生」と、「だまされるかもしれないが、みんなをウエルカムで受け容れて、色々な人と友達になる人生」と、トータルで見て楽しいのはどちらでしょうか。私は迷わず後者の人生を選びます。皆さんはどうですか。アドラー心理学は仕事上の悩みだけでなく、人生をどう生きるかについて深い示唆を与えています。

皆さんにもアドラーの考え方を知ることで、幸せな人生を送っていただきたいと思います。

 

仕事の失敗

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仕事で大失敗してしまった。顧客の信頼も失い、自社にも迷惑を。毎日を後悔して過ごしている。
顧客に提出した書類に不備があり、先方に損失を与えてしまいました。信頼を失い、取引は停止。自社の売上にも大きな穴をあけることに。「なぜ、こんなミスをしてしまったのか」と後悔ばかりしています。
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●失敗こそが学びのチャンス。これからどうするかを考えよう

仕事で大失敗をしたときは、確かにパニックになりますね。私もコンサルタントの仕事をしていたとき、クライアントの人事制度の設計で大きなミスをしてしまい、クレームになったことがあります。

そのときは焦りましたが、落ち込んでいても仕方ありません。相手の信頼を取り戻すにはどうしたらいいか必死で考え、与えた損失以上に利益をもたらす方策を考えて恩返しの努力をしました。

世の中には、失敗したことがない人間など一人もいません。失敗したとき、どうするかが重要なのです。

アドラーには、カウンセリングにやってくる人に三角柱を見せたという有名な逸話があります。

三角柱の3面にはそれぞれ「ひどいあの人」「かわいそうな私」「これからどうするのか?」の3つの言葉が書いてあります。

カウンセリングであなたはどれを選びますか、というわけです。どんなにあの人が悪いかという批判を延々としてもいいし、どれだけ自分が苦しめられているかを話してもかまいません。でも多くの人は「これからどうするのか?」を選んだそうです。

カウンセリングの1時間を人生の時間と置き換えてみましょう。あなたは自分の人生を「あいつが悪い」「自分は被害者だ」と思って過ごすか、「これからどうするのか」と課題に対処し、そこから学びを得るのか。どれを選びますかということです。

アドラーは勇気を大切にしています。失敗する勇気、不完全である勇気、失敗を認める勇気です。人間は不完全ですから失敗するのは当然です。失敗する勇気を持ちましょう。その失敗を人のせいにして逃げないこと。自分の失敗はきちんと認め課題解決に努めれば、学びが生まれ、経験として蓄積されます。

大失敗したときこそが、学びのチャンス。どう対処するかへ意識を切り替え、あなたの学びに変えましょう。

 

年上部下

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仕事にあれこれ口を出してくる年上部下。仕事はできても、チーム運営には支障が出てきて......。
元は先輩だったベテラン社員が、会社のポストオフで私の部下に配属。仕事はできるのですが、事あるごとに私の仕事内容に口出しをしてきます。言う通りにしないと怒り出すことも。円滑にチーム運営を行なえず困っています。
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●心の中で境界線を引いて、自分の領域に相手を介入させないこと

年上部下が仕事に口を出してくるということですが、そういうとき、アドラー心理学の前提となる「課題の分離」という考え方が参考になります。「課題の分離」とは、相手と自分との間に境界線を引いて、自分の課題に相手を介入させない、自分も相手の課題に介入しないことです。

もし相手が境界線を乗り越えてきたら、ストップと言いましょう。もちろん口に出して言うのではなく、心の中でですが。そして相手には「教えてくれてありがとうございます。勉強になります」と言っておいて、口出しには従いません。参考にすることはあっても、あくまでも自分の領域のことは自分で決めます。

相手は納得しないかもしれませんが、納得させる必要もありません。相手が「なぜ言った通りにしないんだ」と怒ってきたら、「これは上司である私が決めることです。もし私が判断できないとしたら、私が上司でいる意味がありません」。そうはっきり言いましょう。

この組織において、上司はあなたなのですから決めるのはあなたです。そのことで人間関係が悪くなったとしても、それは境界を乗り越えてきた相手の問題ですし、それを不安に思うのは、あなたが相手の進入を許してしまったことにほかなりません。

第32代米国大統領フランクリン・ルーズベルトの妻であり、女性活動家でもあったエレノア・ルーズベルトはこんな言葉を残しています。

「誰もあなたの許可なしに、あなたを傷つけることはできない」

自分が傷つくということは相手の行為を認めていること、つまり相手が境界を越えているのを自分が許していることです。傷つけているのは相手ではなく、相手の行為を受け容れている自分なのです。

