
「ビジネスパーソンでもアスリートでも、自身のパフォーマンスを高めたいと考えている人が、まず取り入れるべきもの。それが睡眠戦略だ」──そう語るのは、睡眠改善指導で経営者やエグゼクティブ3,000人以上のパフォーマンス向上を成功させてきた超回復コーチ・角谷リョウ氏。ビジネスパーソンにとって、最強の武器となる睡眠法とは?
(構成:小笠原綾伽)
※本稿は、『THE21』2024年7月号掲載記事より、内容を一部抜粋・編集したものです。

2023年に第一三共ヘルスケアなどが展開した「年に一度の睡眠診断運動」によれば、ビジネスパーソンの平均睡眠時間は6時間9分。日本では、睡眠不足に悩まされる人が後を絶ちません。
私の元にも睡眠の悩みが多数寄せられ、ビジネスパーソン、経営者、スポーツ選手など、これまで約14万人の睡眠を改善するお手伝いをしてきました。
睡眠不足を改善することは、もちろん大切です。しかし私はそれ以上に、ビジネスパーソンにとって睡眠とは、パフォーマンスを最大化するための手段だと考えています。働き方や、置かれている状況、得たい成果によって、最適な睡眠を取ることができれば、睡眠は強力な武器になるのです。私はこれを「睡眠戦略」と呼んでいます。
私が推奨している睡眠戦略には、①短眠戦略、②快眠戦略、③長眠戦略、④二分割睡眠戦略、⑤多分割睡眠戦略、⑥フレックス睡眠戦略、⑦チーム睡眠戦略の7つがあります。この7つの戦略の中から、いまの自分にベストなものを選びましょう。
睡眠戦略を選ぶ際には、あらかじめ現在の睡眠状況を把握しておく必要があります。なぜなら、心身の健康面で不安を抱えている状況では、戦略をうまく使いこなせないからです。
まずは、医療機関でも使われている、「エプワース眠気尺度」と「アテネ不眠尺度」という2つのテスト(上図)をやってみてください。「エプワース眠気尺度」が4点以下、「アテネ不眠尺度」が3点以下なら、7つの睡眠戦略を選択するステップに進めます。
もしどちらかが及第点に達していない場合は、手首や腕などに装着して健康管理ができるウェアラブルデバイスを使って、日常的に睡眠の質を採点してください。
さらに、下図の「睡眠を改善する10のポイント」を習慣化しましょう。1週間~10日程度続ければ、睡眠の質は改善されるはずです。ウェアラブルデバイスで60点以上が取れるようになったら、7つの睡眠戦略を選択するスタートラインに立てます。

一つ目は「短眠戦略」です。睡眠時間を1日5時間前後に留め、日中の活動時間を増やす戦略です。この戦略に向いているのは、目標達成のために短期間に集中的に働いて、人並み外れた成果を得たい人です。
睡眠を短くすると日中のパフォーマンスが落ちたり、眠気でぼんやりしたり、健康に被害が及んだりしそうですが、正しく短眠を取れば、眠った直後から一気に身体、脳、メンタルの疲労が回復していきます。そして、起きている間はフルパワーで働き続けることができます。
短眠をするには、睡眠の質を最大限に高める準備が大切。音と光は徹底的に遮断します。カーテンの隙間や小窓から入る光、時計やエアコン、空気清浄機などに点灯する小さな光などはすべてカット。耳栓やノイズキャンセリングスピーカー、厚手のカーテンなどで物音も防ぎます。
また、寝返りしやすい寝具を選んで熟睡を促し、暑さ寒さで起きないように、室温に合わせて掛け布団を選びます。食事は寝る4~5時間前に済ませ、眠りの妨げになるお酒やカフェイン飲料は少量にして早めに切り上げます。
準備が整ったら実践です。これまで睡眠を7時間取っていたのなら、起床時間を30分早めてみます。目覚めた直後に強い眠気やだるさがなく、ウェアラブルデバイスで60点以上の睡眠が取れているなら、睡眠時間の短縮に成功です。さらに30分早めてみましょう。短眠に無理は禁物です。じっくり急がず数日かけて睡眠を短縮していってください。
また、日中に必ず15~20分のナップ(仮眠)を取ります。忙しい場合は10分のナップを1~3回でもいいでしょう。ナップを取るたびに溜まった疲れが回復します。
