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「他に何か良いアイデアない?」では生まれない 相手の思考を促す質問

2025年08月06日 公開

グロービス,嶋田毅(グロービス経営大学院教員)

相手の思考を促す

「言いたいことを言葉にする」のは容易ではありません。多くのリーダーが以下のような課題を抱えています。

・指示があいまい:わかりづらいから人が思ったように動かない
・考えがまとまらない:要領を得ないから相手に伝わらない
・話の内容がフワっとしている:説得力がないから相手に刺さらない

このような課題を解決するために、数々のビジネスリーダーを育成してきたグロービスが「言いたいことを、瞬時に伝わる言葉に変換する25のトレーニング」を紹介します。本稿は「相手の思考を促す」レッスンです。

※本稿は、グロービス,嶋田毅著『思考力を高める 人を動かす MBA 言語化トレーニング』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

気づきを与える「最高の質問」

正方形の中に等間隔で配置された9個の点を4本の直線で結ぶ

人間は何かしら暗黙の前提を置き、その範囲で物事を考えます。たとえば何か新しい製品・サービスや事業を構想する場合、既存の経営資源(特に人材)をイメージしながら考える人は多いはずです。

ただ、考えてみれば、足りないリソースがあれば外部から調達したり、アライアンスなどを組んで相手のリソースを利用するという方法もある訳です。 
そのやり方のほうが顧客のニーズを満たしたり、困りごとを解決できる可能性が高いというケースは多いでしょう。

こうした思考の枠組み、表現を変えれば、暗黙においている前提を取り払うことは、まさに創造的な思考につながります。  

より卑近な例として、図5─3の右の図を見てください。「正方形の中に等間隔で配置されたこの9個の点を4本のつながった直線ですべて結ぶ」という課題を考えてみましょう。

皆さんはすぐに解けたでしょうか。
「どうしても5本ないと結べない」と思われた方も多いかもしれません。しかし、この問題は左の図のように考えれば簡単に解けます。
「5本必要だ」と考えた人が無意識に置いていた前提は「外側の正方形の範囲内で線を引かないといけない」ということでしょう。

ただ、このケースでは、文字通り枠を飛び出して(英語ではOut of Boxといいます)考えることで、なかなか発見しにくい解に至るのです。

ビジネスでは、それまでの常識を打ち破った製品・サービスやビジネスが多々存在します。 
たとえば、ダイソンの羽無し扇風機は、「扇風機とは羽を回して風を起こすもの」という既存の常識を疑った結果生まれました。

あるいは、ソニーのウォークマンは、「音楽は室内で聞くもの」あるいは「(当時)音楽再生機能しかない数万円の商品が売れるわけがない」の常識を疑った結果生まれたといえます。 

さて、こうした発想は個人でも大切ですし自問したいものですが、部下の指導においても重要な意味を持ちます。
比較的頭の柔らかい若い部下の創造力を高めることができれば、それは組織にとっても顧客にとっても良い結果をもたらす可能性が高まるからです。 

さて、部下を指導する際、最初から「こうしたほうがいいよ」という上司もいますが、常にそのやり方では部下は伸びません。
緊急で仕方がないといったケースは別ですが、いわゆるコーチングの手法で部下に考えさせるやり方を適宜用いると有効です。
つまり、上司が直接的に解やアドバイスを与えるのではなく、質問を通じて相手の気づきを促し、問題解決や目標達成のための行動を喚起するのです。

相手の思考を促す質問の考え方

たとえば、部下にある視点が欠けていると感じたならば、「これって考えるべきポイントはすべて押さえているかな?」と聞くといいでしょう。
あるいは、中途半端なところで妥協していると感じたならば、「どのくらいの時間考えてみた?」などと聞くと、部下に「この程度の思考投入では不足なんだ」と気づかせることができます。

優先順位に対する意識が低いようなら、「もし2つの施策しか実施できないとしたらどれを選ぶ?」などと聞いてみるといいでしょう。
図5─4に示したように、部下の課題を踏まえたうえで、部下に「あっ、そうか」「この視点はなかった」などと気づいてもらうことが大切です。

なお、コーチングにおいて、質問と同様に重要なのが傾聴の姿勢です。まずは部下の話を丁寧に聞き、彼らの思考パターンや感情などを理解することもおろそかにしないようにしましょう。

 

演習問題1

■設定

あなたは企画部の課長。部下のAさんの企画が過去の常識にとらわれていてあまりぱっとしません。相手が勝手に置いている暗黙の前提に気づかせるには、どのように話しかけるとよいでしょうか。
相手の状況:頭は良いし、企画案も平均的で悪くはないのだが、いつも平板になるきらいがある。

■回答例・解説  
まずはあまり良くない例です。

[NG例]
----------------------------------------------- 
うーん、他にアイデアはないかな?
----------------------------------------------- 

