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火災保険、住宅ローン金利...今後、引き上げが予想される「不動産コスト」の影響

2025年03月27日 公開

長嶋修(不動産コンサルタント)

不動産

マンション価格の高騰で、都心では新築マンションの平均価格が1億円を超えたという。しかし、値上がりしているのは住宅価格だけではない。2030年に向けては、「保険料」や「金利」といった住宅コストの一部が上がっていくことが予想されるという。書籍『2030年の不動産』より解説する。

※本稿は、長嶋修著『2030年の不動産』(日経プレミアシリーズ)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

火災保険などの保険料は今後ますます上昇へ

不動産を購入する際には、物件の購入価格以外にもさまざまなコストが発生します。住宅ローンを組んで買うなら、金融機関に融資手数料を支払うことになります。返済が始まってからは、物件価格の返済分に加えてローン金利を負担しなければなりません。

そのほか、ローン保証料に火災保険料、団体信用生命保険料、加入は任意ですが、地震保険料もかかります。

不動産会社に支払う仲介手数料も必要。不動産エージェントやホームインスペクターに依頼した場合には、その分のコストもかかってきます。

2030年に向けては、こうした住宅コストの一部が上がっていくことが予想されます。

すでに値上がり傾向が顕著であり、今後も上がっていくと予想されているのが火災保険や地震保険、それにマンション総合保険の保険料です。これまでにもちょこちょこと値上げされてきた火災保険料は、2024年の秋に多くの保険会社で過去最大の上げ幅で引き上げられました。

地震保険は国と民間の保険会社が共同で運営していることから、どこの保険会社で加入しても保険料は同じですが、ここ数年でたびたび改定され、徐々に値上がりしています。南海トラフ地震や首都直下地震といった大規模な地震は、近い将来に高確率で発生することが予測されているため、これは仕方がないことかもしれません。

火災保険の保険料が引き上げられた背景には、近年顕著な災害の激甚化と、老朽化した建物の増加があります。

ご存じのように、今やゲリラ豪雨はよくある出来事になり、台風は大型化して「100年に一度」という大仰な表現も頻繁に見聞きするようになりました。毎年のようにどこかで河川の氾濫や土砂崩れが起こり、水害の原因になる線状降水帯の発生も、もはや珍しいことではなくなっています。

自然災害の発生時に金銭面で住宅を守るベースとなるのは、火災保険です。火災保険は、失火やガス漏れなどによる火事の補償以外に、風災や雪災、雹(ひょう)災、落雷、水災、他住戸からの水漏れ、さらには盗難まで、幅広い事故による損害を補償するものです(商品によって、補償の範囲は特約をつけて加入者が決めます)。

災害が激甚化したことで、保険会社が負担する火災保険の保険金支払いは年々増加しており、このことが保険料の引き上げにつながりました。今後も、地球規模の環境変化を考えれば、災害の規模が小さくなることは考えづらいため、保険料は上がる一方でしょう。

2024年から特に大きく変わったのが、火災保険の水災補償です。水災補償の保険料率は、以前は全国一律でしたが、2024年からは地域ごとに変動する仕組みになりました。具体的には、水災のリスクが高い地域ほど保険料が高く、低い地域であれば保険料が安くなります。

リスクレベルは5段階で判断され、もっともリスクが低いと想定される地域が1等地、もっともリスクが高いと想定される地域が5等地とされます。

河川の氾濫、いわゆる外水氾濫(洪水)だけでなく、排水能力を超えた豪雨が降ることにより下水道やマンホールなどから水が溢れ出す内水氾濫や、土砂崩れのリスクも含めて判断されるため、必ずしもハザードマップと合致するとは限りません。5等地の保険料は1等地の保険料の約1.2倍と、無視できない差があります。

自分が住んでいるエリア、あるいは家を買いたいと考えているエリアの水災等地は、インターネットで簡単に検索できるため、一度調べてみるといいでしょう。

 

住宅ローン金利の利上げ幅が大きくなれば、持ち家率は低下する

そのほかに上昇しそうな住宅コストといえば、金利です。長らく続いたデフレからインフレに転換し、住宅ローン金利は少しずつ上がっています。

日本は1990年代後半から低金利時代に入っていたので、現役世代のほとんどの人は低金利しか知りません。そのため、「金利が上がる」と聞くと、非常に損するような気持ちになるでしょう。

ただ、金利水準については、これまでが異常すぎただけです。2030年の住宅ローン金利は、さすがに高度経済成長期の7〜8%のようなレベルまではいかないでしょうが、現行水準から2%程度は上昇することは十分に考えられます。

金利タイプは、現時点ではまだ、固定金利よりも変動金利のほうが圧倒的にお得でメリットが大きいですが、利上げの進行とともに旨味は薄れていくでしょう。

多くの金融機関の住宅ローンでは、変動金利が急に上がって家計を圧迫することを防ぐため、5年ルールや125%ルールが設定されています。

5年ルールとは「金利が上がっても、5年間は返済額が据え置かれる」というルール。125%ルールとは「金利が上がっても、直前の金利の125%までしか上がらない」というルールです。

ただ、一部の銀行ではこれらのルールを撤廃し、代わりに金利水準を低く設定しています。この場合、利上げが加速した際のストッパーがない状態なので、利用している人は注意が必要でしょう。

利上げ幅が小さいうちは、住宅ローン控除による恩恵があるため、不動産の買い控えにはつながりにくいと見られます。これが3%とか4%とかになってくると、金利の負担感はかなり大きくなります。

このレベルまでの利上げか、あるいは住宅ローン控除の廃止が実施されれば、不動産を購入する実需層は減少します。そうなると、さすがに不動産価格は値下がりに転じるでしょう(ただし、住宅ローンを組まずに買う層を対象とした都心部の高額物件は除きます)。

先にも言及しましたが、住宅ローン控除は恒久的な措置というわけではないので、この先廃止される可能性があります。今、日本の持ち家率は6割強ですが、これを両輪で支えてきたのが低金利と住宅ローン控除なので、支えがなくなれば持ち家率は大幅に下がることになります。

持ち家率が下がれば、必然的に賃貸住宅に住む人の割合は上がります。そのため、この先の世の中は、不動産投資をして物件を貸したい人に追い風が吹くかもしれません。

 

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