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南海トラフ地震の被害は「東日本大震災の10倍以上」 自然災害がビジネスにもたらす影響

2025年03月26日 公開
2026年03月26日 更新

御立尚資(京都大学経営管理大学院特別教授)

仕事・ビジネスでも、キャリア・人生でも、何か意思決定をする際に自分なりの軸を持っている人は、周りに流されずに適切な判断をできることが多い。では、そうした「自分の判断軸」を持つためには、いったいどのようなことを学び、考え、体験したらいいのだろうか。

本連載では、ボストン コンサルティング グループの日本代表を長年務め、現在はリーダー教育にも携わっている御立尚資氏の考えをうかがっていく。(取材・構成:杉山直隆)

※本稿は、『THE21』2024年4月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。

 

近未来に影響力大な気候変動と自然災害

この連載では、現代から近未来にかけて時代を形づくる原動力を理解することで、「今後、この世界でどんなことが起こる可能性があるのか」という近未来のシナリオを、読者ご自身が描けるようになることを目指してきました。

前回は、数ある原動力の中でも最も影響力があるものとして、「人口動態の変化」を取り上げました。簡単に振り返っておきましょう。

工業化による経済成長によって人類は猛烈な勢いで数を増やし、よりいっそう経済を成長させました。しかし、21世紀に入ると、人口の伸びは鈍化。企業はグローバル成長戦略の見直しを迫られるとともに、先進国では高齢化が進み、彼らを支えるコスト負担が社会課題となっています。

しかし、抗老化科学の進展によって、近い将来「老化」を一定程度コントロールできるようになると、高齢者の社会参加が今よりも長く可能になると予測されています。この変化により、「長生き=老化=社会コスト」の前提が崩れ、社会制度やビジネスのあり方も一変すると考えられます。

こうしたシナリオを描くことで、自分の業界ではどんな手を打てばよいかが見えてくるというわけです。これが前回のお話でした。

この人口動態と同じくらい大きな影響力を持つ原動力が、今回取り上げる「気候変動」と、そして特に日本においては地震や火山噴火などの「自然災害」です。

これらがいつ・どこで・どのくらいの規模で起こるのかをピンポイントに予言することは現代の科学でも不可能ですが、気候変動や自然災害が起こる可能性が高い期間や、それらが甚大な影響を及ぼす確率が高い地域を、一定の範囲で予測することはできます。

例えば南海トラフ地震について、政府は、マグニチュード8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率を70~80%と予測しています(2020年時点)。

つまり、30年以内に起こる可能性が極めて高い巨大地震から生命や家族を守る備えをするとともに、30年後にまだ現役のビジネスパーソンとして働いているであろう世代の方々は、いずれ日本を揺るがす大災害が起きることを前提としたビジネスシナリオを考えておく必要があるのです。

気候変動と自然災害に関しては、公的な機関が発表している科学的なシナリオがいくつもありますが、それだけでは不十分です。公的機関が発表するシナリオだけでは、自分の業界でどんな手を打てばいいかは見えてこないからです。

まずは公的機関が発表するシナリオを第一のシナリオとしつつ、それに基づいて「自分の業界にはどのような影響があるのか」「どのようなビジネスチャンスが生まれるのか」という第二のシナリオを描くことが必要です。そうした二重シナリオをつくることで、自分の会社や地域は何をすべきかが見えてきます。詳しくご説明しましょう。

 

「すでに起きていること」の悪影響をまずは最小限に

まずは「気候変動」のシナリオから見ていきましょう。

気候変動を左右するモデルは、相互に関連する複数の要因が組み合わさった「複雑系」なのですが、気温の変化やゲリラ豪雨、台風などの発生は、簡単に言えば地球上の水と熱の循環によって起こります。

現在問題になっている地球温暖化の原因は、周知の通り、19世紀初めの産業革命以降に化石燃料を盛大に燃やし始めたことです。それによって、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスが猛烈な勢いで放出されるようになり、地球の温度を上昇させていることが科学的にも否定できなくなりました。

