
部下に仕事を任せられず、自分で何でもやろうとして、毎日遅くまで残業続き...。そんな管理職は少なくない。なぜ上司は部下に仕事を任せられないのか。どうすればマインドを切り替えて「任せられる上司」になれるのか。中間管理職へのコンサルティングを手がける吉田幸弘氏に、その具体的な解決策を聞いた。(取材・構成:塚田有香)
※本稿は、『THE21』2024年6月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。
部下に仕事を任せれば、自分の仕事が減って早く帰れる。
理屈ではわかっていても、なかなか部下に任せられず、大量の業務を抱え込んでしまう管理職は少なくありません。私もリーダー向けの研修や講演を行なう中で、「任せられない上司」の事例を数多く見てきました。
本人たちに「なぜ部下に任せないのか」を聞くと、様々な声が返ってきます。
「自分でやったほうが早い」「若手に任せて失敗されたら困る」といった実務に関する理由もあれば、「部下の力を借りるなんて上司として情けない」「任せた部下が自分より高い成果を出したら、『あの上司は仕事ができない』と馬鹿にされそう」などと立場やプライドを気にする人もいます。
また、「仕事を任せると嫌がられるのではないか」と部下への配慮から任せられないケースもあります。
しかし、リーダーが仕事を抱え込むことは、本人にとってもチームにとってもデメリットしかありません。
長時間労働が続けば心身に疲労が蓄積し、パフォーマンスは落ちます。「自分でやったほうが早いし、失敗がない」と本人は思っていても、実は仕事の効率や品質は低下しているのです。
また、疲れてストレスが溜まると、イライラして部下に感情をぶつけてしまったりして、周囲との信頼関係が崩壊してしまうことも。そうでなくても、上司が怖い顔で忙しそうにしていると、部下は声をかけづらくなり、わからないことがあっても相談や質問ができず、仕事が止まりがちになります。
リーダーが仕事を抱え込むと、職場の心理的安全性が失われて雰囲気が悪くなり、チームの生産性は下がる一方なのです。
上司が常に時間に追われていると、想定外の事態やトラブルが発生したときに対応する余裕がないのも問題です。
いつも目の前の仕事をこなすのに精一杯で、新しい企画や長期的な施策を考える余裕もありません。イレギュラーへの対応や、ビジネス全体を俯瞰した計画や戦略の策定こそリーダーが担うべき重要な仕事ですが、余計な仕事を抱えすぎているために本来の役目を果たせないのです。
さらに大きな弊害は、部下が成長できないこと。
部下に簡単な仕事や同じ仕事ばかりやらせていると、スキルや経験値は伸びません。部下も新しいことに挑戦する意欲を失い、与えられた仕事を最低限こなせばいいと考えるようになります。
チームの業績はメンバーが出す成果の総和で決まります。いくらプレイヤー時代に優秀だった上司でも、一人で出せるパフォーマンスには限界があります。部下が成長しないとチームの業績も伸びず、結局は上司の評価も下がることになります。
まずはこうしたデメリットを自覚することが、「部下に任せられない上司」を抜け出す第一歩となります。
それでもマインドを切り替えられない人には、「部下に任せると本当に問題があるのか?」を冷静に検証することを勧めます。
「部下が失敗したら取引先を失うかもしれない」と思うなら、「どんな失敗をすると取引先を失うのか」を書き出してみましょう。
すると「取引先を怒らせる気がする」「担当者が変わるとお客様が不安に思う気がする」といった漠然としたものばかりで、「こんな失敗をしたら必ず取引先を失う」と断言できるものはないことに気づくはずです。
次に、「過去に部下の失敗が原因で取引先を失ったことがあるか」を考え、ある場合は何が原因だったかを振り返りましょう。これも「考えてみたら部下のせいではなく、会社の在庫管理体制に根本的な問題があった」など、別の原因が見えてくることがよくあります。
つまり、「部下に任せると失敗する」というのは、大半が単なる思い込みなのです。