これで日中にバリバリ働けるようになります。しかし一方で、細かなミスが増えたり、攻撃的になったり、幸せや安らぎを感じにくくなるので、3年以上続けるのは避け、健康被害が出たらすぐに中止しましょう。
二つ目は快眠戦略です。7~8時間の質のいい睡眠を取り、心身の状態を整える戦略です。自由な発想や冷静な判断ができるようになるので、人生や仕事の質を底上げしたい人にお勧めです。
快眠を続けると、身体、脳、メンタルの疲労回復と進化が期待できるばかりでなく、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンとオキシトシンの生成が促されます。リラックス状態が保てるので、身近な人との関係性も良くなることが期待できます。
快眠は、ベストな睡眠時間を見つけることから始めます。一般的には7~8時間が最適と言われているので、まずは8時間寝てみて、無理なくすっきり起きられるか確認しましょう。
すっきりしないなら寝過ぎかもしれません。長く寝ればいいというわけではないので、8時間を起点に15分単位で短縮してみましょう。短縮するときは就寝時間をずらし、起床時間は固定します。
睡眠の質をさらに高めたいときは、寝る前のルーティンを作るといいでしょう。ルーティンのポイントは、眠気の邪魔をしない程度に頭を使うこと。ビジネス書などではなく、仕事に関係ない歴史や哲学の本を読んだり、続きが気になるドラマではなく、教養系や動物系、お笑いのテレビ番組を観たりするのがお勧め。10分瞑想もいいですね。
質のいい快眠が続くと常に多幸感に包まれるようになるのですが、一方で、人を信用しすぎてだまされやすくなるというデメリットがあります。また、努力やチャレンジをする意欲が薄れるので、他の睡眠戦略もバランスよく取り入れてください。
三つ目は長眠戦略です。起きている時間に自分をギリギリまで追い込んだうえで、10時間もの長い睡眠を取る戦略です。その道のスペシャリストになりたい人、スキルアップや急成長を促して大変革をもたらしたい人にお勧めです。
10時間寝ると、夢を見るレム睡眠をたっぷり取れます。つまり、夢の中でバーチャルトレーニングができるのです。起きている間に脳と身体が完全にシンクロするくらい思い切りトレーニングをしてから眠りに就くと、睡眠時にもトレーニングを続けている感覚が保てます。
トレーニングとは身体を動かすことだけではありません。脳をフル回転させる学習や記憶もトレーニングになります。外国語の勉強やプレゼンの練習をとことんしたあとに、「自分には必ずできる」と自分に言い聞かせて眠ると、効果絶大です。
長眠の実践には、周囲の協力が不可欠です。10時間の睡眠を確保するためには、夜9時に寝て朝7時に起きるといった生活になるので、周囲と生活リズムが合わなくなるからです。
さらに、長眠には夜の10時間の睡眠に加えて、1時間半~2時間程度の本格的なナップが不可欠。1日を通してこれだけ寝ていると、「ただの惰眠では?」と疑われてしまうので、そのぶん日中に、自他共に認める頑張りを見せる必要があります。
つまり、長眠に最も必要なのは、自分に厳しくなること。脳にこれまで以上の負荷をかける強い意志を持たなければなりません。誰もが認める頑張り、人間性があればこそ使える戦略なのです。
四つ目は「二分割睡眠戦略」です。夜9~10時頃にいったん3時間ほど寝て、深夜に起床して3時間活動し、朝4時までに再び入眠して3時間眠るというように、睡眠を二分割する戦略です。小学校低学年以下の子どもを育てているビジネスパーソンに特にお勧めの戦略です。
日本の子どもたちは諸外国と比べて睡眠時間が短いと言われているのですが、特に共働き家庭においてその傾向が強くなります。睡眠時間が十分に取れている子どもは学力がアップすることが知られているので、子どもが眠くなる時間に一緒に眠ってしまえば、自分の疲れも取れるし一石二鳥です。
また、一度目の睡眠後の深夜の3時間の活動時間には、いつもよりクリエイティブになれるので、ワクワクした時間を過ごせます。
