2026年03月30日 公開

現代の管理職に求められる役割は、時代とともに大きく変化しています。金銭的な報酬だけではモチベーションを維持することが難しい現代では、メンバーの心を動かし、自発的な行動を促すコミュニケーション"内発的動機づけ"が必要です。
前回は、内発的動機づけを組織全体に浸透させるための具体的な手段として、アジャイルの思想に基づく権限委譲と責任定義の技術に焦点を当てました。
連載第4回にあたる本稿では、「計画」をテーマに、アジャイルに取り組もうとするチームが直面しやすい問題を考えてみます。アジャイルを実践するチームが「計画」との両立に苦戦するのはなぜでしょうか。まずはその緊張関係の背景を掘り下げていきます。
アジャイルやスクラムを実践する際の障壁として上げられやすいのは、「計画」を立てることが困難になるということです。例えば多くのIT企業では、「ロードマップ」と呼ばれるドキュメントを作成します。ロードマップには一般的に、達成すべきKPIや機能改善の計画が時系列で並べられ、多くの場合プロダクトチームはこれを「期限通り」にこなすことを求められます。
にもかかわらず、ロードマップは「期限通り」の完遂を求められるため、計画自体が陳腐化してもそれを止めるという判断は容易には下せません。途中で止めれば、それまでに投下されたリソースや時間がサンクコストになってしまうからです。結果として、プロダクトチームは陳腐化したロードマップの保守運用に追われてしまいます。
このロードマップは本質的にプロダクト改善のための「計画」であり、ウォーターフォール型の開発プロセスとは非常に相性が良いです。ロードマップの項目を機能要件に落とし込み、工程ごとのスケジュールとリソースを確保し、あとは粛々と進めておけばプロダクト開発をこなすことができてしまうからです。一見、極めて合理的に感じられます。
しかし、実際にはロードマップを適切に運用することには大きな困難が伴います。
その理由として最も重要なものは、「計画は作成した瞬間から陳腐化する」という現実です。これは、今後の議論にとって非常に重要な点なので、丁寧に説明します。
市場変化と競争が激しいIT業界では、当初計画したKPIや機能がわずか数ヶ月で時代遅れになることも珍しくありません。新しい技術の登場や競合他社による革新的なサービスのリリースが、状況を一変させることも頻繁に起こります。
にもかかわらず、ロードマップは「期限通り」の完遂を求められるため、計画自体が陳腐化してもそれを止めるという判断は容易には下せません。途中で止めれば、それまでに投下されたリソースや時間がサンクコストになってしまうからです。やめよう、と言い出すのは、マネジメントや経営であっても巨大な勇気が必要です。
結果として、1年ほど経つと、ロードマップは達成度の振り返りも為されないまま忘却され、また新たなロードマップが作成されます。あとは、この繰り返しです。
この状況は、2つの深刻な問題を引き起こします。
1つは、プロダクトチームが自分でやることを決められないことによる、「他責思考」の蔓延です。価値がないと感じている計画を押し付けられることで、プロダクトチームには経営やマネジメントに対する批判的な感情が広がります。一度「他責思考」が生まれると経営側と開発チーム側で相互に不信感が増幅し、組織内の信頼関係を大きく損ないます。
経営側は「開発チームのビジネスへのコミットメントが足りない」と感じ、開発チームは「経営側の意思決定は現場の実態を理解していない」と批判を強めます。このような「他責思考」は指数関数的に増殖し、深刻な組織の問題へと発展します。
2つ目は、言われたことさえこなしていれば良いという「悪しきアウトプット思考」の蔓延です。アジャイルでは、本来提供したいプロダクト価値(アウトカム)と、その達成手段(アウトプット)を明確に区別します。
プロダクトチームの目的はあくまで市場に価値を提供することですが、ロードマップの期限通りの消化に集中することで、本来の目的が完全に忘却され、タスクの消化そのものが目的化してしまいます。これを私は「悪しきアウトプット思考」と呼びます。
プロダクトチームの本来の使命は市場ニーズに応えるプロダクトを作ることであり、陳腐化した計画をただ消化することではありません。この誤ったマインドセットは、アジャイルを実践しようとする際に大きな障害になるもので、早急に手当を開始する必要があります。
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今回は、アジャイルと計画の緊張関係を掘り下げ、ロードマップ運用の問題点と組織に与える影響を考察しました。次回は、この課題を解決するために、計画を柔軟に扱いながらアジャイルの思想を現場で実践する具体的な方法を探ります。ロードマップとアジャイルの両立に成功した企業事例や、マネジメントとチームが協力して変化に対応できる仕組みを詳しく紹介し、計画の陳腐化を克服するための実践的なヒントを提供します。
更新:04月04日 00:05