近年マンション価格は高騰しており、都心では新築マンションの平均価格が1億円を超えたという。そんな中で、家を買うべきか、それとも賃貸のままでいるべきか...マイホーム選びで悩む人は多いだろう。不動産コンサルタントの長嶋修氏の考えを、書籍『2030年の不動産』より紹介する。
※本稿は、長嶋修著『2030年の不動産』(日経プレミアシリーズ)より内容を一部抜粋・編集したものです
原則として、不動産の販売価格と賃貸住宅の賃料は同じ方向に動きます。ただ、同じタイミングで上下動するわけではなく、賃料相場は常に販売価格の動向に1〜2年遅れて追随します。
都心ではここ10年ほどずっとマンション販売価格が上昇しているため、賃貸マンションの賃料もうなぎ上りで上昇しています。大規模災害などの予想外の事態が発生しない限り、もうしばらくはこの状況が続くでしょう。
持ち家が得か、賃貸が得かというのは、マイホーム購入を考えるうえでの永遠のテーマです。得か損かという経済合理性だけで判断するのであれば、立地によっては買ってしまったほうがお得です。
地価は三極化するとお話ししましたが、価格維持・あるいは上昇の余地もある都心・駅近の好立地マンションなら、買うタイミングは早ければ早いほどベター。
今から6、7年前、2018年あたりの都心の中古マンション販売価格は平均で7000万円台でしたが、2025年時点ではこれが1億1000万円を超えています。「あのとき買っておけば儲かったのに」と嘆いている人は多いはずです。
私が会長を務める会社・さくら事務所のオフィスは、東京の渋谷区にあります。不動産価格の高騰が著しい都心5区の中に含まれており、なおかつ渋谷駅から近い便利な立地なので、周辺の家賃相場はこのところずっと上昇基調です。
先日、このオフィスの貸家契約の更新があったのですが、事前に貸主から「賃料をこれまでの1.8倍に値上げしたい」という申し入れがありました。もともと値上げは覚悟していたものの、1.8倍となるとあまりにも高いので貸主と交渉することに。最終的には、両者が納得できる落としどころを探って妥結と相成りました。
不動産の賃貸借契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」があり、ほとんどの物件は普通借家契約を結ぶことになっています。普通借家契約は一般的に2年ごとに契約を更新する仕組みであり、借主を手厚く保護する契約形態でもあります。たとえば、貸主が家賃を値上げしたいと要望しても、借主の合意なく一方的に値上げをすることはできません。
また、貸主は値上げに応じない借主を強制退去させることもできません。
借主は貸主の値上げ要請を承諾する義務はなく、話し合っても納得できなければ、これまで通りの家賃を支払うことによって、そのまま住み続けることができます。貸主が家賃の受領を拒否した場合、そのまま放置していると家賃不払いによって強制退去させられてしまうため、法務局に賃料を託して(供託)、債務を免れるという抜け道も用意されています。
貸主と借主の双方が折れない場合は、裁判で解決を図ります。とはいえ、貸主にとっては手間もコストもかかるため、「裁判するくらいなら諦めよう」と泣き寝入りすることも多く、実際に裁判までなだれこむことはそう多くありません。
都心の好立地エリアではなく、「都心からやや離れ、最寄りの駅からも多少離れたエリア(なだらかに地価が下落する地域)」に住もうという場合、不動産を買ったほうが得か、賃貸が得かと悩む人も多いでしょう。
これは判断が難しいところです。買った直後から資産価値はじわじわと下がっていくので、トータルで考えたら賃貸のほうが得だったとなる可能性も大いにあるでしょう。資産価値が毎年2〜3%ずつ目減りしていくと仮定し、買うのと借りるのとでどれだけの差が出るのかシミュレーションしてみるとわかりやすいかもしれません。
ここまで得か損かという話をしてきましたが、そもそもマイホームは経済合理性だけで決めるべきものではありません。「ちょっと不便だけど緑が多いエリアで、庭付きの戸建に住むのが理想」という人が、資産性を優先して大都会の駅前にそびえ立つタワマンに無理して住む、というのもおかしな話です。
あるいは、賃貸住宅を渡り歩くような身軽な生活がしたいのに、「シミュレーションしてみると買ったほうが得だから」というだけの理由で、持ち家派に切り替える必然性もないでしょう。
逆に、賃貸のほうがトータルの出費が少なくて済みそうだとしても、「老後を考えてマイホームを持っておきたい」という気持ちを優先させることも間違いではありません。経済合理性だけにとらわれず、QOLを向上させるようなマイホーム選びをしたいものです。
賃貸住宅の選択肢もより多様化していくでしょう。賃貸住宅を借りる際に、友人同士などで一緒に住んで、家賃や光熱費などを折半するのがご存じの通りルームシェアです。
ずいぶん前からごく当たり前に行われているようですが、実は多くの賃貸住宅は同居禁止というルールを敷いているため、ルームシェア可の賃貸住宅は数が限られています。
一方で、同居前提の賃貸住宅とされているのがシェアハウスです。シェアハウスは一つの物件を数人でシェアする住居形態。一軒家タイプが多く、空き家の有効活用という意味でも注目されています。住人はそれぞれの個室を持ち、リビングやキッチン、バス、トイレなどを共有します。生活家電が備え付けられている場合が多いので、初期コストが抑えられるほか、一人で借りて住むよりも家賃が安上がりというメリットがあります。
シェアハウスが普及し始めてだいぶ時間が経ったこともあり、最近では外国人が多く住んでいて、日本にいながら国際交流ができる物件や、何らかの共通の趣味を持っていることを条件に募集するなど、コンセプトを掲げたシェアハウスも増えています。
さらに、高齢者向けのシェアハウスも全国で作られ始めていて、人気が広がっています。シェアハウスなら老人ホームやサービス付き高齢者住宅などに比べると家賃を抑えられますし、水道光熱費も住人同士で折半するので、一般の賃貸住宅より節約できる可能性が高くなります。
何より、高齢者が一人で暮らしていると、体調が急変したときに誰にも気づいてもらえず、孤独死につながるというリスクがありますが、シェアハウスであれば入居者同士でコミュニケーションを図れるため、一定の安心感があります。介護サービスが必須な状態ではなく、身の回りのことは一通り自分でできる状態の高齢者の受け皿として、この先ますます普及していくでしょう。
シェアハウスと同様にずいぶん前からあるものの、これまであまり普及してこなかった住居の形態に「コレクティブハウス」があります。コレクティブハウスは、シェアハウスと同じく、広い家に複数の人と共同で住むというもの。シェアハウスの入居者は基本的に単身者ですが、コレクティブハウスでは年代も家族構成もさまざまな世帯が一緒に生活します。
物件にもよりますが、多くは居室に個々のキッチン・バス・トイレがついており、さまざまな設備(広いキッチン、図書コーナー、コワーキングスペースなど)を入居者同士で共有するシステムになっています。
もともとは北欧で生まれた生活様式で、シングルマザー・シングルファザーやシニアなどがともに住み、お互いに助け合いながら生活できる点が最大のメリットとされています。
もちろん、他人とのかかわりが多くなる分、意見が衝突することもあるでしょうが、一人で生活するデメリットを補い合える点を魅力に感じる人は多いはずです。日本ではまだ数が少ないですが、シェアハウスと同様に増加していくことが考えられます。
更新:04月03日 00:05