私が鬱になったとき、私を責めていたのは相手ではなく自分でした。相手の行為で自分が傷つく必要はありません。人との間に境界線を引いて進入をストップさせましょう。

 

部下育成

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いつまで経っても仕事ののみ込みが悪い部下。どう指導していけばいいものか......。
仕事の締め切りをほとんど守れず、同じミスを繰り返してばかりの部下がいます。あまり細かく管理しても本人が伸びないし、メンタルも弱そうで強くは言えません。褒めて伸ばせばいいのか、叱って目を覚まさせればいいのか、指導方針を迷っています。
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●部下が持つ「正のかけら」に注目して、成長を促すのが上司の役割です

欠点ばかりの部下かもしれませんが、いいところもあるはずです。

アドラー心理学では「正の注目」「負の注目」という考え方を大切にしています。人の成長に最も効果があるのは、強みに気づいて伸ばす「正の注目」です。人はとかく悪いところに注目する「負の注目」をしがちですが、欠点を改善するのはものすごくエネルギーが必要です。

であれば、その人がもともと持っている資源や強みを使って、成長を促すほうがはるかに効率的です。

「その強みがないから困っているのだ」という声が聞こえてきそうですが、本当にそうでしょうか。

「正の注目」とは、その人の中にかすかにある「正の砂粒」、他の人が見つけられないような「正のかけら」を見つけることです。

ミスが目立つ部下ということですが、だとしたら「正のかけら」のヒントは、ミスをしていないときの「どこか」にあるかもしれません。

こんな例を聞いたことがあります。業績の悪い居酒屋にコンサルが入ったところ、目につくのは改善点ばかり。悪い点を指摘し、改善を促しましたが、業績は落ちる一方です。

その店に長所はほぼなかったのですが、唯一アルバイトの女性が一生懸命テーブルを拭いていたので、そこを良い点として報告したそうです。

すると報告書を見た女性が「テーブルを拭いていたのは私だ」と喜び、モチベーションをあげて働き始めたのです。彼女はミスが多かったので、店長はクビを考えていたのですが、試しに「君はこの店の宝だ。ミスしてもいいからテーブルを一生懸命拭いてくれ」と励ましたところ、1カ月したらミスがなくなり、3カ月後には後輩を教え、半年後には最優秀スタッフに選ばれていたそうです。

その人が持っている欠点に注目するのではなく、小さな「正のかけら」を見つけて、どれだけ伸ばすことができるか、それが上司であるあなたの役割ではないでしょうか。

 

役職定年後

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役職定年で、これまで経験してこなかった仕事をすることに。自分が無価値になったようでつらい。
役職定年で部署異動となりました。これまで経験のない仕事で勝手もわからず、同じ部署の若手からは「働かないおじさん」扱いされています。自分に価値がなくなってしまったようで、会社にも行きたくないと思うようになりました。
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●自分の価値を自分で認め、持っているリソースでできることを探しましょう

新しい職場に配属されたのなら、そこで必要な最低限のスキルは学ばなければなりませんし、上司にこの職場で自分が求められているものを確認することも大切です。

そのうえでの話ですが、周りから「働かないおじさん」に見られたとしても、だからといって存在価値がないわけではありません。

アドラーの考えに基づけば、人には存在価値と機能価値の2つの価値があると言えるでしょう。存在価値とは存在することそのものの価値、機能価値とは能力や生み出す結果に注目する価値です。

人は機能価値ばかり重視しますが、存在価値もある。その価値を自分がどれだけ認められるかです。

寝たきりの老人にも価値はあると言えるでしょう。ましてや職場で経験を積んだ年配者には年齢を重ねたなりの知恵や経験があるはずです。自分には価値があるという前提に立ちましょう。そして自分自身に「正の注目」をして、自分の中でできるものや使えるものを探して活かせるよう努力するのです。

アドラー派が提唱する「使用の心理学」とは、「何を持って生まれたのか」ではなく「持っているものをどう使うか」を重視します。つまり「所有」ではなく「使用」に注目するのです。

例えば豊富な人生経験を活かして、後輩のプライベートな悩みを聞いてあげてもいいでしょう。それで後輩が楽になるなら、経験というリソースを活かしたことになります。

たとえ周囲がそれを評価しなくても、他人がどう思うかは他人の問題であって、あなたの問題ではありません。他人はコントロールできませんから、あなたは自分がコントロールできる自分の行動を続けていくだけです。そして自分のリソースを使って、できることを探していく。人生とは「今あるものをどう使って生きていくのか」ということだけだと私は思います。

