
元米モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)東京支店長の藤巻健史氏は、「今は資産を守る時期」だと言う。連載第4回の今回は、その根拠、そして具体的な資産の守り方を解説していただく。(取材・構成:坂田博史)
※本稿は、『THE21』2026年4月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※本稿は2026年3月時点の情報に基づき、投資に対する著者の考え方を示したものであり、個別の金融商品を推奨するものではありません。金融商品の価値は状況によって変動しますので、購入を含む投資の判断はご自身の責任で行なうようお願いいたします。
2026年に入ってからも円安の進行が止まりません。それを見て、片山さつき財務相は、「あらゆる手段を含めて断固たる措置を取る」と述べました。この「あらゆる手段」の中に、為替介入が含まれているのは周知の事実でしょう。
では、為替介入を行なえば、円安を止めることができるのでしょうか。私はかなり懐疑的です。加えて、そもそも為替介入に使えるドルが十分にあるとも思えません。
財務省が発表している25年末の外貨準備高は、約1兆3700億ドル。このうち約1兆ドルは米国債を中心とする証券です。これを売ってドルを確保することはできません。なぜなら、アメリカの長期金利が上昇してしまうから。ドナルド・トランプ大統領は、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)に対して、「金利を下げろ」と言っており、日本が米国債を売って金利が上昇したら激怒することは火を見るよりも明らかです。
米国債を売れないとすると、為替介入に使えるのは約1600億ドル(1ドル158円換算で約25兆円)の外貨預金のみです。
過去最大だった24年4~5月の為替介入は、約9兆7885億円でしたので、為替介入できるだけの十分なドルがあるように見えます。
ここで問題になるのが、25年7月に合意された日米関税合意に基づく5500億ドルの対米投融資です。当然ながら、このためにもドルが必要になります。
外貨預金を為替介入用として対米投融資に使わないのであれば、対米投融資用に円を売ってドルを買う必要があります。しかし、それをやったら自ら円安を加速させてしまいます。円売りドル買いができないとしたら、外貨預金1600億ドルで、為替介入と対米投融資の両方を行なわなければなりませんが、それはどう考えても無理でしょう。
つまり、為替介入できるだけの十分なドルが日本にはなく、もし為替介入をやってしまうと対米投融資ができなくなってしまうのです。
日本がこうした状況であることは、マーケットは百も承知です。ですから、円安の進行を止めようと、仮に過去最大の約10兆円規模の為替介入を日本政府が行なったとしても、それ以上の介入ができないとマーケットが判断すれば、円は売り浴びせられ、介入効果がないどころか、円暴落の引き金を引く結果になることも十二分に考えられます。
こうした最悪の事態を招かないためにはアメリカの協力(協調介入)が欠かせません。片山財務相はスコット・ベッセント米財務長官と会談を行なっていますが、ベッセント財務長官は、私と同時期にジョージ・ソロス氏の投資会社におり、1992年のイングランド銀行の為替介入に勝った男です。為替介入が効かないことを誰よりもよく知っている人物が、為替介入など行なうはずがありません。つまり、アメリカの協調介入の可能性はないということです。
この連載で何度も述べてきたように、私は円の暴落に備えて、ドル資産をもつことを一貫して推奨してきました。それに対して、「トランプ政権になり、アメリカにも不安要素が多く、ドルも危ないのではないか」と心配する声があります。
確かに、ドルを取り巻く状況も良くはありません。直近の1年間、ドルがユーロに対して下がっているのは事実です。それでも私はドル資産をもつことが、最大の資産防衛になると考えています。
大事なことは、現在は資産を積極的に増やそうと攻める時期ではなく、守る時期だということ。守るときに考えるのが保険ですが、保険選びは保険会社選びが重要で、大きな危機に備えたいのであれば、最強の保険会社を選ぶことが重要になります。
では、世界で最強の保険となる国はどこでしょうか。経済力を考えても、軍事力を考えても、アメリカではないでしょうか。アメリカは資本主義の宗主国であり、これからの経済成長に欠かせないエネルギーとテクノロジーという二大重要資産を確保しています。
さらに、ドルは世界の基軸通貨です。世界中、どこに行ってもドルは使えます。円は、本来、日本経済の成長に合わせてしか通貨量を増やせませんが、ドルはアメリカ経済の成長ではなく、世界経済の成長に合わせてその通貨量を増やすことができます。
日本は経済成長以上に円を刷っているから円の価値が棄損し、円安が進んでいるわけです。ドルも大量に刷られていますが、世界経済の成長を考えれば、それでも多すぎるということはありません。円とドルでは需要の規模が桁違いなのです。