それでもまだ不安なら、自分が部下だった頃を振り返ってみてください。
自分自身も上司に仕事を任せてもらったから成長できたのだ、と気づくでしょう。「そういえばこのクライアントも上司から引き継いだんだったな」と思い返してみれば、部下に対しても同じように振る舞うべきだと思えるはずです。
「部下に任せてばかりだと、仕事ができない上司と思われるのでは」と心配する人も多いのですが、それも誤解です。部下は上司を業務量や忙しさで評価するのではありません。上司が部下に馬鹿にされるのは、次の三つを失ったときだけです。
1つめは平常心です。イレギュラーな事態が起こったときに、動揺してオロオロしたり、「どうなってるんだ!」と部下を怒鳴ったりする上司は、「あの人はダメだね」と陰口を叩かれます。
2つめは決断力です。部下から相談を受けたときに「今は難しいかも」「社長がダメって言ってるらしいんだよ」などと言い訳して決断できずにいると、「この上司は何のためにいるんだろう?」と白い目で見られます。
3つめは全体を把握する力です。先ほど述べたように、リーダーはビジネスやチームの全体像を捉えて先のことを考えなくてはいけません。部下の作った資料一つを確認する際も、「フォントサイズは11じゃなくて12にしろ」「グラフの色をワントーン落とせ」などと細かいことばかり指摘するだけの上司は、部下に煙たがられます。見るべきは、資料全体のバランスやメッセージ性なのに、部分的なことしか見れていないからです。
裏を返すと、これら3つさえ常に保っていれば、部下は上司を信頼します。
非常事態でも冷静さを失わず、落ち着いて対処する。部下の相談に対して決断を下し、自分に権限がない場合はさらに上の上司に掛け合って結論を出す。事業に関する知識を広く学んだうえで、チームや顧客の状況を把握し、部下に対して大きな方向性を示すことができる。
そんな上司なら、普段は部下に仕事を任せて暇そうにしていいても、「いざとなったら頼りになる」と周囲もわかってくれるので、部下からの信頼を失うことはありません。
「仕事を任せると部下に嫌がられるのでは」と不安に思うのは、部下に仕事を頼んで断られた経験がある上司に多いようです。
しかしそれは、たまたま作業量の多い仕事を抱えていたり、急ぎの仕事に追われていて物理的に引き受けるのが難しかっただけという場合がほとんどです。
むしろ部下は「この前は断ってしまって申し訳なかったから、今度仕事を頼まれたら引き受けよう」と思っていることが多いもの。一度断られたからといって、部下に任せることを怖がったり、諦めたりする必要はありません。
とはいえ、次に仕事を頼むときも他の仕事で手一杯ということはあり得ます。よって上司は部下の仕事の状況を把握し、新しい仕事を一つ任せるなら、部下が今抱えている仕事を一つ減らすように配慮するといいでしょう。減らした仕事は他の部下に任せたり、納期を後ろにずらすなどして調整します。
もし本当に部下が嫌がっているなら、任せ方に問題があるのかもしれません。前向きな気持ちで仕事を引き受けてもらうには、「なぜあなたに任せるのか」を伝えることが大事です。「何をして欲しいのか」だけを伝えると、部下は「他の人もいるのに、なぜ自分に頼むんだろう?」とモヤモヤしてしまいます。
「Aさんは将来マーケティングの仕事がしたいと言っていたよね。今回の資料は市場分析が中心だから、この経験が今後のキャリアに役立つと思うよ」といったように伝えれば、本人も納得して仕事を受けてくれるでしょう。
仕事を任せれば部下は成長すると話しましたが、何でもやらせればいいわけではありません。ポイントは「これまでより1~2割高い負荷がかかる仕事」を任せることです。
仕事は、それを行なう当人にとっての難易度で、「安心ゾーン」「挑戦ゾーン」「混乱ゾーン」の3つの領域に分かれます。
「安心ゾーン」に入るのは、ルーティンの仕事や過去に何度も経験があって確実にできる仕事です。失敗する可能性は低いですが、「安心ゾーン」の仕事ばかりでは、負荷が低すぎて、部下の力は鍛えられません。
