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長年お世話になった取引先を切るに切れない...「情と理」どちらを取るべき?

2025年07月25日 公開

木村尚敬([株]経営共創基盤[IGPI]グループ共同経営者/マネージングディレクター)

修羅場のケーススタディ

「失敗を押し付けられた」、「とんでもない目標を課された」...。中間管理職は予期せぬ"修羅場"に直面することが少なくない。本当のピンチに追い込まれた時、あなたならどう立ち回るか?

本稿では、長年の付き合いがある取引先との関係を断ち切るという、中間管理職が直面しがちな難しい局面の乗り越え方について、書籍『修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のための30問』より紹介する。

※本稿は、木村尚敬著『修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のための30問』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

長年お世話になってきた取引先、今さら切るに切れない......

30年来の取引先であるA工務店。ただ、社員の高齢化もありコスト競争力が低下しており、正直、取引先を変えたほうがいいのは明確だ。しかしA工務店は我が社との取引がほとんどで、先方の社長からは「御社がなければもううちは廃業ですよ」とすら言われている。

しかし、社内のコスト削減圧力は強く、部門責任者としてこれ以上、放置することは許されそうにない。しかし、「コストダウン」の名の下に、人の仕事を奪うようなことがあっていいのだろうか......。

 

「情と理」が二律背反であるとは限らない

これもビジネスでは非常によくあるケースです。

特に地方の老舗企業となると、自社の顧客である工務店に社長のお姉さんが嫁いでいたり、役員のいとこが仕入れ先の会社の役員に就いていたりと、あらゆるステークホルダーと身内同然のつながりを持っているケースも珍しくありません。こうなるともう、人間関係にがんじがらめになってしまいます。

さて、このケースの論点は、「情と理のどちらを取るか」ということになっています。

ですが、「決断を先送りにする」のが「情」で、「取引先を切る」のが「理」だと、単純に言い切れるものでしょうか。私にはそうは思えません。

「決断を先送り」にしたところで、A工務店のコスト競争力が高まるようなことはない以上、いずれ廃業することは明らかです。

もし、その決断をギリギリまで引き延ばした結果、債務超過に陥るようなことになれば、A工務店の社長も従業員もむしろ不幸になってしまいます。社員は退職金ももらえず、社長は借金を抱えて夜逃げ同然で地元を追われるといった悲惨な末路を辿ることになりかねません。

つまり、「情」の選択が、必ずしも相手にとってプラスになるとは限らないのです。

一方、もし早いうちに廃業という選択肢を選べば、社員に退職金を払えるし、社長の手元にもいくらかの資産が残るかもしれません。

私だったら、A工務店に対して現状を包み隠さずに伝えた上で、「廃業」という選択肢も考慮に入れるべきではないかという話をするでしょう。それが結局、理にかなった話でもあり、相手に「情」をかけることにもなると思うからです。

 

取引先と「ズブズブの関係」になっていないか?

さて、このケースの背景には、もう一つ根深い問題があります。

A工務店の社長に対して「切りたくても切れない」と情に引きずられてしまうのは、言い方を変えれば、両者が仕事のつき合いを超えた「べったり」な関係だったからではないでしょうか。

たまに食事を共にするくらいならともかく、プライベートのゴルフや旅行にも一緒に行き、しかも相手にその代金を支払ってもらっている、などという関係になってしまえば、確かに切るに切れなくなります。

相手側も技術やコストで勝負できないからこそ、接待によって関係性を深めようと考えるわけです。自社の実力に自信があれば、取引先への過剰な接待など不要です。そう考えると、もしあなたが特定のどこかと「べったり」の関係にあるようなら、そのこと自体が問題かもしれません。

ビジネスにおける人とのつき合い方で重要なのは、適度な距離感です。少なくとも、ある程度の予算権を握る立場になったら、取引先との関係性はしっかりと見直しておくことが必要でしょう。

 

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