自分の残りの人生があとどれくらいかを考えると、「やりたいこと」や「やるべきこと」がいろいろ思い浮かぶと思います。仕事についても同じで、いつまで働きたいか?働きたくないか?をイメージし、
「自分定年」を設定することで、進むべき道が見えてくるといいます。経営コンサルティングやキャリア支援事業を行なう4designs株式会社代表取締役CEOの有山徹氏が解説します。
※本稿は、有山徹著『なぜ働く?誰と働く?いつまで働く? 限られた人生で後悔ない仕事をするための20の心得』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
1年で夏は1回きり。学生の頃の夏は、甲子園を目指して野球に打ち込んでいました。あの頃と同じ夏は二度とないだろうし、今年と同じ本を書く夏も、(たぶん)もうないでしょう。
はたして私にはあと何回、夏が来るだろうかと考えてみました。
仮に90歳まで生きるとして、あと45回くらいです。元気に動き回れるうちに、と限定すると残り35回、もしくは25回かもしれません。子どもと遊べる夏をと考えると、もっと少なくなります。
そんなふうに考えたら、「あれ? 意外と少ない!」と少し焦りました。
それなのに実際は、いつのまにか「今年も夏が終わってしまった」とちょっと後悔することが少なくありません。毎日仕事をしていると1か月なんて、あっという間に過ぎていきます。45回あったはずの夏が、もう44回にカウントダウンです。
限りある人生の大切さは、誰もがなんとなくわかっています。でも、本当に死に直面しない限り、自分の人生に限りがあることを、腹の底からリアリティを持って感じるのは、難しいですよね。
今日と同じように明日がやってくるし、今週と同じように来週は始まるし、今年と同じように来年も生きる。つい、そう思ってしまいます。
そこで「思い切り夏を楽しめるのは、人生であと20回かも」と考えると、少しだけ、人生の輪郭がくっきりとしてきます。
満開の桜を見られるのも20回、クリスマスにケーキを食べるのも、年末に見る歌番組も、20回です。いやもしかすると、それよりもっと少ないのかもしれません。明日人生が終わってしまう可能性も、ゼロではないのです。
親と離れて暮らしている方ならば、「親と会えるのも、あと何回だろう」と考える方もいます。それなのに、日々親とのコミュニケーションを大切にしているかというと、案外そうでもなく毎日が過ぎているものです。
仕事も同じです。いつまで働けるか、という視点で考えてみることは少ないと思います。むしろ、「いつまで働かなきゃいけないんだ」と、うんざりしている人のほうが多いかもしれません。
いずれにしても「いつまで」という区切りは、具体的には意識していないはずです。働ける期間はあと20年、あるいは10年、もしかしたら数年かもしれません。転職するチャンスは何回もないでしょう。その中で情熱を燃やせるような仕事をする機会は、もっと少ないはずです。
このまま仕事を続けていいのかと迷いながら、気がつくと何枚もカレンダーをめくって、年明けに誓った「今年こそは」が、年の瀬には「来年こそは」に変わっていたりします。
思い当たる節があるなら、たとえばこう考えてみてください。
もしも、あと10年しか働けないのだとしたら、明日からも同じように過ごしていくだろうか?
私は"自分定年"という言い方をしていますが、自分で区切りを作ってみると、人生の解像度が上がっていきます。50歳でリタイアするとか、75歳までは働こうとか、何歳でもいいのですが、とにかく自分なりに定年を決めれば、心も頭も体も動き始めます。
「今から1年後、あなたは今日から始めていれば良かったと望んでいるだろう」
1970年代に活躍したアメリカの女優、カレン・ラムの言葉だそうです。
『トム・ソーヤーの冒険』を書いた小説家のマーク・トウェインも、近い意味合いでこんなことを言っています。
「20年後、あなたはやったことよりもやらなかったことを後悔する」
さらにスティーブ・ジョブズは2005年に米スタンフォード大学の卒業式で行った有名な演説でこう言いました。
「私は毎朝、鏡の中の自分に向かって、『今日が人生最後の日だったとしたら、今日の予定をやりたいと思うだろうか』と問いかける。『ノー』の日が続いたら、何かを変えなければいけない」
私たちは普段、直感よりも論理で答えを求められる場面が多く、さまざまな情報に振り回されては、人生の本質からどんどん離れてしまっているのかもしれません。結局、どんなに頭で考えるよりも、心で感じるほうが自分を動かすパワーになるのです。
ここまでを読んで、少しだけ、心がキュッと締め付けられた人がいるかもしれません。
アメリカのベストセラー作家であるダニエル・ピンクは『THE POWER OF REGRET 振り返るからこそ、前に進める』(かんき出版)の執筆にあたり、1万6000人もの"後悔"の体験談を調査したそうです。そして、やった結果に対する後悔より、やらなかったことへの後悔のほうが、より強いことがわかったといいます。
仮にそれが事実だとしても、未来をあきらめる必要はありません。少しだけでも何かを変えたい。より良い人生に向かっていきたい。だけれど、何をすればいいのかわからない。
もしあなたが今、そんなモヤモヤを抱えているのなら、ぜひ「自分定年」を設定してみてください。
以前は定年というと会社が決めるものでしたが、今は何歳まで働くかなんて本当に人それぞれです。
70歳までは働くという人もいれば、80歳を過ぎてもがんばりたい人もいるし、逆に60歳までにリタイアしたい人だっているでしょう。
あなたは、何歳まで働いていたいでしょうか?
自分定年を決めると、自分の進むべき方向が定まってくる効果もあります。今はやりたいことが特にない人でも、たとえば75歳まで仕事をしていたいと決めたら、「その歳になったときにどんな仕事ならできそうか」という視点が生まれます。
今ほど体力はないし、会社員でもない。そうなれば、高齢でもできるアルバイトなどを探すか、個人でできる仕事を受けるという選択肢も出てくるでしょう。では個人で仕事を受けるには、残された時間で何をしないといけないのか。そんなふうにして、あなたの進む方向が見えてくるはずです。
更新:02月22日 00:05