THE21 » ライフ » イライラ、寝起きがだるい...「働きすぎている人」にでる体の危険信号

イライラ、寝起きがだるい...「働きすぎている人」にでる体の危険信号

2024年07月24日 公開

根本裕幸(心理カウンセラー)

頑張りすぎてしまう人が注意すべきこと

心身に良くないとはわかっていても、つい深夜まで働いてしまう──そんなミドルは少なくない。『THE21』2024年1月号では、「頑張りすぎ」を抜け出すための2つの習慣術について、心理カウンセラーの根本裕幸氏に話を聞いた。(取材・構成:川端隆人)

※本稿は、『THE21』2024年1月号特集「なぜか「いいこと」が起こる人の小さな習慣」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

「不安の習慣化」が頑張りすぎを引き起こす

職場によくいる、つい頑張りすぎてしまう人。読者の方の中にも、いらっしゃるかもしれません。その原因は、たいてい不安と恐れにあります。例を挙げれば「完璧に仕上げないと、上司の期待に応えられない」「結果を出さないと、今の地位を維持できない」といった感情です。

そんな中で、もっといい結果を出すために、もっと頑張らなくては......というプレッシャーから、オーバーワークになる人が多い。皆さんも、一度はそうした経験があることでしょう。この意識がさらに進むと、「まだ頑張りが足りない」「結果を出せていない」「自分はダメだ」という自己否定にまで進んでしまう人もいるわけです。

こう考えると、不安と恐れに呑まれ、自己否定まで進んでしまう傾向のある人というのは、なにも昨日今日でそうなっているわけではありません。基本的には、人生のもっと早い段階から不安と恐れを抱えて生きてきた場合が多いのです。

子どもの頃から「親からの期待、先生からの期待に応えなければ」「受験で結果を出さなければ」といったプレッシャーを感じ続け、そのまま就職して現在に至っている。そしてその意識を会社に入った後も持ち続けてしまい、40代・50代になった今では、こうした不安と恐れで己を動かしすぎることがすっかり「習慣」になってしまっている──そう理解しておくのが正しいだろうと思います。

それに加え、世代が上がると共に、程度の差はあれ社内での立場は上がり、責任やプレッシャーも重くなります。この状況から脱するには、気長な取り組みが必要なことは理解しておくべきでしょう。

 

「少し値の張る予定」を入れ時間で仕事を切り上げる

では、頑張りすぎや自己否定の習慣を脱するには、まず何から始めればいいのでしょうか。

その最初の一歩としてお勧めしたいのが、オフの時間を強制的に作ることです。週に一度で構いませんから、平日の夜をあらかじめ「オフ」にしてしまいましょう。例えば、ジムのパーソナルトレーニングやゴルフの個人レッスン。女性の方ならエステなどの選択肢もあります。個室サウナや、映画の予約を取る、などのやり方もいいでしょう。

とにかく、時間が決まっていて、なおかつ単価がそれなりに高く、すっぽかしたら「もったいないな」とダメージを受けるくらいのものにしてください。こうした予約を入れることによって、その時間が強制的にオフになります。

頑張りすぎるタイプにありがちな「毎日21時や22時まで普通に仕事をしてしまう」といった事態を防ぐことができるのです。

こうしておけば「あとちょっと、これだけ済ませてから帰ろう」「部下から相談のチャットが来たから、返信だけ」などと、ずるずる仕事をしてしまうこともなくなります。つまり、「時間が来たら強制的に仕事スイッチを切る」という習慣をつけるということ。まずは、ここから始めてみてください。

 

普段と違う人間関係で自分を客観視する

そしてもう一つ、ぜひ試していただきたいのが、仕事とはまるで違う世界の人間関係を充実させること。例えば、学生時代の友人と久しぶりに会ってみたり、町内会のような地域のコミュニティに顔を出してみたり、といったことですね。新しい趣味を持ち、その集まりに参加する、などもお勧めです。

ポイントは、日常的に接する人たちとは違う、言わば「違う世界で生きている人」と交流する機会を設けることです。会社勤めの方にとっては、フリーランスや商店主といった人たちなどが当てはまります。こうした人との交流こそ、とても良いリフレッシュになるのです。

というのも、それが自分を客観的に見るための、絶好の機会になるから。不思議なもので、頑張りすぎている人の周囲には、同じくらい頑張りすぎている人が集まるものです。

普段会わない人に「大変な仕事ですね」「ちょっと、働きすぎじゃないですか」と驚かれて、そこで初めて自分がオーバーワークだったと気づく、なんてこともよくあります。また、利害関係がない分、愚痴などを吐き出しやすい、というメリットもあります。

もちろん、仕事とはまったく関係ない話を楽しむこと自体も、いいストレス解消になるでしょう。私自身、久々に学生時代の友達を集めて飲んだら驚くほどスッキリした......といった話は、相談に来る方々から驚くほどよく聞きます。

学生時代の仲間を久々に飲みに誘うも良し、ちょうどいいコミュニティがなければ、近所に「行きつけの店」を見つけ、そこに通うという手もあるでしょう。いずれにせよ、ぜひ「普段とは違う人間関係」に飛び込むことを、日頃から意識していただければと思います

 

イライラするのは、オーバーワークの危険信号

ここまで読んで「自分は頑張りすぎというほど頑張ってはいないから、大丈夫だろう」「本当に努力している人に比べたら、自分のストレスなんて」......などと思っていませんか? 実は、相談に来た方に「頑張りすぎでは?」と聞くと、ほとんど定型文のようにこうした答えが返ってきます。オーバーワークの人に限って、それを認めようとしないものなんです。