未来を見るうえでは、「すでに起きていること」と「これから起こること」を、両方考えることがとても大事です。

すでに起きていることで言えば、平均気温は上がり、それに伴う気候変動が起こっています。日本も産業革命前と比べて平均気温がほぼ1.5度上がっています。その影響で、ゲリラ豪雨や激しい台風に見舞われるケースは明らかに増えました。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書では、世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて2.5度までに抑えなければ、多くの人間と自然のシステムが深刻なリスクに直面すると警告しています。かなり厳しい目標ですが、達成できなければ確実に甚大な影響が起こります。平均気温が4度上がれば、もはや不可逆的で取り返しのつかない事態になるとされています。

こうした現状を考えると、まずは一定程度不可避な被害を最小限に食い止めるよう対処することがまず重要です。例えばハザードマップを見て、洪水や土砂災害のリスクが高い地域から本社や工場、営業所などを移転したり、拠点を分散したりすることですね。

しかし、これだけでは近未来のシナリオとは言えません。「被害を最小限に食い止めること」をステップ0とすると、ステップ1として「自分の業界や産業に起こる影響」、ステップ2として「その中で生まれてくるビジネスチャンス」を考える必要があります。

 

欧米の有名ワイナリーが北海道に来た理由

第二のシナリオで描くべきステップ1は、「気候変動は自分の業界・産業にどのような影響を与えるか」です。気候の変化は、ビジネスや産業の形を大きく変えることがあります。

例えば温暖化が進み、降雪量が減れば、経営が成り立たなくなるスキーリゾートが次々と出てくるでしょう。現に、今年のヨーロッパのスキー場のうち、6~7割は滑走できない状態だそうです。

日本も一部の豪雪地帯と標高の高い地域を除いてスキー場の運営が難しくなるでしょう。スキーリゾートの運営会社や投資をしている会社、大口顧客がスキーリゾートの会社は、今から対応策を考えておく必要があります。

また、気温や海水温が上昇すれば、生き物の生息域や農作物の産地も変わってきます。

最近、ブリの水揚げの中心地は、富山や新潟から北海道にシフトしています。水産業では、漁場から近い地域に冷凍用の倉庫を置いたり、加工場を設けて缶詰を作ったり、首都圏や海外に卸したりと、バリューチェーンを組んで商売をしています。気候変動によって獲れる魚が変わると、このバリューチェーンそのものを組み替えなければなりません。

一方、かつてワイン用のぶどうといえば山梨や長野などがメッカでしたが、気温の上昇によって、北海道でも育てられるようになりました。それに目をつけたのがフランス・ブルゴーニュ地方やカリフォルニアの有名ワイナリーで、北海道にワイナリーを作り始めています。裏を返せば、今までの産地では良いワインができなくなるリスクが相当あると見ているのでしょう。

このように、水産業や農業に関係している仕事をしているなら、早めに手を打ったほうが賢明です。

これらは直接的な地球温暖化の影響ですが、間接的な影響が出てくることもあります。

その一つが、移民・難民の問題です。温暖化が進むと砂漠化で水が得られなくなったり、暑すぎて住めなくなったりする地域が増えます。すると、そうした場所に住んでいた人が難民となって、他の地域に押し寄せてきます。

例えば、21世紀はサハラ砂漠以南のアフリカで人口が増えて経済成長を遂げ、「アフリカの世紀」になるとも言われています。しかし、増えた人口がアフリカ内に留まるとは限りません。ヨーロッパに難民となって逃げてくる人が今以上に増えるでしょう。

難民が増えると、どうしても政治問題化し、受け入れ国・地域の国内政治が分断化されてきます。海外との取引がある企業は、こうした政治・地政学リスクについてのシナリオも踏まえて、どこに投資するかといったビジネスのポートフォリオを考えておく必要があるでしょう。

気候変動に備える3つのステップ

 

気候変動によって生まれるビジネスチャンスとは?