 

嫌な職場

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職場も仕事も嫌で、辞めたい気持ちがあるが、辞める勇気もない。どうすれば?
職場の人間関係がうまくいっておらず、仕事も日々淡々とこなしているだけで面白いものではありません。辞めたい気持ちもありますが、かといって、資格や際立った取り柄があるわけでもなく、どうやって食べていけばいいか不安があります。
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●辞めてもいいし、残ってもいい。大切なのは自己決定する勇気

仕事がつらいなら、辞めてもいいし、転職してもいい。もし辞めて生活していけなくなるのが怖いのなら、そのまま会社に残ってもいい。決めるのはあなた自身です。

困った状況に置かれたとき、人が取りうる行動は3つです。「ひどいあの人」の悪口を言い続けるか、「かわいそうな私」を憐れみ続けるか、それとも「これからどうするのか」を考え、行動するのか。アドラーの三角柱を思い出してください。

そして「これからどうするのか」を選んだのなら、バリエーションは無限にあります。会社を辞めて他の道を探すのも一つだし、その状況を受け容れて会社に残り、その中で突破口を探すのもありでしょう。

大切なのは、自分を被害者にしないことです。被害者になるから苦しいのであって、この状況は自分で決めて選んでいると思った瞬間から楽になります。

だから自己決定する勇気を持つのです。状況は変わらなくても、自己決定した瞬間から風景はまったく違うものになるでしょう。

私がかつて在籍したリクルートでも、業績があがらない人を厳しい状況に置くことがありました。辞めていく人もいれば、そのまま残る人もいました。私の同期でも会社に残り、今は年下上司のもとで地味な仕事を続けている人間がいます。

ある日、彼と一緒に飲んだとき、こんなことを言っていました。

「自分には家族もいるし、住宅ローンもある。だから会社を辞められないんだ。家族とローンのために、会社からクビと言われるまで、ずっと残り続けるよ。かっこ悪いけど」

その話を聞いて、私は彼をめちゃくちゃかっこいいと思いました。

人生は一つの物語です。その物語をつくっているのは自分自身。自分の人生を「かわいそうな私」「ひどいあの人」の物語にするのか、それとも自分で決めて選んだ人生にするのか、決めるのはあなたです。

 

任せられない

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プレイング・マネジャーとして、部下の仕事まで引き受けて頑張ってきたが、そろそろ限界......。
部下を持つ立場になりましたが、自分自身もノルマを持つプレイング・マネジャーです。部下が落とした仕事は自分が穴埋めせねばと、休暇も取らずに頑張っていますが(部下は休暇をしっかり取っている)、心身共に疲弊してしまいました。
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●部下を頼り信頼する勇気が、ヒーロー、ヒロインを育てる

あなたが一人で頑張っているのは、部下を信用していないからではありませんか。だから自分でやるしかない。しかしそれでは部下が育ちません。

心理学にピグマリオン効果とゴーレム効果という考え方があります。人は期待されると成長します。これがピグマリオン効果です。ダメだと決めつけると本当にダメになってしまいます。これがゴーレム効果です。

ゴーレムとは泥人形のこと。部下を信用しないあなたは、部下の成長を阻み、可能性を摘んでいるゴーレム効果を発揮してしまっているのです。

アドラー心理学では「困難を克服する活力」を勇気と呼んでいます。その勇気のもとになるのが、自分は人に貢献できるのだという実感です。

誰かから頼られたり、誰かに貢献できたりすると、人は勇気がわきます。 「あなたのおかげで助かったよ」と言われると勇気づけられ、幸せになります。アドラー心理学では勇気がある人生が幸福で、他で見つけることはできない、と言い切っています。

人間は一人では生きられない動物です。ですから誰かの役に立ち、自分の居場所を見つけたとき、勇気と幸せを得るのです。

人とつながっているという感覚をアドラーは「共同体感覚」と言っています。共同体の一員であり、そこに貢献できているという実感こそが幸福を呼びます。幸せな人生を送るには「共同体感覚」という視点が不可欠と言えるでしょう。

船乗りが海で迷ったとき、北極星を目印に自分の位置を判断するように、「共同体感覚」を軸にすれば、おのずと答えは見つかるはずです。

このままでは部下は育たず、あなたは疲弊し、会社にとっては最悪の結果となってしまいます。部下がすべき仕事を抱え込み、自分自身がヒーロー、ヒロインになるのではなく、部下を頼り任せることで、部下をヒーロー、ヒロインにしていくことこそがリーダーの本当の仕事なのです。

 