ですがそれでは、ようやく無理をしていたことに気づいたのは、大病で倒れたとき......なんてことになりかねません。それを防ぐためにも、自分の「疲労」「ストレス」のバロメーターを知り、日常的に意識しておく必要があります。

前述のように、普段会わない人に「頑張りすぎじゃない?」と指摘してもらうのも有効な手段ですが、セルフチェックが可能な基準も持っておくことが肝要です。私が相談に来る方々の状態を判断する際には、次に挙げる2つのことを重視しています。

一つは、些細なことにイライラしてしまわないか、ということ。例えば、駅のホームでちゃんと並ばない人を見ただけで、無性にいら立ってしまう。朝、お隣さんに挨拶をしても返ってこなかったときに、「気づかなかったのかな」と流せずに、「無視された」と突発的に怒りを感じてしまう......。

そんな「突発的イライラ」は、頑張りすぎ(=過労で疲労とストレスが一定ラインを越えている状態)による、メンタル悪化のサインかもしれません。以前相談に来られた方の中にも、「人混みにイライラするあまり、朝は渋谷のセンター街を通れない。かなり遠回りして通勤している」とおっしゃった方がいました。

普通の状態であれば、たいていの人は、多少マナーの悪い空間でも素通りして通勤することができるはずです。最近やけにイライラすることばかり、と感じたときは、周囲ではなく自分が「頑張りすぎ」に陥っていることを、疑っていただけたらと思います。

 

「朝、身体が重い」は当たり前ではない

もう一つ、サインとなり得るのが「睡眠」です。寝つきが悪い、途中で目が覚めてしまうなどの不眠症状はもちろん、たとえ眠れていても、朝「疲れが取れていない、身体が重い」と感じたら要注意です。

中年以降になると「起きたときから疲れている」なんてよくあること、と思ってしまいがち。しかし、本来は「目覚める=休息完了」が基本です。毎朝、起きたときが一日で一番元気でなければおかしいのです。

忙しい平日なら、単なる睡眠不足という可能性もありますが、十分に眠ったはずの休日の朝、元気いっぱいで起き出すことができないとしたら、頑張りすぎている可能性が大だと思ってください。

忙しい日常の中でも、今挙げた「イライラ」と「睡眠の質」の2項目だけは、最低でも週1回は振り返る習慣をつけましょう。そうすれば、自分の「頑張りすぎ」に、自分で気づいてあげることができるようになると思います。

そして、もし自分が「頑張りすぎ」だと気づき、強制オフなどの習慣を取り入れ始めたら、少なくとも3カ月は継続してください。長い時間をかけて染みついた「習慣」を改めるのですから、改善にも時間が必要です。

その際は、日常的な取り組みに加えて、週末や長期休暇に温泉へ出かけたり、スキーやキャンプを楽しんだり、などの「転地療法」的な方法も有効。日常から離れることで、ストレスを効率良く解消し、頑張りすぎるクセをリセットする効果が期待できます。

まとめて休暇を取るのが難しければ、近場のホテルに泊まるだけでも効果があるもの。週末だけパソコンやスマホを遠ざけるデジタルデトックスも、手軽に「非日常」を体験できる方法としてお勧めです。

 

「頑張る」のではなく「自分の機嫌を取る」

この仕事をしていると、よく言われるのが「自己肯定感を上げるために、何をすればいいのか?」ということ。確かに、働きすぎる人や自分を責めすぎる人にとって「自分で自分を認めてあげる力」を養うことは重要です。これについては著書で詳しい方法を紹介していますから、興味がある方は参考にしてみてください。

ただ、多くの方から相談を受けていて感じるのは「自己肯定感を上げる前に、まずストレスを抜くべき」ということ。自分の心に余裕がなければ、なかなか自己評価は高まりません。

こうして「自己肯定感」という言葉に注目が集まるのは、心理カウンセラーとして嬉しいことですが、それを高めるステップに進むためには、その前に長年の「不安・恐れ」「オーバーワーク」「自己否定」といった習慣から抜け出す必要があるのです。

また、頑張りすぎるタイプの方の場合、「自分を休ませ、余裕を取り戻そうとして頑張ってしまう」という例も少なくありません。例えば、「週に一度は、絶対にオフの夜を作らなくては!」「社外の人と交流しなくては!」というように......。

ですが、そんな義務感で取り組んでしまうと、かえって効果はあがらないもの。ぜひ「頑張らない」ことを意識してみてください。基本的に、自己肯定感は自分の気分を良くしてあげるほど高まります。頑張るのではなく、自分の機嫌を取ってあげる。義務をこなすのではなく、気分のいいほうを選んでいく。そんな意識で、緩やかに取り組んでいただければと思います。 

著者紹介

根本裕幸(ねもと・ひろゆき)

カウンセラー

1972年生まれ、静岡県出身。97年より神戸メンタルサービス代表・平準司氏に師事し、2000年にプロカウンセラーとしてデビュー。以来、延べ1万5,000本以上のカウンセリングをこなす。03年からは年間100本以上の講座やセミナーに登壇。15年に独立し、以降はフリーのカウンセラー・講師・作家として活動中。『敏感すぎるあなたが7日間で自己肯定感をあげる方法』(あさ出版)など著書多数。

THE21 購入

2024年9月号

THE21 2024年9月号

発売日:2024年08月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

医師が語る、40代からの健康診断で必ずチェックすべき「4つの数値」

森勇磨(産業医/内科医)

残業続きの人は“常に酩酊状態”かも...精神科医が説く、睡眠不足の悪しき影響

樺沢紫苑(精神科医)

容姿の衰えの原因にも...「脳の老化が早い人」がしているNG習慣

加藤俊徳(脳内科医/医学博士/加藤プラチナクリニック院長)
×