考えることを促していること自体はいいのですが、これではAさんもどう考えていいのかヒントが出ないでしょう。
既存の枠組みや相手が勝手に置いている常識を取り払う問いかけの例として、たとえば以下のようなものがあります。

[OK例]
-----------------------------------------------
Aさん、企画案お疲れ様です。ただこの企画だけど、これだと多くの人が同じことを考えそうだよね。たとえば、思い切って納期までの時間を半分にするとしたらどんなアイデアが考えられるかな?
----------------------------------------------- 

納期までの時間の半減は改善の積み重ねではできません。必然的にある程度イノベーティブな発想、ゼロベースの発想が必要になります。それまで当然やるべきと思っていたプロセスを大胆に止める、といった施策を考えることも必要でしょう。それを促すために、このように極端な条件をあえてつけてみるのは非常に効果的です。

-----------------------------------------------
たとえば思い切ってコストを3分の1にする方法を考えられるかな?
たとえば思い切って売上を3倍にする方法を考えられるかな?
-----------------------------------------------

先述の例と発想は同じですが、このような聞き方も時には効果的です。
他には以下のような聞き方もあります。

----------------------------------------------- 
Aさん、これって成功の定義を変えるとしたらどう変えられる?
----------------------------------------------- 

成功の定義を変えることは、自ずとそのための方法論も変えることにつながります。たとえば、「初年度売上高1億円」を成功と見なすのと、「LTV(顧客生涯価値)2億円」を成功と見なすのとでは、自ずとアプローチは変わるでしょう。  

成功というゴールの可能性をいくつか考えることで、手段に関するバリエーションにも目を向けてもらう工夫例です。

 

演習問題2

■設定

あなたは営業部の課長。若手の営業担当者Bさんを指導しています。ポテンシャルはあるのですが、どうしても商談の途中から「売りたい」意識が前面に出る傾向があります。
彼女に顧客視点を持ってもらうためにはどのような質問をしたらいいでしょうか。

■回答例・解説
以下は一般的な聞き方です。

[NG例]
----------------------------------------------- 
Bさん、あなたの営業のスタイルだけど、自分で改善したらいいと思う点はあるかな?
-----------------------------------------------  

これでも悪くはないのですが、何か工夫できないでしょうか。

[OK例]
-----------------------------------------------
Bさん、あなたの営業のスタイルだけど、もしお客さんが点数をつけるとしたら何点をつけてくれると思う?
-----------------------------------------------

おそらく「100点」と答える人は少ないでしょう。自分の営業成績が振るわないことを自覚している人であれば、「40点」などと答えるかもしれません。そのうえで、以下のように聞いてみるのです。

----------------------------------------------- 
じゃあ、残りの60点の原因は何かな?
どうしたらそれをクリアできそう?
-----------------------------------------------

この質問によってBさんは暗黙に置いている前提に加え、自分に足りない部分を多面的に考えることができます。施策の優先順位を意識させたいのであれば、以下のように続けてもいいでしょう。

-----------------------------------------------
じゃあ、まず何をすれば少なくとも65点には到達するかな?80点だとどう?
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■コツ・注意点

このような質問をする際には、部下の心理的安全性に配慮する必要があります。非難や批判のように受け取られる言葉遣いは避ける必要があります。それは相手の創造性を委縮させることにもつながるからです。質問で気づかせることの目的は、彼ら自身の思考の癖を明らかにし、新たな視点や可能性を探ることです。建設的な議論となるような聞き方を心がけましょう。

相手がすぐに思った答えが出せない時もありますが、あまり焦りすぎないようにすることも大切です。時間をかけながら、視点(角度やものを見る主体)や視座、視界を変えた質問をして、徐々に気づいてもらう粘り強さも大切です。

 

【グロービス】
グロービスは1992年の設立以来、「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」ことをビジョンに掲げ、各種事業展開を進めてきました。

「ヒト」の面では、学校法人としての「グロービス経営大学院」ならびに、株式会社立のスクール「グロービス・エグゼクティブ・スクール」「グロービス・マネジメント・スクール」、企業内研修事業を行うグロービス・コーポレート・エデュケーションとeラーニングやオンラインクラスのほか定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」などを提供するグロービス・デジタル・プラットフォーム、「カネ」の面では、ベンチャー企業への投資・育成を行うベンチャー・キャピタル「グロービス・キャピタル・パートナーズ」、「チエ」の面では、出版事業ならびにオウンドメディア「GLOBIS 学び放題×知見録」により、これを推進しています。
さらに社会に対する創造と変革を促進するため、一般社団法人G1によるカンファレンス運営、一般財団法人KIBOW による震災復興支援および社会的インパクト投資を展開しています。

企業サイト:
グロービス:https://globis.co.jp/
グロービス経営大学院:https://mba.globis.ac.jp/

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