嫌なヤツ

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職場にいる嫌な人間。勝手に敵対心を持ち、貶めようとしてくる。ストレスがたまって仕方ない。
職場に、何事につけ、自分に敵対してくる人間がいます。こちらの発言に対しても、人前でも細かいミスをあげつらい、貶めようとしてきます。努めて関わらないようにしていますが、ストレスでなりません。
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●敵対してくる人間とは距離を置き、自己決定のトレーニングの場としよう

こういう面倒くさい人のことを、アドラー派は「競合的」な「縦(垂直的)の関係」な人と呼びます。

1本のロープをイメージしてもらうとよくわかります。ロープを登って上に行くには、自分の頭上の人間を叩き落とさなければならない。だから人のミスを執拗にあげつらい、貶めようとするのです。

でも本当に上に行きたいなら、互いに助け合う「協力的」な「横(水平的)の関係」のほうが有利です。人を叩き落とすより、助け合ったほうがより力が結集できるからです。

それでも横の関係に踏み切れないのは、その人に勇気がないからです。その勇気は、自分が役に立っている実感と仲間がいる安心感からわいてくるもの。あなたに敵対してくる面倒くさい人は、自分自身を「たいした仕事もできず、仲間もいない」と思っているのでしょう。

であるなら、その人に「あなたは役に立つことができますよ」「あなたは一人ではなく私が味方ですよ」と手を差し伸べてあげたらいい。そうすれば、彼は勇気づけられて、協力的な人間に変わるかもしれません。

でもそんな大変なことをあなたはやりますか? 私ならやりません。

もう一つの選択肢として距離を置く方法があります。物理的な距離が置ければそうするし、職場が同じで無理なら、自分と相手との間に境界線を引く心理的な距離を置きます。

大切なのは自己決定するということです。嫌な上司の隣に座り続けて、そちら側の顔にじんましんが出てしまった女性を知っていますが、「嫌なあの人」「かわいそうな私」をやっている限り、傷つくのは自分自身です。

あなたには会社を辞める、異動を申請するという選択肢があるのですから、それでも今の職場にとどまるのなら、それは自分が決めたことです。

面倒くさい相手との間に距離を置き、すべては自己決定の絶好のトレーニングと思って過ごしましょう。

 

高すぎる目標

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上層部から押しつけられた高すぎる数字目標。策は見えず、やる気もそがれる。
会社の目標達成のために、上層部から自分の部署にも、達成不能に思える数字目標が与えられました。商品や人のリソースも変わっておらず、厳しい市況の中で打つ手が見えません。「とにかくやれ」と言われても、かえってやる気がそがれてしまいます。
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●目標設定はあなたの仕事ではない。できることを自分で決めてやればいい

目標は高すぎるし、リソースは変わらないのだとしたら、あなたではなく他の人がリーダーになっても状況は同じだと思います。

やる気がうせるほど無理な目標設定ということですから、そもそも目標がおかしいわけです。しかし目標を設定するのはあなたではなく、経営側の仕事です。

アドラー心理学の前提である「課題の分離」で考えると、自分の課題にだけ集中して、他人の課題には余計な口出しをしないことが大切です。

まず、あなたの課題でないことは目標設定です。これは経営側の仕事です。

あなたは「目標が高すぎると逆効果です」と提案することはできますが、それを聞き入れるかどうかは経営側です。あなたに決めることはできません。

では、あなたの課題は何かというと「目標達成に向け努力すること」となります。しかし、どの程度やるかはあなたが決めること。必死にチャレンジしてもいいし、そこそこでもいいし、開き直って努力しない、という手もあります。大切なのは自分で決めること。そして、結末を引き受けることです。

「相手の課題」をなんとかしようとするから苦しいのです。「自分の課題」だけに集中して「相手の課題」を変えようとしない。できないことをしようとするから苦しいのです。Itʼs not my business。ポジティブなあきらめは大切です。

あなたは自分ができることの領域内で選択肢を決めればいいのです。最悪なのは、「ひどいあの人」「かわいそうな私」になることです。被害者になっている限り、苦しさからは逃れられません。

人は被害者の人生を送ることもできますし、自分で決めた人生を歩くこともできます。どんな人生を送るのもあなたの自由。

人生は自分で決めた者勝ち、私はそう思います。

 

著者紹介

小倉広(おぐら・ひろし)

(株)小倉広事務所 代表取締役

企業研修講師、公認心理師。大学卒業後、新卒でリクルートに入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、㈱小倉広事務所を設立、現在に至る。『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)などアドラー関連書籍8冊を含め、著作は50冊。累計発行部数は100万部を超える。

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