
「言いたいことを言葉にする」のは容易ではありません。多くのリーダーが以下のような課題を抱えています。
・指示があいまい:わかりづらいから人が思ったように動かない
・考えがまとまらない:要領を得ないから相手に伝わらない
・話の内容がフワっとしている:説得力がないから相手に刺さらない
このような課題を解決するために、数々のビジネスリーダーを育成してきたグロービスが「言いたいことを、瞬時に伝わる言葉に変換する25のトレーニング」を紹介します。本稿は「暗黙知を言語化する」レッスンです。
※本稿は、グロービス,嶋田毅著『思考力を高める 人を動かす MBA 言語化トレーニング』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです

暗黙知とは、言葉で説明しにくい、あるいは言語化されていないコツやノウハウ、知恵のことを指します(以降はまとめてノウハウと表記します)。
たとえば、接客業の人であればお客さんのちょっとした表情の変化を見たり会話をすることで、対応を変えるということは普通に行っているはずです。
形式知はそれに対し、明確に言葉や数字、チャートなどで示されたコツやノウハウです。マニュアルはその典型です。形式知になったノウハウは他者に伝えることが容易ですから、人材育成などの際に非常に役に立ちます。特に定型業務においては、マニュアルをしっかり用意しておくことがセオリーです。
さて、ビジネスにおいては、暗黙知は極力形式知にするほうが好ましいとされます。個々人の暗黙知に頼る経営は、安定性や再現性を欠くことになるからです。
たとえば一人のスーパーセールスパーソンやスーパー企画者が抜けたとたんに、業績が下がるというのではやはり困りものです。 特定の個人に頼り切るのではなく、彼/彼女のノウハウを形式知として共有してもらうことが、仕事の再現性を高め、組織を成長させるうえで非常に大切なのです。
次稿で説明するコンピテンシーも、人材要件の形式知化といえます。
参考になるノウハウを言語や数字などの形で可視化することが、面倒なようでも組織全体として得られるリターンが大きいのです。
言語化のプロセスは図4─1になります。
すべての暗黙知を言語化するのは非効率です。組織にとって役に立つ暗黙知をまずは特定し、そこからノウハウをさまざまな視点から検討して具体化したうえで、対象者が応用しやすいような表現を工夫することが大切です。
■設定
あなたは実務書系の出版社の書籍担当編集者。初めて書籍を執筆する著者に文章を書かせるのがうまいと周りから評価されている。自分なりのノウハウを言語化したい。
■回答例・解説
次の文章はどうでしょうか。
[NG例]
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自分が意識しているのは次の点です。
・書きやすいところから書いてもらう:最初から筆が止まらないようにするためです
・まず少し書いてもらう:1冊の本は長いので、最初の章の半分程度を書いてもらいます
・筆が止まっていないか確認する:こまめに進捗状況を確認すると遅れは減ります
・褒めていい気分になってもらう:とにかく良い気分にさせることです
・早い段階で書けない人を見極める:ライターを用いたほうがいい人を早く見分けるためです
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ヒントはありますが、具体性が弱く、「形式知化した」とまでは言えなそうです。
たとえば以下のように書けば、より伝わるのではないでしょうか。
[OK例]
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私が普段意識している点、あるいは過去に先輩からヒントをもらって有効と思っている点を書いてみました。
・書きやすいところから書いてもらう:初めて書籍を書く執筆者が詰まるのは書きだしです。書きだしが思うようにならないと、そこで詰まってしまい、先に進まないというパターンが非常に多いです。それゆえ、想定目次の最初から書くことに拘るのではなく、本人が一番書きやすい部分からどんどん書いてもらうと、無為に時間が過ぎることを避けることができます。最初だけではなく、途中個所もどんどん飛ばして書きやすいところから書いてもらって構いません。あとで埋めればいいと伝えましょう。
・まずは5000〜1万字書いてもらう:弊社の書籍はだいたい7万字が標準です。7万字という文字数は初めての執筆者にはかなり重荷に感じる量です。その分量に圧倒されて筆が進まない人もいます。そこで、まずは5000〜1万字書くことを目指します。これは、それほど難しくはありません。そのうえで、彼/彼女に「いい感じですね!ここまで書ける人は最後まで行けるものです」とエンカレッジすると、前向きに取り組んでもらえることが多いです。まずは小さな達成感を持たせるようにするのです。
