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「部下のやる気が上がる」ほめ方とは? 性格タイプ別の伝え方

2025年04月24日 公開

稲場真由美([株]ジェイ・バン代表取締役)

褒め方

部下が期待通りの反応をしないとき、上司は「部下の能力が足りない」と考えがち。しかし、部下の性格タイプによって言葉がけを変えるだけで、驚くほどやる気や才能を引き出し、生産性を上げることができるという。長年の調査で「性格統計学」を体系化し、様々な組織の立て直しを支援してきた稲場氏に話を聞いた。(取材・構成:辻由美子)

※本稿は、『THE21』2025年4月号特集[できるリーダーは必ずやっている「言語化」]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

性格は4パターン 反応の仕方もそれぞれ

性格統計学による人間の性格4タイプ

「性格統計学」とは、人間の性格を行動パターンと優先度によって4タイプに分類し、性格に応じたコミュニケーションを実践するものです。

性格は行動パターンを表わす横軸と、優先度を表わす縦軸の座標軸で分類します。

具体的には、相手優先で計画重視の「ピースプランニング」、相手優先で柔軟に対応できる「ピースフレキシブル」、自分優先で計画重視の「ロジカル」、自分優先で柔軟に対応できる「ビジョン」となります。この分類は、最近人事などでも取り入れられている、各人の心理学的な傾向を示すMBTI診断の結果とも符合しています(上図参照)。

なぜ、この性格パターン分けが重要なのかというと、そもそも人と自分は違うからです。趣味や食べ物の好みが違うように、物事をとらえる常識や仕事の進め方も異なります。

この違いを知らないと、部下に対する評価や育成に齟齬が起きることもあります。

例えば、「ピースタイプ」は相手に合わせるので一見扱いやすく見えますが、途中で気疲れしてパワーダウンすることがあります。「ビジョンタイプ」は我が道を行くタイプなので扱いづらく感じますが、ほめて育てると非常に伸びます。また「ロジカルタイプ」は指示待ちなので使えないと思われがちですが、ちゃんと教えてあげれば有能な人間になります。

どのタイプの部下でも、指導の仕方次第で反応が変わり、能力が発揮できます。まずは自分と部下の性格タイプを知ることから始めましょう。そして自分と相手は違うということを受け止めたうえで、タイプに応じた伝え方を実践します。

ここで大切なのは、受け止めるということです。これができていないと、ノウハウだけまねしても部下には伝わりません。同じ「ありがとう」でも、「ピースタイプ」や「ビジョンタイプ」には、大好きなペットに接するときのようなエモーショナルな「ありがとう」が響きますが、「ロジカルタイプ」は感情よりも何がどう良かったのか具体性を求めます。

もちろん上司にも4つの性格タイプがありますが、性格は環境や相手によって変えることができます。リーダーであれば、どのような部下が来ても、自分基準ではなく、相手に合わせてコミュニケーションできるよう、万能型を目指しましょう。

 

部下のやる気がみるみる上がる「性格タイプ別の伝え方」

●ピースプランニング

\性格タイプの見分け方/
□「あのー」「えーっと」が少ない
□話は元から話し、長くなりやすい
□オンラインでは動きが少ない
□「なぜ?」「どうして?」が多い
□期限やゴールを必ず聞いてくる
□感情を顔に出さない

 

<ピースプランニングのトリセツ>

「ピースプランニング」は、相手を優先し、計画を立てて目標を達成したいタイプです。人の役に立つことに喜びを感じるので「ありがとう」を多めに言いましょう。一方で理由や経緯を知りたく、それがわからないとなかなか取りかかれません「なぜ?」と聞かれたときには、丁寧に答えましょう。

また筋が通らないことには、テコでも動かない頑固なところもあります。このタイプに丸投げはタブーです。「わからなかったら聞いてね」「一緒に考えよう」といった言葉かけが効果的です。

 

【指示の出し方】
相手軸で動く性格なので、仕事の意義や目的をはっきり示しましょう。「なぜ、何のためにやるのか」を伝えると、さらにやる気を出します。報告時には「ありがとう」「助かったよ」という感謝の言葉も忘れずに。

【ほめ方】
人の役に立つのが何より嬉しいので、感情をこめて「ありがとう」「助かったよ」とほめます。「○○さんも喜んでいたよ」と第三者の評価を加えると、よりモチベーション高く頑張ります。

【注意・指導の仕方】
まず、「なぜそうなったか」ということの経緯や事情を聞いたうえで、諭します。「人に迷惑がかかるから」と言うのが一番効果的。大きな声や強い口調は、逆効果です。怖いと感じ、話の内容が頭に入りません。

【1on1にて】
なかなか自分の本音を言いませんが、自分の話を親身に聞いてくれる人には本音を話します。この場合、「答え」を言うのではなく、「共感する」ことが大事です。最後に「話してくれてありがとう」を忘れずに。

 

●ロジカル

\性格タイプの見分け方/
□「あのー」「えーっと」が少ない
□抑揚がなく、淡々とした話し方
□オンラインで動きが一番少ない
□なかなか謝らない
□期限やゴールを必ず聞いてくる
□感情を顔に出さない

 

<ロジカルのトリセツ>

「ロジカル」は、自分のペースや希望を優先し、目標や計画を立てて進めたいタイプです。全体像や結論、ゴールを先に知りたく、期限を言われていない依頼は後回しにします。効率を重視するため、時間やお金のムダ、急な計画変更を嫌います。

「あのー」「えーっと」は少なく、淡々とした抑揚のない話し方をする人が多いでしょう。ピカピカなどの擬態語を使わないのも特徴。話を聞くことに集中するため、あいづちやうなずきは苦手で、オンラインで一番動かないのがこのタイプです。

