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チームの自律性を最大化するには? 効果的な「部下への仕事の任せ方」

2025年02月28日 公開
2025年06月03日 更新

大村壮太(作家)

アジャイル・マネジメント

現代の管理職に求められる役割は、時代とともに大きく変化しています。金銭的な報酬だけではモチベーションを維持することが難しい現代では、メンバーの心を動かし、自発的な行動を促すコミュニケーション"内発的動機づけ"が必要です。

連載第3回にあたる本稿では、内発的動機づけを組織全体に浸透させるための具体的な手段として、アジャイルの思想に基づく組織設計の技術に焦点を当てて考えていきます。アジャイルの手法がどのようにしてメンバーの自主性を引き出し、変革を推進する組織文化を築くのか、その仕組みと効果を紐解いていきます。

 

アジャイルの思想とは

アジャイルは、もともとソフトウェア開発の分野で発展した手法で、2001年に「アジャイルソフトウェア開発宣言」として体系化されます。とはいえ、「アジャイルソフトウェア開発宣言」は、アジャイルの重要な4つの価値原則を記載しただけの極めて簡素なドキュメントです。以下が、その4つの価値原則です。

 

・プロセスやツールよりも個人と対話を
・包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを
・契約交渉よりも顧客との協調を
・計画に従うことよりも変化への対応を

 

ここで重要なのは、アジャイルが当時主流であったウォーターフォール型の開発プロセスに対するアンチテーゼとして提示された点です。

ウォーターフォール型の開発プロセスでは、事前に全体の計画や工程が厳格に定められ、各フェーズを順次実行するため、変更が困難であったのに対し、アジャイル型の開発プロセスでは、計画や工程はあくまでガイドラインとして扱われ、反復的なプロセスを通じて頻繁にフィードバックを取り入れ、状況に応じた柔軟な対応が重視されます。

90年代中盤以降、ソフトウェア業界ではPCの普及やWebサービスの進化といった構造的変化に伴い、市場の変化が爆発的に速まることが予測されていました。アジャイルは、こうした市場の変化に迅速に対応することを目的として整備された、革新的な開発手法だったと言えます。

 

スクラムとアジャイル実践

アジャイルの具体的なフレームワークとして最も広く利用されているのが、スクラムです。スクラム自体は、「アジャイルソフトウェア開発宣言」が完成する前に既にプロセスとして体系化されていましたが、一般的にはアジャイルを実践するためのフレームワークとして認知され、アジャイルと同義に扱われることも多いです。

スクラムのフレームワークは非常にシンプルで、短期間のスプリント(反復作業)を基本とし、各スプリントの終わりにレビューと振り返りを実施することで、プロダクトの改善を図ります。

また、チームには、プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発者という明確な役割分担があり、各メンバーが役割を元に自律的に動くことで、迅速な意思決定と柔軟な対応が可能となっています。

 

アジャイルな組織設計の具体的な技術

アジャイルやスクラム自体は、組織設計の思想そのものではありません。しかし、その精神を紐解くと、個人が内発的な動機づけを日々の仕事の中で発揮するために必要な制度上の工夫について、さまざまな示唆を与えてくれます。今回は、チームの自律性を実現させるために必要な権限委譲と責任定義の工夫について紹介します。

組織設計上の課題として、しばしば意思決定に関わる権限や責任の設計が挙げられます。筆者は「意思決定の責任の所在が曖昧である」や「意思決定の権限が不明瞭」といった表現が、事態を過度に抽象化して問題の本質を糊塗する危険があるため、必要以上に利用べきではないと考えています。しかし、チームに適切な裁量や権限を与えることが、個人の内発的動機づけを引き出すことは間違いありません。

スクラムにおいては、チームが「何をリリースするか」を決める権限は、プロダクトオーナーという役割に属することが定められています。

プロダクトオーナーはチームの一員であり、チームがやるべきことは基本的にチームで決めるという自律的な意思決定の原則が根底にあります。当然ながら、プロダクトオーナーはプロダクトに関係するステイクホルダーの意見を取り入れながらリリース計画を作成しますが、最終的な意思決定の権限は全てプロダクトオーナーに帰属します。

自律的な意思決定を行うスクラムチームを作るためには、マネージャーが適切に権限をチームに委譲することが肝要です。

たとえば、マネージャーの役割をファンダメンタルなマネジメント業務(予算管理や人事など)に限定すれば、プロダクト開発におけるチームの自律性は大きく向上するでしょう。

また、マネージャーが他のチームとの調整や法令上「必須」となるリリースのみ決定権を持つ、あるいは重点的に改善するKPIや取り組みのテーマのみを決定し、チームはその実現手段に決定権を持つといった切り分けも考えられます。どこまでの裁量を与えるかは、チームの実力を勘案しながら、マネージャーが探っていくことになります。ここは、組織設計の腕の見せ所です。

注意すべきは、チームに自律性を与える際、結果に対する責任も同時にセットで与える必要がある点です。前述の通り、「責任」という言葉は権限と対になり曖昧になりがちですが、企業において「責任を負う」ことは人事評価を受けることと同義です。

たとえば、マネージャーがスクラムチームに委譲すべきでないと広く考えられている人事権は、スクラムチームがフラットな構成を保つためにも重要です。したがって、マネージャーは、スクラムチームのメンバーのパフォーマンスを適切に評価する能力を持つとともに、評価に必要な情報を定義し、過不足なく収集できる体制を整えることが不可欠です。

最適な権限委譲や責任定義を実施しつつ、評価制度や人事措置といった仕組みを整え、各メンバーが自らの責任を確実に果たせる環境を構築する必要があります。こうした取り組みが、チームの自律性を促進し、内発的動機づけを根底から支えるとともに、アジャイルな組織設計の効果を最大限に引き出す鍵となるのです。

次回は、アジャイルな組織設計がどのように変革を推進し、内発的動機づけを持続させているのかをさらに詳しく検証します。現場での実践や直面している課題、そしてそれに対する解決策を具体的に取り上げ、組織全体でアジャイルの思想を実現するためのヒントを探っていく予定です。

 

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