・きめ細かく連絡しサポートする:進捗状況はきめ細かく確認します。もし予定より遅れているようなら、何かサポートできることがないかを確認します。必要に応じて、その後の原稿の方向性についてアドバイスすると効果的です。プレッシャーをかけると逆効果なので、相手の事情をしっかり聞き、寄り添う姿勢を見せることが大切です。
フィードバックは建設的に:初めて書籍を執筆する人に厳しいフィードバックは禁物です。まずは良い点を褒めることが重要です。そのうえで改善したほうがいい点については一緒に考える姿勢を打ち出しながら相談に乗る形で議論すると著者のモチベーションも上がります。
・本当に書けない人を早めに見定める:経験上、どうしても文章が書けない人というのは10人に1人はいます。そうした人に書いてもらうのは時間の浪費です。最初の5000字から1万字程度を3カ月たっても書けない人ならば、ライターを起用して、聞き書きするほうが効率的です。
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このくらいのヒントがあれば、他の編集者も参考にしやすいでしょう。
■設定
あなたは法人向け商材のベテラン営業担当者。購買に大きな影響を与えるキーパーソンを見つけ出すテクニックを言語化したいと思います。特にどんな質問を窓口の相手に投げかけると効果的でしょうか。
■回答例・解説
効果的な質問例をいくつか提示してみました。質問例だけではなく、その狙いをセットで書いておくことで、他の人も応用しやすくなる工夫をしています。
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私の経験上、キーパーソンを見つけるうえで、窓口の人間に以下のような質問をすると効果的です。何度もこの聞き方で助けられました。皆さんの参考になれば嬉しいです。
「実質的に意思決定されるのは〇〇様という理解でよろしいですか?」
「〇〇様」の部分は固有名詞ではなく、「事業部長様」のような聞き方でも構いません。彼/彼女がすぐにアプローチできるかは別として、まずは最終決定者を確認しておくことは非常に大切です。
「購買決定にあたり、どなたの意見を一番参考にされることになりますか?」「その方にご同席いただくことは可能ですか?」
往々にして窓口の人間は、「私が決めます」といった反応をし、真のキーパーソンを教えてくれないことがあります。重要なキーパーソンを特定し、そのニーズを確認したり、アピールできることは非常に重要です。
「社内で反対されそうな方、あるいはその方に反対されるとお困りになる方はいらっしゃいますか?」
反対されて窓口の人間が困るということは、その人もキーパーソンである可能性が高いということです。たとえばユーザーの中でもベテラン社員などです。そうした人たちが重視するポイントを聞きだしたり、場合によっては同席してもらうなどができれば、訴求すべきポイントや、対策を考えなければいけない点なども明確になります。
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■コツ・注意点
暗黙知の形式知化に当たっては、1人だけでつくり上げるのではなく、他者と議論し、そのフィードバックを参考にするとより良いものが出来上がります。たとえば演習問題2で「質問例だけだと意図がわからない」というフィードバックを受けたら、それを反映させるなどです。事例を豊富に盛り込むことも有効です。
A社のケース、B社のケースなど、実際の活用事例(ユースケース)があるとイメージもしやすくなりますし、応用のヒントも得られます。
【グロービス】
グロービスは1992年の設立以来、「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」ことをビジョンに掲げ、各種事業展開を進めてきました。
「ヒト」の面では、学校法人としての「グロービス経営大学院」ならびに、株式会社立のスクール「グロービス・エグゼクティブ・スクール」「グロービス・マネジメント・スクール」、企業内研修事業を行うグロービス・コーポレート・エデュケーションとeラーニングやオンラインクラスのほか定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」などを提供するグロービス・デジタル・プラットフォーム、「カネ」の面では、ベンチャー企業への投資・育成を行うベンチャー・キャピタル「グロービス・キャピタル・パートナーズ」、「チエ」の面では、出版事業ならびにオウンドメディア「GLOBIS 学び放題×知見録」により、これを推進しています。
さらに社会に対する創造と変革を促進するため、一般社団法人G1によるカンファレンス運営、一般財団法人KIBOW による震災復興支援および社会的インパクト投資を展開しています。
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グロービス:https://globis.co.jp/
グロービス経営大学院:https://mba.globis.ac.jp/
更新:07月20日 00:05