
40代・50代ともなると、もう伸びしろはない......。そんなふうに思い込んでいないだろうか。LINEヤフーアカデミア学長の伊藤羊一氏によれば、「ミドル世代こそ、日々の経験に学び、自分の手で成功や幸運を呼び込むことが得意な世代」だという。そのための習慣=「1行書くだけ日記」を伝授してもらった。
取材・構成:山岸裕一
※本稿は、『THE21』2024年1月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
――社会人から若い学生まで、幅広く「人を育てる」立場にある【伊藤】さん。何事も自分の糧として前向きにとらえて成長し、日々を充実させられる人は、そうでない人とどんなところが違うのでしょうか?
【伊藤】人がうまく成長できるかどうか、それを分けるのは「日々の気づきの回数の差」です。
――気づきの回数、ですか。
【伊藤】はい。私はこれまで多くの社会人や若い学生を間近で見てきました。その中で感じたのが、同じ経験をしても、じわじわとしか成長できない人と、指数関数的、あるいは非連続な「飛び級」的成長を遂げられる人とでは、明らかに違いがあるということです。
非連続な成長を遂げる人は、いわば「一粒で二度美味しい状態」を継続しています。言い換えるなら、一つの経験で、より多くの気づきを得ているのです。
――気づきの回数が多く、その密度が濃いほど成長できる、と。
【伊藤】はい。実は、効率的に気づきを得るにもコツがあります。そのコツとは、単にインプットをするだけではなく、学習や経験したことの振り返りを行なって意味づけし、次のアクションに結びつける意識を持こと。つまり、単純な「ラーニング」だけで終わってしまうか、それとも「アンダースタンド」まで持っていくかの違いです。
ラーニングとは、学習内容をインプットすること。もちろん大切なことですが、これだけだと「本を読んだり資格の勉強をしたりしただけで、実際の経験がないままで終わらせてしまっている状態」とも言えます。
そうではなく、アウトプットを通じてインプットした内容をより深く理解し、その経験を振り返ることで再び気づきを得るそんな「アンダースタンド」の状態まで持っていくことが成長には欠かせません。
――実際に手を動かすというか、経験することが重要なんですね。
【伊藤】はい。例えば、クルマを運転できるようになるには、交通ルールや運転の方法を学ぶだけでなく、実地講習も受けますよね。ときには失敗もしつつ、その失敗に学びながら、やがて上手に運転ができるようになる。
この流れこそ、理想的な成長サイクルです。振り返ることでインプットしたことを感覚的に理解し、気づきを得て、それを活かして次の行動とアウトプットにつなげる。皆さんも、このサイクルを日常的に速く回せる状態を目指してください。
何度も失敗を重ねながら、ときどきある「うまくいくパターン」の法用を見つけられれば、そこから「できること」が増えていきます。例えば、本を読んだあとや仕事をしたあと、趣味に打ち込んだあと、人とちょっとした会話をしたあとなどに、毎回振り返ってみる。すると、自然と気づきと理解が増えていきます。それができれば、あとは行動に移すだけ。
この「振り返り→気づき→行動」のサイクルが習慣化することで、人の成長は加速し、人生も充実していきます。
――年齢を重ねると、つい「もうこれ以上の伸びしろはないのでは」と、成長を諦めてしまう人もいます。
【伊藤】もったいないですね。人はいくつになっても成長できます。特に40代、50代になると、自分を俯瞰してものごとを捉える「メタ認知」の力が、若い頃に比べて高まってきます。
30歳くらいまではなかなか使いこなせない能力ですが、物事の構造を見抜き俯瞰するためには必須の力。少なくとも、「経験から気づきを得る」ということにおいては、この年代の方のほうが、若者よりも優れているはずです。
とはいえ、その力ばかり強くなると、客観視はできても批評するばかりで何も実行しない「評論家」になり、老害化してしまう恐れもあります。これを避けるためにも、やはり「気づき」止まりでなく、それをもとに明日何かを新しくやってみようと考え、実行するのが肝心です。
――伊藤さん自身も今、昔以上の成長ができていると感じますか?