第二のシナリオで描くべきステップ2は、「気候変動によって、どのようなビジネスチャンスが訪れるか」です。

例えば、特にエネルギー周りにおいて、GX(グリーントランスフォーメーション)を推進する企業はますます増えていきますが、エネルギー関連は自社だけではバリューチェーンが完成できない典型的領域です。従って、アライアンスやそのコーディネーションの能力が高い企業にとって、大きなチャンスが生まれます。

次世代エネルギーとして水素や核融合が有力視されていますが、実用化には技術革新が必要であり、まだまだ時間がかかります。例えば水素は爆発する危険が高く、大量に安全に運ぶのが難しいので、運搬するインフラを構築するには様々な技術革新が不可欠です。それらの技術が実用化されるまでの移行期には、温室効果ガスを減らすためのビジネスが伸びるでしょう。

また、燃やしても相対的に温室効果ガスの排出量が少ないアンモニアを従来の化石燃料と合わせて燃焼させるハイブリッドの仕組みは相当伸びますし、その後、それを水素と組み合わせる、さらには完全に水素に置換する、など、次々とシフトできるようなモデルを作れる企業が圧倒的な地位を得る可能性があります。

こうした新しいモデルが出てくると、ほかの産業にもビジネスチャンスが広がります。自分の業界はどんなチャンスがあるのか、と考えることも重要です。

 

南海トラフ地震の被害は東日本大震災の10倍以上

南海トラフ地震が引き起こす深刻な被害

一方、日本に関しては、太平洋プレートやフィリピンプレートなど4つのプレートが重なり合う上にある国なので、地震や噴火などの災害に関するシナリオも想定しておかなければなりません。ちなみにプレートの観点から見ると、日本だけでなく、ニュージーランドやインドネシア、イランの一部などにも同じことが言えます。

地震や噴火に関しては、政府だけでなく、日本の代表的な火山学者である鎌田浩毅先生が様々な知見とシナリオを提示しておられます。

例えば、東日本大震災は1000年に1度のサイズのプレート型地震であり、こうした巨大地震が起きると日本列島全体の地震の活動が異常に活発になることが、過去のデータからわかっています。直下型と言われる地震が増える、ということですね。従来からリスクが指摘されている首都圏直下型の地震が起こると、95兆円、東日本大震災の5倍近い被害が出ると予想されています。

さらに次のプレート型である東南海トラフ地震も近づいています。政府の予想では「30年以内に70~80%」ですが、鎌田先生らの研究によると、2035年プラスマイナス5年の間、つまり早ければ6年後には起きる可能性が極めて高いといいます。

100年に一度起こる東海、東南海、南海の地震ですが、前回は東海部分が割れを起こしておらず、次回は3連動するおそれがあります。そうなると、その規模は、東日本大震災と同様のマグニチュード9.0前後に達すると見込まれています。

東日本大震災は、被害総額が20兆円、死者が2万人でしたが、南海トラフ地震ではさらに広範囲に、しかも人口密度が高いエリアが被災します。政府の試算では被害総額が東日本大震災の11倍に及ぶ220兆円に達し、死者も20万人を超えると推計しています。日本の人口の半分以上にあたる6800万人が被災するという予測もあります。

この事態になると、国内の近隣地域からの救助・救援を期待することはできません。鎌田先生はこのことを踏まえ、南海トラフと呼ばず、「西日本大震災」に備えよう、と言っておられます。

 

富士山が噴火すると首都圏の機能は完全に麻痺

もう一つ、過去に南海トラフで地震が起こると、ほぼ確実に起こっているのが、富士山の噴火です。前回から時間が経っているので、いつ噴火してもおかしくないほどマグマがたまっていると言われています。

富士山の噴火というと、山梨や静岡に流れる溶岩流がクローズアップされますが、実はもっと深刻なのは、首都圏全域に火山灰が降り注ぐことです。首都圏の大部分は3~5cm、場合によっては10cmぐらいの灰が積もると予想されています。

もし、火山灰が10cm積もったうえに雨が降ったら、四駆の自動車も走れなくなります。火山灰の粒子は非常に細かく、エンジン内部に入り込むうえに、熱で溶けて焼きつき、部品を壊してしまうので、ヘリコプターや飛行機も飛ぶことができません。つまり、救急車や消防車はもちろん、自衛隊も助けに来られないことになります。