 

【指示の出し方】
目標・期限を明確にし、何をいつまでにどのような段取りでやるのか、5W1Hを具体的に伝えてください。ルールや計画に沿って効率的に進めたがるので、「とりあえず」や「任せるよ」の指示はタブーです。

【ほめ方】
「私は嬉しい」「スゴイ」といった感情的なほめ方やおだては通じません。事実に基づいて客観的に評価しましょう。「○○が△△でさすがだね」「君に任せてよかった」と具体的にほめるとモチベーションが上がります。

【注意・指導の仕方】
自分に非があれば納得しますが、そうでないと謝りません。思いや経緯を伝えるより、客観的なルールや基準に基づいて叱ることが大切です。感情的に叱られることを嫌い、ケースバイケースも苦手です。

【1on1にて】
アジェンダを用意して、事前に目的を伝えておきましょう。「最近の○○について教えてほしい」といったクローズドクエスチョンのほうが話しやすいはず。相談に対しては明確な回答を用意してください。

 

●ピースフレキシブル

\性格タイプの見分け方/
□「あのー」「えーっと」が多い
□話は元から話し、長くなりやすい
□オンラインでは動きが多め
□「なぜ?」「どうして?」が多い
□はっきりイエス、ノーを言わない
□感情が顔に出やすい

 

<ピースフレキシブルのトリセツ>

「ピースフレキシブル」は、相手を優先しながら、臨機応変に物事を進めたいタイプです。人の役に立つことが喜びで、「ありがとう」の言葉がやる気の原動力。察して動くことも得意です。ただ人に気を使いすぎて、気疲れするところがありますので、配慮も必要です。

相談に乗るときは「答え」は必要なく、話を聴いて共感することを心がけましょう。一方で理由や経緯を知りたく、それがわからないとなかなか取りかかれません。「なぜ?」と聞かれたときには、丁寧に答えてあげましょう。

 

【指示の出し方】
元から知りたいタイプなので、仕事の意義や目的を丁寧に伝えましょう。「なぜ、何のためにやるのか」を伝えると、さらにやる気を出します。報告時には「ありがとう」「助かったよ」という感謝の言葉も忘れずに。

【ほめ方】
人の役に立ちたいという想いが強いので、感謝の言葉やチーム内での貢献度をほめましょう。「君のおかげ」「ありがとう」など感謝の言葉を感情たっぷりに伝えると、やりがいを感じて仕事に励みます。

【注意・指導の仕方】
まず、「なぜそうなったか」ということの経緯や事情を聞いたうえで、諭します。「人に迷惑がかかるから」というのが一番効果的。大きな声や強い口調は、逆効果です。怖いと感じ、話の内容が頭に入りません。

【1on1にて】
アジェンダは用意せず、「最近どう?」など、ぼやっとしたかたちで始めましょう。人間関係の悩みが多いので、「それは大変だったね」と気持ちに寄り添ってあげ、「いつでも相談に乗るよ」と言うと安心します。

 

●ビジョン

\性格タイプの見分け方/
□「あのー」「えーっと」が多い
□主語がなく、話が飛びやすい
□リアクションが大きく、オンラインでも動きが一番多い
□「なぜ?」と聞かれるのが苦手
□ピカピカなどの擬態語が多い
□感情が顔に出やすい

 

<ビジョンのトリセツ>

「ビジョン」は、自分のペースや希望を優先しながら、臨機応変に物事を進めたいタイプです。自分の直感を重視する天才肌。「ほめて伸びる」タイプです。固定観念にはとらわれず柔軟な発想をします。

それに対して「なぜ?」と聞かれるのが苦手です。「否定された」と受け取るので、「いいね」と肯定してから質問するといいでしょう。長い話や細かい指示を嫌います。ピカピカなど擬態語が多く、主語がなく、話が飛びやすい傾向があります。オンラインで一番動くのがこのタイプです。

 

【指示の出し方】
あれこれ細かく指示されるのが苦手で、ある程度任せるといいでしょう。察することが得意で、ざっくりした指示でも通じます。比較的、要領よくこなすので、期限を言わなくても「早めにお願い」で通じます。

【ほめ方】
ほめるときは短く、リアクション大きく、抑揚をつけて伝えましょう。「すごいね!」の言葉が一番響きます。ほめて伸びる典型的なタイプ。「頑張ってね」「期待しているよ」の言葉でさらにやる気が上がります。

【注意・指導の仕方】
「何やってるんだ!」の言葉でダメだったことを察します。ルールありきで叱られるのが嫌いなので、状況を訊いたうえで指導しましょう。最後に「君には期待しているから」のフォローでやる気の持続につながります。

【1on1にて】
アジェンダは用意せず、「最近どう?」というオープンクエスチョンがいいでしょう。ほめることを基本にして話を引き出し、何か提案してきたら話を広げ、「それ面白いね」と肯定してあげましょう。

 

【あなたは何タイプ?】
性格統計学の専用アプリ「伝え方ラボ」で、あなたと相手1名の診断を試せます。
https://jbanlabo.com/el/

 

著者紹介

稲場真由美(いなば・まゆみ)

(株)ジェイ・バン代表取締役

16年間にわたり、のべ12万人の言動に関するデータを集計、分析して「性格統計学」を確立。様々な企業で導入され、職場の人間関係の改善や営業活動にも活用されている。現在は認定コンサルタントや認定講師の育成も行なっており、開発したアプリ「伝え方ラボ」は、大阪・関西万博への出展も決定。著書に『性格が合わないんじゃなくて話がかみ合っていないから』(WAVE出版)がある。

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