THE21 » キャリア » タイミーではキャリアを築けない? 27歳社長が打ち壊す「たかがバイト」の常識

タイミーではキャリアを築けない? 27歳社長が打ち壊す「たかがバイト」の常識

2024年11月11日 公開
2024年11月12日 更新

小川嶺([株]タイミー代表取締役)

小川嶺

今年7月、上場直後の時価総額は実に1,379億円。「スポットワーク」という新市場を開拓したタイミーは、創業6年で利用登録者数900万人を超えるサービスに成長した。労働力不足、AIをはじめとする技術の進歩は、人々の働き方をどのように変えていくのか。『THE21』2024年11月号では、タイミーを創業した27歳の若手起業家に、これからを生きるビジネスパーソンが心がけるべきことを聞いた。(取材・構成:川端隆人)

※本稿は、『THE21』2024年11月号特集「これから10年の生き方・働き方」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

仕事観の刷新を迫る、労働力不足+デジタルシフト

これから10年の間に訪れるであろう社会の変化の中で、私が注目しているのは労働力不足です。現在、生まれてくる子どもたちは1学年当たり70数万人という水準で、それが上昇に転じる兆しは見えません。むしろ、少子化が加速していきそうな状況です。

AIをはじめとする技術の進歩を踏まえて、人手が労働集約型産業から別分野にシフトしていくことはあるでしょう。それでもやはり、個人店の仕事や介護といった、人手が必要な分野は今後もなくならないはず。リクルートワークス研究所の出しているデータでも、2040年には1100万人の労働力不足が起きると予測されています(リクルートワークス研究所『未来予測2040  労働供給制約社会がやってくる』)。

デジタルシフトが叫ばれる中で、「AIに仕事を奪われる」「仕事がなくなる」という考え方をする人もいます。私は、人が必要であることは変わらないし、テクノロジーはあくまで補助であると考えます。

技術を活用して、人がやることがよりシンプルになったり、負荷が下がったりする中で、人間だからできることは何なのかを考えていく。そのために、自分はどんな仕事をしたいのか、なぜ働いているのか。社会にどんな貢献ができるか、どんなことにやりがいを感じるのか......といった問いに改めて立ち返るべきタイミング。それがデジタルシフトの時代なのではないでしょうか。

 

古くて新しい「仕事とやりがい」の問題

働くことに対する考え方の変化

若い世代の「働くこと」に対する考え方が変わってきている──そう感じているミドル世代は多いでしょう。実際、変化は起きていますし、今後も変わっていくのは間違いない。であれば、今の若い世代が仕事についてどんな考え方を持っているかを知ることは、未来を見るうえで重要だと思います。

子どもの「将来の夢」のランキング上位にYouTuberやeスポーツ選手が登場するようになって久しいですが、ここに表れているのは「楽しいと感じることでお金を稼げたらいいな」という若い世代の発想です。別の言い方をすると、仕事とやりがいを、今まで以上に強く紐づける思想を持っている世代、と言ってもいいでしょう。

そう考えると、これからの企業はビジョン、ミッションをいっそう大事にしなくてはいけないことがわかります。なぜ、この会社は存在しているのか。誰を喜ばせるために、何をやっているのか。ビジョンやミッションを明確に打ち出せる企業が、仕事の場として選ばれるということです。

これは、私も敬愛するパナソニックグループの創業者・松下幸之助氏の言う「お客様大事の心」といった考え方とも通じるのかもしれません。

仕事をすればお金をもらえる、出世すれば給料が上がっていく、というだけではなく、やりがいが大事。その視点が改めて重視されているのが、若い世代の価値観であり、これからの働き方だと思います。

 

最新技術には「とりあえず触ってみる」

時代の変化に備えるために、何をすればいいのか。私から提案するとしたら、新しいサービスを「とりあえず使ってみる」ことが非常に大事ではないでしょうか。

例えば、ChatGPTなどもそうですし、若者の間で流行っているアプリなどもそう。ビジネスパーソンの皆さんは、忙しい中でも情報はよく入れていらっしゃるし、概略は理解しておられると思います。反面、「なんとなく知ってはいる」段階で止まっていることが多いのではないでしょうか。

そこを一歩踏み込んで、まずは使ってみる。そうすることで時代の変化に対する感度も磨かれますし、仕事にも活かせる、実感を伴ったアイデアを学べると思います。最新技術について本やセミナーで勉強することも良いと思いますが、「まずは触ってみる」を私は意識しています。

もちろんタイミーも、ぜひ一度体験していただけたらと思います。実は、利用者の3割ほどは会社員の方です。残業規制があったり、物価高の影響もある中で、副業を見つけるために使っていただく方が増えています。 実際に触っていただくと、色々な発見があるのではないでしょうか。

 

会社員こそタイミーを使ってほしい理由

タイミーで募集している求人の業種は、物流系・飲食系・小売系のお仕事が9割です。普段デスクワークをされている方からすると、「副業といっても、自分のスキルが活かせるような案件はあまりないな」と感じられるかもしれません。

そういう方こそ、普段の仕事と違うことを副業でやってみることに意味があると私は感じています。世の中の見え方が変わるからです。

実は私自身も、年に1回はタイミーで仕事を探して働くことにしています。もちろん、運営している会社の社長であることは隠して、一利用者としてです(笑)。

例えば、飲食店で働いてみる。ホールスタッフのバイトを経験すると、その後は居酒屋で飲んでいるときでも「ビール、遅いな」と不満を言うのではなく、人手不足の中でお店のオペレーションがどれほど大変な状況になっているかを想像することができるようになります。