ドルが基軸通貨であることは、アメリカにとって最大の国益です。ですから、貿易のためには多少ドル安のほうがいいと言いながらも、アメリカ政府は最終的にはドルの価値を守るでしょう。
また、ドルに代わって基軸通貨になり得る通貨があるでしょうか。
世界第2位の経済大国は中国ですが、中国がアメリカよりも強い国だと考える人は少ないのではないかと思います。実際、不動産不況は深刻で、経済成長に陰りが見えます。中国は資本統制があり、通貨人民元を国外に持ち出すこともできません。したがって、基軸通貨になる資格すらありません。
世界第3位の経済大国ドイツを含む欧州連合(EU)がアメリカよりも強いかと言えば、そんなことはないでしょう。EUは27の加盟国の連合であり、財政は国によって違います。財政状況は南北で地域格差があり、ギリシャが財政危機に陥ったとき、それをどこが助けるのか大問題になったことを覚えている人も多いと思います。
財政が国によって違うのに通貨が同じという状況が変わらない限り、同じ問題がいつ起きてもおかしくありません。
通貨というのは、その国の経済の自動安定化装置の働きがあるのですが、それが働かないEUとユーロがアメリカよりも強いとは、少なくとも私には思えません。

私が考える資産防衛の第1の選択肢は、ドルのマネー・マーケット・ファンド(MMF)です。アメリカでは、銀行預金よりもMMFのほうが規模も大きく、利回りも良いのが、その理由です。
もし、ドルの価値が下がることに不安を覚えるのなら、MMFに加えて、インフレ対策として、米国債券ベアファンドの購入を検討してみてはいかがでしょうか。このファンドは、米国債券の価格が下がる=金利が上がると利が得られますので、インフレ対策になります。
ちなみに、ベアは熊で、熊は攻撃するときに上から下に爪を振り下ろすので、価格が下落するマーケットをベアマーケットと言います。他方、ブルは牡牛で、牡牛は攻撃するときに下から上に角を振り上げるので、価格が上昇するマーケットをブルマーケットと言います。
つまり、ベアファンドは、価格が下落するときに利が得られるファンドで、ブルファンドは逆に価格が上昇するときに利が得られるファンドになります。
インフレに備える資産防衛策として、一般的には株や不動産を買うことが推奨されます。現在、日経平均株価が最高値を更新し続けているのも、インフレを見越して買い進めている人や機関が多いからというのが理由の1つでしょう。
日本のインフレが普通のインフレであれば、株や不動産を買っておけば資産を守ることができます。しかし、私が危惧しているのは円が暴落するハイパーインフレです。そのときに、株価や不動産価格がどう動くのか、私にもわかりません。したがって、株や不動産を買っておくことが資産防衛策になるのかも正直わかりません。
例えば、1997年のアジア通貨危機のとき、韓国も通貨危機に陥り、国際通貨基金(IMF)の救済を受けました。このとき韓国の株価は約3分の1に大暴落しました。ローンで不動産を購入していた人たちの中には、失業して返済が滞り、不動産を担保として取られた人もいます。
こうした事例を見ると、株や不動産を買うことが、通貨危機のようなハイパーインフレ対策になるとは思えません。
日本の住宅ローンについても触れておくと、住宅ローンの金利を変動金利で借りている人は、固定金利に借り換えることをお勧めします。なぜでしょうか。
日本銀行は、政策金利を0.75%に引き上げましたが、金利を上げれば上げるほど、日銀の財務状況は悪化します。その理由については、これまでの連載で述べてきた通りです。ゆえに、日銀はこれ以上政策金利を上げられないというのが、私の見立てです。
ただし、だからと言って、住宅ローン金利も上がらないと考えるのは間違いかもしれません。
これまでは、日銀が政策金利を上げ下げすることで市場の短期金利をコントロールしてきました。しかし今回は、政策金利が上がらなくても、短期金利が上がる可能性があります。
なぜなら、インフレ期は基本的に好景気なので、お金を借りて事業を行なうと、借金以上の利益を出せるから。一杯700円だったラーメンが1000円になり、1500円でも売れるようになれば、借金を返しても十分な利益が残ります。
こうして事業資金の需要が増加し、金利を上げても借り手がいるのであれば、資金を貸す銀行は貸出金利を上げるでしょう。そのほうが銀行は儲かりますから。当然、住宅ローンの金利もそれにつれて上がることになります。
日銀が政策金利を低く据え置いていても、市場の金利は上がっていく。中央銀行が市場の短期金利をコントロールできない世界初の事態になるかもしれないのです。
これが、日銀が政策金利を上げられなくても、住宅ローンは固定金利にしておいたほうがいい理由です。
以上のように考えてくると、やはりドル資産を持つことが今は最も安全な資産防衛策になる──。そう私は思うのですが、皆さんはどう考えるでしょうか。

更新:03月28日 00:05