二分割睡眠の方法は簡単。夕食を食べ、お風呂に入り、夜9~10時に就寝し、3時間後に起きるだけです。オンとオフの切り替えをはっきりさせるために、寝るときはパジャマ、起きたら部屋着に着替えるのがポイント。
また、朝4時までに二度目の就寝をします。就寝前に小さなケーキやアイス、お菓子などを一口食べたり、温かいハーブティーを一口飲んだりすると、睡眠モードに入りやすくなります。
もし寝そびれてしまっても、お昼休みに25分のナップを取れば疲労は回復します。
五つ目は多分割睡眠戦略です。夜にまとめて睡眠を取るのではなく、短い睡眠を1日に何度も取る戦略です。この戦略は、新生児を育てている人や、昼夜問わずクライアントからの突発的な依頼がある不規則な仕事をしている人にお勧めです。ただし、長く続けると知的で創造的な活動ができなくなったり、健康被害が出たりするので、長期的に続けるのは避けます。
この戦略を実践するためには、「睡眠は夜まとめて取るものだ」という常識を捨てる必要があります。「夜まとめて眠る」から、「1日のうち、どこかで3時間ぐっすり寝る」と意識を切り替えると、眠れないストレスを軽減できます。
多分割睡眠では、「3時間の主睡眠」と「15分程度のナップ」を繰り返します。昼夜問わず、「ここなら3時間寝られる」というときに寝てください。ポイントは、眠くなってから寝るのではなく、眠れるときに寝ること。たとえ睡眠時間が短くても、ときどき15分の仮眠を挟み込めば、脳を休めることができます。
六つ目はフレックス睡眠戦略です。「朝起きて、昼活動して、夜寝る」という思い込みを捨てて、昼夜問わず、就寝・起床時間を自分で能動的に決める戦略です。
1日の時間割を自由に決めることができるので、オーダーメイドの睡眠サイクルを獲得できます。ずっと朝型だった人が夜型にした途端、パフォーマンスが上がるということは、意外とよくあることです。
フレックス睡眠をするためには、1日のうちで最もエネルギッシュに活動できる時間帯を見つけます。そこから逆算して、まずは就寝時間を決めます。決めた就寝時間がいまより遅いならスムーズに移行できますが、いまより早くなるときは30分ずつ前倒ししていきます。
起床時間を変更した直後は、時間通りに起きられないこともあるでしょう。そんなときは、入眠前に起床時間を強く意識するとすんなり起きられるものです。
七つ目はチーム睡眠戦略です。自分が率いるチーム全員が質のいい睡眠を取ることで、チームの生産性を最大に引き上げる戦略です。特にリーダーや経営者にお勧めです。
ただ、睡眠はプライベートな領域のことで、たとえリーダーであっても介入できません。
そこで、まずは自分が積極的に職場でナップを取ってみてはいかがでしょう。部下の前でアイマスクをして、昼休みに10~15分程度寝てみてください。メンバーにアイマスクをプレゼントするのもいいですね。
チームの理解が進んだら、昼休み後半の25分、職場の照明を落としてナップタイムにできれば最高です。さりげなく、睡眠の良さを伝えることで、チームメンバーの睡眠の質を底上げしていきます。

以上7つの睡眠戦略をご紹介してきましたが、採用してみたい戦略はありましたか? 実践したいものがあれば、できれば1カ月は続けると、その効果を実感できるはずです。
ビジネスパーソンとして、人生には様々なステージがあります。その時期によってベストな眠り方を選び、よりよく働ける心身を養っていけば、パフォーマンスはいくらでも上げることができます。ぜひ睡眠を武器として使ってみてください。
【角谷リョウ(すみや・りょう)】
160社以上、14万人以上のビジネスパーソンの睡眠改善をサポートしてきた上級睡眠健康指導士。日本睡眠学会会員、日本認知療法・認知行動療法学会会員。神戸市役所を退職後、トレーナーとして独立。「運動」「食事」「睡眠」の改善サポートを行なう中で、特に「睡眠の改善」の重要性に気づき、睡眠改善に特化する活動にシフト。著書に『働くあなたの快眠地図』(フォレスト出版)、『一日の休息を最高の成果に変える睡眠戦略』(PHP研究所)などがある。
更新:06月26日 00:05