【伊藤】もちろんです。私は現在50代ですが、教えている大学生以上に日々成長していると思います。
それは、今も日々「振り返り」を続けることができているから。そしてそこから「ハッ」と気づきを得られないか、その気づきが以前めいた他の気づきと結びつかない」と常に考えているんです。そして、そこから生まれたアイデアをもとに、新たな挑戦、アクションも頻繁に起こしています。
今この瞬間だって、取材を受けながら「ミドル世代に向けてこういう内容の話をすれば、彼らの第2の人生に向けた不安を払拭するような講演ができるかも」などと気づきを得ながら話していますから。
こうしてアウトプットに結びつける繰り返しが、「飛び級」的な急速な成長につながると思います。

――その「振り返り→気づき→行動」のサイクルは、ゼロからでも習慣化できるものなんでしょうか。
【伊藤】もちろんできます。そのために私が提唱しているのが「1行書くだけ日記」です。
これは私が銀行員だった頃に編み出したメソッド。毎日1行だけの日記をつけることで、振り返りと気づきを習慣化しました。
この手法は、気づきを得るために必要な「メタ認知力」を、すでに高い水準で持つミドルのためにあるような手法です。たった1行、その日の出来事について書くだけでいいのですから、負担にもなりません(詳しい書き方は上図参照)。
このサイクルの習慣化を成し遂げるには、自分自身がどれだけ成長意欲を持っているか、というマインドのほうが重要だと思います。
――「1行でいい」と言われると、逆に何を書くか迷ってしまいそうな気もします・・・・・・。
【伊藤】寝る前に1日を振り返り、一番印象的だったことから書いてみましょう。いいことでも悪いことでも構いません。
ただ、あとから振り返りができるように、紙のノートや日記アプリを活用することをお勧めします。私が使っているのは「DayOne」というアプリです。あとは「自分が手軽に続けられる方法」を選ぶことが大切だと思います。
1行日記の本質は、1日のうちう分だけでも、その日に起きた出来事や考えたことを客観的に振り返る時間を設けること。振り返りを続けることで、日々頭の中が整い、気づきを得られる回数が増えていきます。このサイクルをクセづけることが、1行日記を習慣化する最大の目的であり、効用です。
人は案外、自分を振り返らないもの。逆に言えば「振り返りを習慣化するだけ」でも、これまでとの違いが容易に感じられます。
あえて「1行」と銘打っているのも、何でも闇雲に書こうとするとハードルが高くなってしまい、習慣化しづらくなってしまうから。「1行」をフォーマット化することで、習慣化のハードルを下げたのです。
――書くテーマは何でもいいのでしょうか。それとも「仕事のこと」「家庭のこと」など、大きなテーマは統一したほうがいいのでしょうか。
【伊藤】書く内容は、本当にフリーで構いません。そのときに一番関心のあること、熱中していること、あるいは意識がつい向いてしまうことでもいいでしょう。その日に行ったところを書き記すだけでも構いません。あくまで「日々気づきを得て、頭の中を回す」ことを補助するための習慣ですから。
――なるほど、日記はあくまでも「手段」ということですね。伊藤さんはどんなことを?
【伊藤】ほんとに小さなことです。例えば「ダイエット」が最大の関心事になっているときは「低糖質を心がけていたのに、今日はついラーメンを食べてしまった」とか。
でもそう書くと「ダイエットがなかなか進まない理由」を、真剣に考える時間が生まれます。そこでハッと「仕事がうまくいかないときに限って、よく「ドカ食い」をしてしまうな」と気づけたんですね。それに思い至ってからは、仕事でイヤなことがあっても「ドカ食い」することはなくなりました。
――他にも気づきを得たエピソードはありますか?
【伊藤】以前から「英語を話せるようになりたい」と思いつつ、時間がないことがネックになっていたのですが、ある日の振り返り中に「仕事時間のうち3割が移動時間になっている」と、突然気づいたことがありました。
以降、クルマの中や新幹線では、ずっとリスニングの訓練をするように。スキマ時間の活用ってよく言われることですが、やはりこうして「気づき」をもとに実行できると、腹落ち感が格別。習慣化しやすいし、充実感も満たされるのです。
――そうした積み重ねのうえで、人生を変えるような大きな気づきもあるのでしょうか?
【伊藤】もちろん。私の仕事の一つに「アントレプレナーシップ(起来家精神)の育成」があるのですが、それをどう社会実装するか、という大きな企画を生む「タネ」になるような気づきもあるんです。
――毎日気づきを得て、アクションを起こす。これが大切だということですね。
【伊藤】その通りですが、毎日アクションまで持っていく必要はありませんよ。大変ですし、そう毎日アクションにつながるほどの気づきはありません。日々の振り返りを淡々と重ねながら、アクションは1週間や1ヵ月単位で進めればいいのです。
まずはとにかく「手軽」なのが重要です。日常を、少しでも言語化してみる意識で始めればいいのです。ダラダラ日記を書いても、なかなか気づきは得られません。多く書くより、あえて簡単に書く。そのほうが効果は大きいと思います。頭の中のもやもやは、アウトプットすることでスッキリするものですし。
例えば、「チームのコンディションが良い。成績がいいからだ」など、ちょっと決めつけるくらいがちょうどいいと考えましょう。というか、アクション実践に移すには、ある程度の決めつけは必要になるもの。正解かどうかわからなくても、一度自分の中で結論を出すことで、前に進めるようになるのです。
――途中で挫折せず、しっかり習慣化するためのコツはありますか?
【伊藤】とにかく「簡潔でいい」と考えることと、振り返りやそれに伴う「気づき」そのものを楽しむことです。1行日記が習慣になれば、次第に「物事を俯瞰して見るクセ」がついてきます。出来事やそのときの思考にどんな意味があったか、考える余裕も出てくるでしょう。
このレベルになると、わざわざ1行日記を介さずとも、その日の出来事や思返り、気づきを得たり、アクシにつなげたり、といったことができるようになります。
ここまで来たら、次のステップとして「文字にすること」から卒業していきましょう。1行日記に書いていたような内容を、第三者に話すのです。
人に話すことには、アウトプットと同じ効果があります。言葉にすることで、メタ認知がより強く発揮されるようになるのです。それに対人のコミュニケーションだと、書くときに起こりがちな「取り繕い」も発生しにくいもの。その分、その瞬間にしか出てこない自分の本音に気づける可能性もあります。
もちろん、1行日記を続けつつ、日記に書き記したことを定期的に人に話す、といったやり方でも構いません。
――他人に話す際のコツはありますか??
【伊藤】相手のリアクションは気にせず、自分の思考をそのまま言葉にすることを心がけてください。自分の発言を相手がどう受け取るか、に意識が向くと、効果は半減してしまいます。
この「人に話す」ことまで習慣化できれば、成長のサイクルがさらに加速するはずです。
更新:02月01日 00:05