火山灰が基地局の通信機材に入り、通信は途絶し、停電する確率も高いでしょう。上水道が汚染されることによって水も飲めなくなります。つまり、富士山が噴火すると首都圏の機能は完全に麻痺してしまうのです。

首都圏に住む4800万人が被災者となり、誰も助けに来ないとなれば悪夢です。いくら治安の良い日本でも暴動が起きるでしょう。そう考えると、最低でも2~3週間は自助しなければならないという前提で、相当量の食料や飲料水の備蓄が必要ですし、ビジネスのポートフォリオや拠点分散、備蓄を考えておく必要があります。

ちなみに火山灰が降り注ぐと、寒冷化も進みます。フィリピンのピナツボ火山が噴火したとき、成層圏に細かいチリが飛んだことで、北半球の平均気温が半年間、0.6度程度下がりました。温暖化だけでなく寒冷化のシナリオもあり得るのです。

 

「ディザスターレディ」で新しいビジネスを考える

新しい考え方で災害に備えるディザスターレディー

では、そんな自然災害が起きることを前提として考えられるビジネスチャンスのシナリオには、どのようなものがあるでしょうか。

例えば、巨大地震が起こることが明確なら、津波に備えて海岸にコンクリートの防護壁などを設置するといった対策が必要です。しかし、日本はただでさえ借金大国ですから、インフラへの再投資にも限界があります。

そうなると、「最終的には決壊するけれど、最低限皆が逃げられる時間を稼ぐための防護壁」や、「壊れないことより地震後の復旧しやすさを重視した備え」というような、新たな考え方のインフラが広まるでしょう。

これを慶應義塾大学の安宅和人教授は「ディザスターレディ」と述べています。高い可能性で大規模災害が起こると予測される中では、こうした新しい考え方で新しいインフラを作るビジネスが求められるでしょう。

 

有事後の改善ではなく先回りしたシナリオを

日本文化は改善型の文化であり、有事が起こったあとに立て直すことを得意としています。

例えば、大正時代に関東大震災があったあとは、どんな建物にも耐震構造を義務化する建築基準法を作りました。実はこういう法律を作ったのは、世界で日本が初めてです。

また、戦後の伊勢湾台風のときに、気象情報を米軍のレーダーに頼った反省から、まだ貧しい時代だったにもかかわらず、富士山にレーダーを上げ、アメリカに頼んで気象衛星「ひまわり」を打ち上げています。

しかし、有事のあとの改善が得意ということは、逆に言えば、自分の世代が経験していない想定外の事態には弱いということでもあります。

日本は戦後、高度成長をしてきましたが、それが実現できたのは、異常なほど巨大地震がない安定期だったからだと、地震学者たちは述べています。

しかし、これから30年の間に巨大地震が起きることはほぼ確実です。そんな中で、我々はどう耐え凌ぎ、復興させ、かつしたたかにビジネスを作っていくか。そうしたシナリオをつくることが求められているのです。

今回お話しした内容をより深く知りたい方のために、おすすめの本も挙げておきます。気候に関しては、一時期話題になった、アメリカ元副大統領アル・ゴア氏の『不都合な真実』。当時は内容が飛躍し過ぎていると言われていましたが、今や指摘通りのことが起きているので押さえておく価値はあります。

ビジネスにつなげる観点で言えば、ジェレミー・リフキン氏の『グローバル・グリーン・ニューディール』が参考になります。

地震に関しては鎌田浩毅先生の本を読んでおくと理解が深まるでしょう。私が読んだ中では『揺れる大地を賢く生きる 京大地球科学教授の最終講義』と『知っておきたい地球科学』がおすすめです。(次回に続く)

 

【御立尚資(みたち・たかし)】
京都大学経営管理大学院特別教授。京都大学文学部米文学科卒。ハーバード大学で経営学修士(MBA with High Distinction, Baker Scholar)を取得。日本航空(株)を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社。日本代表(2005~15年)、BCGグローバル経営会議メンバー(06~13年)、経済同友会副代表幹事(13~16年)などを歴任。著書に『経営思考の「補助線」』(日本経済新聞出版)、『使う力』(PHPビジネス新書)、『「ミライの兆し」の見つけ方』(日経BP)などがある。

 

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