あるいは、倉庫でピッキングをやってみる。それまでネット通販で品物が届くのは当たり前だったのが、「ありがとうございます」と配達員の方への心からのお礼が自然に出てくるようになります。

これが世の中の見え方が変わるということであり、自分の仕事を見つめ直すことにもつながっていくわけです。私にとって、とても貴重な学びの場です。当社の従業員も、サービスの改善に活かすために、時々タイミーを通じて働いています。

タイミーのミッションは「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」です。

タイミーで好きなときにバイトができるようになった。でも、バイトして終わりではキャリアをつくることにはならないという声は以前からありました。

人生の可能性を広げるために、タイミーで働くことでキャリアがつくられていくようにしたい、という強い思いから、今年提供を開始したのが「タイミーキャリアプラス」。正社員での就業を目指す方を支援し、求人企業と結びつけるサービスです。

タイミーを使って30店舗で働いて、30店舗からグッドの評価をもらって無遅刻無欠勤であれば、信用スコアが高く評価され、入社してほしいと思う企業は多いはずです。そういう人材の価値をしっかりと企業に届けていく。それができれば、望まない非正規雇用の方の割合は下がっていくでしょう。

「たかがバイト、されどバイト」という認識を世の中につくっていけるかどうか。ここには大きなイノベーションの余地があると考えています。

 

生産性アップの鍵は「夢を語る大人」

大人が夢を語ることで、日本の生産性は向上する

10年というスパンで考えると、海外への進出も視野に入ってきます。

少子高齢化や人手不足は、日本だけの問題ではありません。課題先進国である日本でしっかりとサービスを展開して、そのナレッジを世界に展開していくのは無理なストーリーではないと思っていますし、日本のものづくりの強さを示すチャンスでもあります。

アメリカなのか、アジアなのか、どこから展開していくかを含め、これから検討していきます。

また、やりたいことを自ら発信するのはとても重要だと私は思っています。言わないことは実現できないし、発信することで仲間を巻き込み、先輩たちを巻き込み、業界を巻き込むことによって夢を実現する。私はこれを繰り返してきたつもりです。何歳になっても夢は掲げるべきですし、やりたいことは言うべきだと思うのです。

誰もが子どもの頃には「お花屋さんになりたい」「パイロットになりたい」と夢を掲げていたのに、大人になると今の仕事に忙殺されて夢を語らなくなってしまう。

でも、大人になってから夢を描くことの何が悪いのか。タイミーを使って飲食店で働いて、「そういえば昔、自分の店を持ちたいと思ったことがあったよな」と、もう一度夢を追う気持ちが湧いてくる人がいてもいい。

もちろん、副業を経験して、「やっぱり自分は今の仕事が好きなんだなあ」という結論になってもいいのです。「働く」を見つめ直すことによって、仕事に対する熱意を取り戻す人が増えたら嬉しいです。

一般に生産性向上とは機械化、自動化、合理化のことだと思われていますよね。私は「それは違う、生産性向上とはワクワクすることだ」と考えています。

働く人が仕事に熱意を持ち、ひたむきに楽しみながら全力で頑張ること。それを可能にするための環境が用意されること。これによって日本の生産性は上がっていくと考えています。

実は、先人たちがつくってきた日本は、そういう国だったのではないでしょうか。「勤労感謝」という言葉があるように、働くことは苦痛ではない。仕事に熱中していたら、気がつくと高度な技術が身についている。だから日本の職人文化は強いし、日本のものづくりは評価されるのです。

「働くってなんだっけ?」ということを再定義する必要がある。そんな転換点をリードする会社として、10年後も成長を続けていられたらと思います。

 

「2100年の日本」 を見つめて

ありがたいことに会社の成長スピードが早く、私自身は追いついていくのが精一杯という感じもあります。自分自身の今後10年を考えると、日本経済、日本社会に対して影響を与える1人になっていくことが目標です。まだまだ現状とはかけ離れた目標ではありますが、10年あればできることはたくさんあるでしょう。

死から逆算するという考え方がありますよね。仮に自分自身が2100年くらいまで生きることができるとしたら、そのとき、私は103歳です。

そのとき、推計によれば日本の人口は5000万人を切っています。GDPではおそらくブラジルあたりに抜かれて、世界で10位を下回っているかもしれない、と予想する人もいます。

ただ、未来を変えることはできるはずです。少子高齢化による労働力不足を解消することは、自分が人生をかけて取り組まなければならないことだと考えています。

2100年までの歴史を変える人の1人でありたい。それが私の目指していることです。

 

【小川嶺(おがわ・りょう)】
1997年生まれ。立教大学経営学部卒業。2017年、大学在学中にアパレル関連事業の会社を立ち上げた。1年で事業転換し、18年8月にスキマバイトアプリ「タイミー」のサービスを開始。24年7月26日に東証グロース市場上場。23年にフォーブスジャパンの「日本の起業家ランキング2024」で2位に選出された。 

 

THE21 購入

2024年12月

THE21 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

60代以降も雇われたままで良いのか? 老後の不安を解消する「働き方の選択肢」

大杉潤(研修講師)

松下幸之助が説いた「有能なのに会社で大成できない人」の一つの特徴

渡邊祐介(PHP理念経営研究センター代表)

“従業員の居眠り”が難局を打開? 松下幸之助の「困難との向き合い方」

渡邊祐介(PHP理念経営研究センター代表)