「安心ゾーン」とは反対に、まったくの未経験であったり、今の実力では明らかに無理な仕事もあります。そういった仕事は、「混乱ゾーン」に入ります。これらを無理に任せると、部下が潰れてしまうので、このゾーンの仕事は部下を成長させるには不適切です。
よって、今までより1~2割高い負荷がかかる「挑戦ゾーン」の仕事を任せることが、最も部下の成長を促します。目標達成率110%を目指す、これまで5人で分担していた仕事に4人で取り組むなど、仕事の任せ方を工夫して部下の能力をストレッチさせてください。
難しい仕事に挑戦させるときは、上司と部下の責任範囲を明確にすることが重要です。
仕事を任せる際は「遂行責任」「報告責任」を部下の責任とし、本人にも伝えます。すると部下は仕事を最後までやり遂げるし、こまめに報告もします。
ただし「結果責任」は上司が負います。「結果については自分が責任を取るから」と伝えれば、部下は安心して仕事に取り組めます。上司が責任を取るつもりもないのに、「失敗を恐れずチャレンジしろ」と言うのは無責任です。
これまでより負荷の高い仕事を任せれば、当然失敗することもあるでしょう。大事なのは、一度の失敗で部下から仕事を奪わないことです。
そもそも失敗と言っても、仕事の全工程がうまくいかなかったわけではなく、成功した部分もあるはずです。
本人と一緒に工程を振り返り、「提案内容はお客様に好評だったんだ。その点は素晴らしいね」とうまくいった部分を認めたうえで、「自分ではどこに問題があったと思う?」と聞いてください。
部下が答えられなければ、「先方の担当者だけでなく、その上司にも話を通したほうがよかったかもしれないね」などとヒントを与えます。
ここで「自分で考えろ」と丸投げするのはよくありません。部下の育成では自分で考えさせることが大事だとよく言われますが、上司が答えを教えたとしても、それを実行するという次のハードルがあります。
部下はそのときにどうすればうまくいくかを自分の頭で考え、失敗からちゃんと学んで成長していくので問題ありません。
「部下に仕事を任せるには、色々な気遣いや工夫が必要で大変だな」と感じた人もいるかもしれません。確かに上司一人で全員の部下をきめ細やかにフォローするのは難しいかもしれません。
そこでぜひお勧めしたいのが、自分を助けてくれる「ナンバー2の部下」を作ることです。
課長の下に10人の部下がいた場合、課長が10人全員と平等にコミュニケーションを取り、一人ひとりを直接管理しなければいけないと思いがちです。
しかし上司が一人で管理できる人数には限りがあります。そこで補佐役となるナンバー2の部下を作り、自分と現場の間に入ってコミュニケーションを取ってもらいます。できれば補佐役は一人ではなく、複数いるとベターです。
若手のメンバーが誰かに相談したいとき、管理職である課長より、同じプレイヤーの立場にいるナンバー2のほうが気軽に話しやすいこともあるでしょう。相談の内容によっては、現場に近いナンバー2のほうが的確なアドバイスができる場合もあります。
一方、課長はナンバー2と報連相を密に行ない、メンバーから上がってくる情報を共有します。これにより、課長が部下を一人ひとり管理しなくても、全員の意見や現場の状況を把握して、チームを適切にマネジメントできます。
その結果、課長が担う管理業務を大幅に減らせるので、リーダーとして本来やるべき仕事に集中できます。課長が休暇を取ったり、体調不良で欠勤したときも、ナンバー2がいればチームの仕事は回るでしょう。
何より大きなメリットは、ナンバー2が成長できること。管理職の仕事を任せれば、次期リーダーとしての経験を積むことができます。
そのためにも、上司はできる限りの権限をナンバー2に委譲することが大事です。重要な役割を任せられるほど、「自分は期待されている」と感じてモチベーションが上がり、本人の成長速度も上がります。
ぜひ皆さんも部下に仕事を任せて、ゆとりがあるのに成果を出せる上司を目指してください。
更新:05月26日 00:05