中小企業診断士として独立開業する際、ただ「食べていければいい」と自嘲気味に語られることは多いものです。しかし、クライアントと対等なパートナーシップを築き、真に価値を提供するためには、自身のビジネスを成功させ、相応の収益を上げている実績が不可欠となります。
独占業務がないゆえに「稼ぎにくい」と見られがちな中小企業診断士が、年収1億円を達成するには? 書籍『中小企業診断士になって「年収1億」稼ぐ方法』より解説します。
※本稿は、長尾一洋著『中小企業診断士になって「年収1億」稼ぐ方法』(KADOKAWA)より内容を一部抜粋・編集したものです
中小企業診断士のクライアントは、企業の経営者です。私たちのドメインは、業績アップ提供業であり、経営体質強化業であり、経営コンサルティングです。
にもかかわらず、中小企業診断士の中には、独立後に「食えればいい」「生活できればいい」といった考え方に甘んじる人が少なくありません。
自分自身がそんな状態であれば、クライアントの経営者や社員に対して「もっと頑張って給与や賞与を増やしましょう」「もっと業績を上げましょう」と本気でアドバイスをすることは難しいと思います。
補助金や助成金の申請代行のような定型業務ならともかく、一般の企業や個人事業主が求めているのは、実際に利益を出し、稼ぐ方法です。
売上を伸ばし、しっかりと利益を上げている実績がなければ、企業経営のプロとしての説得力は大きく損なわれます。
さらに、事業拡大のために人を雇うことに抵抗を感じ、事業をセーブする中小企業診断士も見受けられます。しかし、実際の企業は人を雇い、組織として成長していくものです。
もし自分自身が「人を雇うと大変」と感じ、事業拡大に消極的であれば、経営者の「人材問題」への相談にどのような具体的なアドバイスができるのでしょうか。
実践していないのに、ただ教科書通りの「正解」を持ち出して指導し、報酬を得るのは、中小企業診断士としての本来の使命を見失っていると言えます。
そのような人には、フリーランスや個人事業主専門のコンサルタントになってほしいものです。普通の企業は、人を雇って仕事をしているのです。多くの企業が人の問題で困っています。中小企業診断士に人の問題をどうするべきかと相談することも多いはずです。
中小企業診断士は、企業経営のプロとして、クライアントと対等に渡り合い、実際に稼いで実績を上げた経験をもって、経営者にアドバイスを提供することが求められます。何のために中小企業診断士になったのか、当初の志を思い出し、自らが実践者として模範を示すことが必要です。
結局のところ、クライアントに「もっと頑張って稼ぎましょう」と本気で提案するためには、自分自身がそれを実現できるプロフェッショナルでなければならないのです。皆さんも、自分の原点を見失わず、何のために中小企業診断士になったのか、思い出してほしいものです。
公的支援業務や協会や先輩診断士からの仕事を顧客開拓のきっかけ作りとしてやるべきだという考え方があります。ですが、あまり儲からないだけでなく、取っつきやすい営業方法に頼ったものであり、自分が本気で顧客開拓をしない言い訳だと思います。
たとえば、私自身の経験として、診断協会から依頼された銭湯(公衆浴場)の経営状況調査では、年に1回、銭湯に足を運び、経営状況をヒアリングして報告する仕事でしたが、決算書がない個人事業者の確定申告の控えを見ながら収益状況をチェックするだけでした。これでは、次につながる顧客開拓のきっかけにはなりません。
また先輩診断士に紹介された資格学校の講師の仕事は、中小企業診断士の受験講座で、報酬は驚くほど低く、おそらく独立していない企業内診断士がアルバイト感覚で行うものでした。
同様に、専門学校での講師業務も、若者向けの授業であり、顧客開拓には全くつながらず、報酬も低く、発展性に欠けるため、結局は後輩に引き継ぐ形になってしまいました。 このように、中小企業診断士資格があれば、公的支援業務や講師などの仕事ができるものの、これだけに頼っていては「食えるか食えないか」レベルの収入しか得られません。
はじめは、「勉強になるし、経験にもなるし、少しでも報酬が出るし、顧客開拓のきっかけにもなる」と思って取り組むかもしれません。ですが、多少なりとも勉強にはなるのでやること自体は否定をしませんが、これらは事業につながるものにはなり得ませんし、「年収1億」には到底つながりません。
中小企業診断士として独立開業する際、狙うべきクライアントは自分がターゲットとする業種、エリア、規模、経営テーマなどで明確に絞り込むべきです。
はじめは、「どんな企業でもいい」と考えてしまいがちですが、そうしてしまうと長期的に続く顧客関係が築けず、自分の強みも十分に発揮できません。
たとえば、仕事を獲得するために、人脈作りを目的とした異業種交流会に参加したり、紹介を頼んだりする人がいます。私も実際、怪しい異業種交流会に参加してマルチ商法に引っ掛かりそうになったこともあります。
JC(青年会議所)に入会している知り合いの経営者から「JCは会費が高いから法人会に入れ」と言われて、青年部などのイベントに参加したりもしました。
しかし、仕事目当て、人脈目当てで来ているのがバレバレで、名刺交換だけして終わってしまい人脈なんてできません。
仮に意気投合して仲良くなったとしても、友人感覚になってしまい、こちらを「先生」「経営コンサルタント」として認識せず、お友達価格を期待してくるのです。
そこから紹介で仕事が増えても同じようなことになります。本来、クライアントを紹介されるのは、とても有効な営業ルートなのですが、このようなケースでは紹介価格を期待されてしまいます。中小企業診断士が民間企業相手に経営コンサルティングをする際には、「先生」として一定のリスペクトを持ってもらう必要があります。便利屋のような扱いになってしまうと、何をアドバイスしても受け入れてもらいにくいわけです。
目先の売上にはなっても、そのようなクライアントを増やしてしまっては、自分の限られたリソースを無駄遣いすることになるのです。
私自身も便利屋的な仕事や頼まれたことは何でもやってきました。社長との飲みやゴルフにも一緒に行きました。顧客の紹介もしてもらい、創業時に大変お世話になりましたが、そこから先の発展性はありませんでした。
クライアントはこちらが選ばないといけないのです。狙った企業、狙ったゾーンにこちらから営業をかけることで継続的かつ発展性のある関係が築けるのです。
更新:07月04日 00:05