mentoは、厳しい審査(国際コーチング連盟の基準に準拠)を通過したコーチによる「コーチング」を提供している。コーチングとは、個人やチームが持つ潜在能力を引き出し、目標達成に向けた成長をサポートするプロセスのこと。創業者である木村憲仁CEOに、コーチング事業を始めた経緯や目指すところを聞いた。(取材・構成:川端隆人、写真撮影(木村氏):吉田和本)
※本稿は、『THE21』2025年6月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
――リクルート時代は中古車事業に携っていたということですが、コーチングに注目したきっかけは?
【木村】新卒で就職する前から、いずれ起業しようと思っていました。就職先にリクルートを選んだのは、仲間集めのためと、ビジネスの基礎体力をつけるためです。
ところが、働いているうちに、「このままだと、サラリーマンとしてずっと楽しく生きていくこともできてしまう」と思うようになりました。また、「まず起業してみないことには、やりたいことも出てきそうにないな」とも感じました。
そこで、中古車業界のDX事業で起業したのですが、何かモヤモヤする。自分が中途半端な状態だからか、仲間も集まらない。
「どうもうまくいかないな」「噛み合わないな」と思いつつ事業を進めていく中で、だんだん精神的に苦しくなってしまい、ある人に相談したところ、「そういう正解のない悩みには、コーチングを受けるのがいいよ」と教えられました。
それで「コーチング」で検索してみたのですが、当時出てきたのは、正直、利用したいとは思えない、怪しいサービスが多かった(笑)。
その中から、信用できそうな方を見つけてコーチングを受けたとき、「木村さんは、本当は何がしたいの?」と質問されたんです。
率直な問いに即答できない自分がいることを知り、「経験がある業界を選んだだけで、本気でやりたいと思っていないんだ」と認めることができ、事業内容を変える決断ができました。憑き物が落ちたようでした。「コーチングってすごい!」と感じましたね。
――まずは自身がコーチングの威力を感じたわけですね。
【木村】ええ。そこで改めて何をしようか考えたとき、「本当に良いコーチングが世の中に広がっていない。届け方を変えれば、もっと広がるはずだ」と思いつきました。
とはいえ、コーチングの市場について、何も知識がない。まずは肌感覚をつかみたいと思い、とりあえずサービス開始を告知するホームページを作って、Twitter(現・X)に思いのたけを書き連ね、「コーチングを提供するサービスを始めます。使ってみたい人はいますか?」と事前登録を募集してみました。
すると、驚いたことに、3日で300人ほどが登録してくれました。しかも、アンケートにキャリアの悩みを赤裸々に答えてくださる方が多く、ニーズの強さを感じました。
同時に、ホームページを見たコーチの方々にも数多く応募していただきました。その方々を面接して審査させていただき、お客様とはメールでやりとりしながら、コーチとお客様のマッチングをするというところから、コーチング事業を始めました。
――現在は、個人向けに加えて、法人向けのサービスも展開しています。
【木村】個人向けサービスを始めた後、「法人向けはやらないんですか?」と問い合わせを受けたのがきっかけです。アメリカのコーチング業界では法人向けのほうが主流だということは調べていたので、計画自体はそれ以前から立てていました。そこで、良い機会だからやってみようと。
個人向けと法人向けの大きな違いは、目的です。個人向けは、いわゆるライフコーチングで、より良い人生が目的なのに対して、法人の場合は、組織内の人間関係改善や経営上の戦略を実現することが目的です。そのために、中間管理職のマネジメントを改善したり、リーダーシップを引き出したりするわけです。
中間管理職は、法人のお客様の課題の一番根深いところで、そこに投資したいと考えている企業が多い。
「うちには中間管理職の課題はない」という会社はほぼありません。これは、業界や会社の規模を問いません。
――具体的に、どんなことが中間管理職の課題になっているのでしょうか?
【木村】当社のお客様は、製造業や商社など、日系の大手企業が中心です。高度経済成長期に大きく成長を遂げた企業が多く、従来はうまくいっていた上意下達の文化からの脱却を図っているケースが多いです。
労働力が減っている中で優秀な人材に選ばれる企業、成長し続ける企業であるためには、企業文化を変えなければいけないということです。
労働生産性を高めるという、日本企業共通の課題もあります。
制度面の改革は、すでに多くの企業で実施されています。ただ、制度というハードを変えても、中間管理職の意識というソフトが追いついていないことが非常に多いのです。
例えば、会社が注力する事業グループへの異動に挙手制を導入したとします。このとき中間管理職が、「自分のチームの有能なメンバーを取られてしまう!」と受け取る場合と、「個人と会社の関係がフラットになり、個人にとっては働き方の選択肢が増え、会社の成長性も高まる」と納得している場合とでは、結果が180度変わりますよね。
会社を本気で変えようと思ったら、ソフト面の変化が欠かせません。
――ソフト面の変革のために企業は研修などを行なうわけですが、それだけでは不十分なのでしょうか?
【木村】集合型の研修で企業側の考え方を「教え込んでいく」のには限界があります。
コーチの支援のもと、今ある課題、求められているマネジメント像といったものに一人ひとりが向き合って、「自分はどう変わっていくか」を言語化し、行動に落とし込んでいただく。つまり、行動変容を支援するところまでやりきらないと、組織は変わりません。それができる手法が、まさにコーチングだと、お客様に評価していただいていると考えています。
まずは、お客様から「どういう組織を作りたいのか」をじっくりお聞きして、課題と理想的なゴールを明確に定める。そのうえで、「では、中間管理職の方々には、こういう変化を起こしていく必要がありますね。そこを我々が担当します」という形でお客様に提案し、サービスを導入していただいています。
――ちなみに、御社の社員もコーチングを受けているのですか?
【木村】もちろんです。コーチの資格を持っているメンバーも多数いますし、福利厚生としてコーチングを受けられるようにもしています。
コーチングの効果を実感している社員同士だと、対話の質が上がると感じますね。例えば1on1でも、「実は最近モヤモヤしてたんですけど、コーチと話したらこういう悩みなんだとわかって......」というところから話が始まったりする。言語化が進んだところから対話ができるので、コミュニケーションの負担がかなり軽減されています。
実際にコーチングを受けた中間管理職の方がよくおっしゃるのは、「コーチングを受けたら、メンバーの話をどう聞けばいいかがわかりました」ということです。「話を聞いてもらって、自分が変わった」という経験が、聞く側に立ったときの行動も変容させるわけです。
――今後、数年間で実現したいビジョンは?
【木村】IPOも含め、より大きく社会に貢献できるサイズの企業体に成長していきたいというのが一つ。
もう一つ、お客様に提供する価値という面では、最近よく言われる「管理職の罰ゲーム化」というトレンドに対して、実行可能で効果の高いソリューションを提供したいですね。
今はマネジャーに求められることが多すぎます。コーチやAIの力を借りながら管理職の仕事を分散して、マネジメントという行為を皆で手分けしてやるという考え方に変えていけたら、と思っています。
【木村憲仁(きむら・のりひと)】
1990年生まれ。早稲田大学卒業。2014年、新卒で(株)リクルートホールディングスに入社。「カーセンサー」のプロダクトマネージャーを4年半務め、消費者向けのサービス開発を牽引し、事業成長に貢献。17年、リクルートグループ全社イノベーションアワードを受賞。18年に退職し、(株)ウゴク(現・(株)mento)を創業。19年、コーチングサービス「mento」の提供を開始。
更新:05月05日 00:05