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都市郊外のベッドタウンは要注意...プロが教える「1秒でも早く売却すべき家」の特徴

2024年10月16日 公開

長嶋修(不動産コンサルタント)

空き家問題

「実家が空き家になったらどうしよう」という悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。放置しておくと様々な問題を引き起こす空き家ですが、その増加は社会問題として深刻化しています。本記事では、空き家の現状と将来予測、そして賢い対処法について、書籍『グレートリセット後の世界をどう生きるか』より紹介します。

※本稿は、長嶋修著『グレートリセット後の世界をどう生きるか』(小学館)より一部抜粋・編集したものです。

 

空き家が増加するとどうなる?

ここで、増え続ける空き家問題の未来について触れておきたいと思います。

「実家が空き家になったらどうしよう」とお悩みの方は多いでしょう。あるいはすでに空き家を抱え「売るか、貸すか。どうしようか」と逡巡しながらも何となく決断と行動を先延ばしにして、結果として放置という方もいるでしょう。

上位15パーセントの好立地な不動産であれば、売るもよし、貸すもよし。しばらく放置していても建物のコンディションがよほどひどくなければ何とかなります。

都心・都市部の好立地マンションは、たとえ築50年超えのマンションであっても、そこそこの管理状態であれば普通に流通しています。

一戸建ての場合は、長らく放置すると建物が傷んでいることが多く、雨漏りや水漏れ、あるいは大きく傾いているなど、構造軀体に何らかの問題がある場合はその限りではありませんが、その場合は更地にして売却できる可能性が高いでしょう。

中位70パーセントの不動産は、厳しい言い方になりますが「1秒でも早く売却するのが正解」となります。

典型的なのが都市郊外のベッドタウン。首都圏で言えば東京都心からドアツードアで1〜1.5時間、距離にして30〜40キロ。相模原・町田・大宮・柏・船橋といった、環状になっている国道16号線内外にある立地の物件です。こうした立地でもマンションで徒歩7分以内、一戸建てで徒歩15分以内程度であれば、賃貸・持ち家とも長期的に一定のニーズが見込めるでしょう。

しかしそれを超えた範囲では、すでにニーズは著しく少なく、さらに5年・10年とたつうちに、周辺に同様の「空き家」というライバルが増えていきます。

こうした立地に多く住宅を求めたのはいわゆる「団塊世代」で、その定義を1947〜1949年に生まれた世代とした場合、2024年現在の年齢は、75〜77歳ということになります。我が国の平均寿命を考えると、これから空き家増加が必至であることがわかるでしょう。

全国空き家対策コンソーシアムによれば、空き家が増加することで周辺の不動産価格は下落し、国全体の経済損失は2023年までの5年間で3.9兆円に上るとしています。この損失は今後も、空き家の増加とともに増え続ける見込みです。周辺に空き家が増えるほど自身の空き家の価値も下がり、ますます処分しにくくなっていくでしょう。

 

空き家の賃貸化は損をする

そして、こうしている間にも全国各地で空き家は増加し続けています。総務省の住宅・土地統計調査によれば、2023年の空き家数は900万戸で、前回調査(18年)から51万戸増え過去最多となりました。

また、総住宅数に占める空き家の割合も2023年は13.8%と過去最高となり、住宅の約7分の1を空き家が占める事態となっています。1993年の空き家数は448万戸でしたから、この30年で空き家は倍増していることになります。

野村総合研究所の予測では、2028年に空き家数は1000万戸を突破。その後1277万戸(2033年)、1554万戸(2038年)と増え続け、2043年には1861万戸で空き家率は25.3パーセントと、なんと「4軒に1軒が空き家」となる未来が待っているとしています。

リフォームやリノベーションをして、賃貸に出すといった選択肢は、経済合理的にはあまりよい結果を生みません。なぜならたいていの場合、割に合わないからです。

一定の築年数が経過していれば、空き家になった後そのまま賃貸に出すのは不可能で、大中小のリフォームが必要になります。例えば建物30坪・4LDKといった典型的な一戸建てについて、屋根や外壁などの外回りを一通りやり替えた場合はざっくり150〜200万円。

内装の床・壁・天井の刷新で約200万円、キッチンや給湯器・ユニットバス・トイレ・洗面化粧台といった水回りの更新でおよそ400〜450万円程度かかります。これら全てを行うとなると750〜850万円と、思いのほか莫大な金額になるのです。

部分的にリフォームを行うにしても、そうした投資額を何年で回収できるか計算してみてください。想定賃料はネットで簡単に調べられると思います。近隣で同条件の賃貸住宅の賃料がいくらか見てみましょう。

仮に8万円だとすると年間賃料は96万円。リフォームに500万円かかる場合、そのコストは5.2年で回収できることになります。つまり労力とコストをかけても5年経過するまではマイナスとなり、それ以降やっと収支がプラスになるわけです。

実際には不動産屋さんに支払う仲介手数料(1か月分)や毎月の管理費(月5000円程度)がかかりますので、投資回収の時間はもっと長くなります。こうしたことを考慮すると、ある程度の賃料が取れる立地でないと、とうてい割に合わないことに気づくでしょう。月4万とか5万円程度の賃料では、全く投資に見合わないということです。

さらに、これから空き家が増加することが確実で、同様の賃貸物件や売り物件といったライバルの増加も必至であることを考慮すると、現在の想定賃料を時間の経過とともに下げざるを得ないことも念頭に置く必要があります。だからこそ、競合が増加する前に、できるだけ早く売却するのが、最も理にかなった選択となります。

ただしこのような考え方はあくまで経済合理性のみを優先した場合であり、現実には「相続でもめてしまい処分できない」「思い出が詰まっている」「仏壇がある」など様々な理由で、なんとなく処分が先延ばしになってしまうというケースが現在も、そしてこれからも、かなりの割合で発生せざるを得ないだろうと思います。

こうした事態を防ぐには例えば、親の生前に「遺言」を準備してもらい、いざという時にはそれに従って機械的に空き家をはじめとする財産の処分を進められるようにしておくのがベターです。ただ子供の側からそうした提案をするのはいかにもやりにくいというか気が引けることもあって、なかなか難しいところです。

相続放棄といった手もありますが、現行法では、不動産だけを相続放棄することはできず、預金など財産全てを放棄するか、全て相続するかのどちらかですので、よく考えて選択をしましょう。

 

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