「定年」という言葉が現実味を帯びてくる50代、そしてまさにその時期を迎える60代。
この世代の方から、日々、お金に関するさまざまな相談を受けているという金融コンサルタントの川口幸子さんに、よくあるお金の悩みについて解説していただきます。
※本稿は、川口幸子著『投資経験ゼロでも老後を豊かにできる! 定年5年前に読むお金の本[超入門]』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。
多く寄せられるのが、「普通預金に置いたままだけど、何か運用したほうがいいのでしょうか?」というご相談。
特に、ご両親が「貯金こそが最も安全で確実」と郵便貯金などを活用していた場合、その姿を見て育った方にとっては、「投資」という選択肢に馴染みがありません。投資の必要性はわかっていながらも一歩踏み出せない、というケースも多いようです。
「本当は早くリタイアしたいけど、収入を考えると、いつまで働けば安心なんだろう」。そんな声もよく耳にします。長く働けば収入が増えることはわかっていても、体力的な不安や、自分の時間を大切にしたい気持ちとの間で揺れ動く。
また、お子さんがいる方には、生前贈与や相続など、次の世代へどう資産を繋いでいくのかも、大きな関心事となっています。
このような悩みや疑問が交錯するのが、今の50代、60代という世代です。まずはご自身の状況と向き合い、漠然とした不安の正体を探ることから始めましょう。
ご相談者から多く寄せられる質問について、お答えします。
Q.老後資金は、いくら必要?
A.必要な金額は人それぞれ。大切なのは「自分の状況を知る」ことです。
結論から言うと、老後に必要な資金額は、その人のライフスタイルや価値観、家族構成などによって全く異なります。メディアなどで見聞きする「〇〇万円必要」といった数字は、あくまで一般的な目安にすぎません。
大切なのは、「我が家の場合はどうなのか?」を知ることです。まずは自分の資産や家計の状況、「お金の現在地」を正確に把握する必要があります。
「必要な金額は人によって違うんだ」「だからこそ、自分の状況を知ることが第一歩なんだ」という点を、しっかり押さえておきましょう。
Q.年金だけで生活できる?
A.残念ながら、多くの人にとって年金だけでゆとりある生活を送るのは難しいでしょう。だからこそ「自分年金」をつくる意識が大切になります。
まず現実として、皆さんが受け取る公的年金の額を確認すると、「これだけでは足りないな」と感じるケースが多い、というのが私の実感です。
年金額は加入期間や働き方によって大きく異なるため、一概には言えません。「ねんきん定期便」などで受給見込み額を確認することが大切です。
その上で、もし「老後の理想の生活費」に年金収入だけでは届かないのであれば、その差額を自分で準備する必要があります。
そこで重要になるのが「自分年金」という考え方。これは、公的年金とは別に自分で老後の収入源をつくり、上乗せしていく発想です。現役時代からコツコツ資産形成を行い、それを老後資金として活用していきます。
「年金だけでは足りないかもしれない」という現実を冷静に受け止め、「では、どうやって自分で備えるか?」と前向きな発想に切り替えること。それが、「自分年金」づくりの第一歩です。
Q.55歳から投資なんて、もう遅い?
A.いいえ、決して遅すぎることはありません!
昔の55歳と今の55歳では、元気が全く違います。人生100年時代、残りの時間は想像以上に長いかもしれません。まだ働いて収入を得ているのであれば、その一部を投資に回すこともできます。投資期間が5年や10年であっても、何もしないより資産を育てられる可能性があります。
ただし、始めるにあたっては若い世代とは違う心構えも必要です。
1.まず「学ぶ・理解する」
投資経験の全くない方が、「とりあえず始めてみる」というのは、特にこの年代では避けたほうがよいでしょう。まずは、投資の基本的な仕組みやリスクについて、きちんと理解してから始めることが大切です。
2.「絶対」「必ず儲かる」を疑う
定年前後は、退職金などまとまったお金を手にする時期でもあります。そうしたお金を狙って、「絶対に損しない」「必ず〇%で増える」といった、うまい話を持ち掛けてくる人がいるかもしれません。しかし、金融の世界に「絶対」はありません。
3.「人」を信用しすぎない
「あの人が言うなら間違いないだろう」「知り合いの紹介だから大丈夫」
日本人に特に見られるのが、「人」を信用して、自分で調べずに判断してしまうことです。信頼している相手からの情報でも鵜呑みにせず、リスクはないのか自分で確かめましょう。投資はあくまで自己責任です。
更新:10月15日 00:05