2025年01月06日 公開
優れた耐震性や防音効果、さらに災害時の避難場所にもなり、 プライバシーも確保できるということで、 いま人気が高まっている「地下室付き住宅」。 これまでに1,200棟以上の地下室付き住宅を施工してきた工藤建設(株)に、 その魅力と、施工を可能にする技術&職人集団について取材した。(取材・構成:坂田博史 写真撮影:まるやゆういち)
「地下室」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。多くの人は、「暗い」「ジメジメしている」など、あまり良いイメージが浮かばないかもしれない。しかし、そんなイメージとは裏腹に、「明るく」「風通しの良い」地下室付き住宅を28年以上にわたって1200棟超つくり続けている会社がある。それが横浜市に本社を置く工藤建設(株)だ。
工藤建設は、建設・土木事業を祖業としながら住宅事業や建物管理事業なども行なう「ゼネラル・コントラクター(総合建設業者)」、いわゆるゼネコンである。だから鉄筋コンクリートを活用する地下室付き住宅を他社よりも低コストで、しかも短い工期でつくることができる。ゼネコンとしての強みを十二分に活かしていると言える。
「地下室をつくる施工技術を学ぶために、最初はカナダに社員を派遣しました。そして、地下室付き輸入住宅として販売を始めたのが1996年のことです」
こう教えてくれたのは、工藤建設取締役建設本部長の中山仁氏だ。また、同社の顧客が地下室付き住宅を建てたい理由には、大きく二つあるという。
「一つは、東京都内など、敷地面積が狭いケースです。建ぺい率や容積率によって建物の大きさは制限されているのですが、地下室は容積率の緩和措置があり、建物の床面積を最大1.5倍まで広くすることができます。 床面積を少しでも広くしたいというお客様の要望に地下室付き住宅は応えることができるのです。こうしたことをご存知のお客様が、当社のホームページを見て、地下室をつくりたいので相談したいと連絡をくれることもあります」(中山氏)
敷地面積に対して、建築面積の割合を建ぺい率、建物の延べ床面積の割合を容積率という。住宅の基礎部分の空間を有効活用する地下室には容積率の緩和措置があり、床面積を最大1.5倍にできる。1階と2階で80㎡の床面積の家を、地下室をつくることで120㎡まで広くすることができるのだ。
都内などは地価が高く、敷地はどうしても限られる。このため地下室をつくりたいというニーズが生まれ、その声に応えるために地下室付き住宅を施工してきた。
「地下室をつくりたい、もう一つの理由は、趣味の空間をつくりたいというものです。
例えば、好きなギターを弾きたい、ドラムを思いきり叩きたい、高音質オーディオでクラシック音楽を聴きたい、シアタールームにして大画面で映画を観たいなど、様々な用途のために地下室をつくりたいというお客様がいらっしゃいます。
地下室は、住宅の基礎と一体化した半地下構造なので、独立性が高く、耐震性、防音性にも優れています。このため、外に音がもれにくく、振動なども伝わりません。ですから、ダンスルームにしたり、子どものプレイルームにすることも可能です。 また逆に外の音を遮断することもできるので、静かに読書ができる書斎にされる方もいます。アイデア一つで地下室が自分の趣味のためのスペースとなるのです」(中山氏)
こうした自分の趣味の部屋をもちたい人は多いのではないだろうか。工藤建設の地下室の特徴は「半地下」で、採光や通風に必要な窓を設置したり、その外側に「ドライエリア」と呼ばれるスペースをつくることにある。これにより陽当たりと風通しを確保しながら地下室の快適性を高めることができるのだ。
しかし、最初からこうした地下室がつくれたわけではない。
「2000年に1階の床を木造にする施工方法(スラブ無し地下室)の評定を取得(Kudoフローレンスガーデン高断熱地下室構造工法「BCJ評定-LC0001」(財)日本建築センター)するなど、工法と技能を少しずつ向上させ、施工数を重ねることで今のかたちにたどり着きました。
地下室施工においてコンクリートの打設精度を向上させる工夫を重ねるなど、数多くの技術改善を繰り返してきました。特に本社周辺の横浜市田園都市エリアは高低差が多く、施工の難易度が求められるエリアでもあり、そのような中でお客様のご要望を最大限実現するように、試行錯誤を繰り返すことで、技術を磨いてきました。
また、地下空間は昨今ニーズが高まっている防犯性も備えることが可能で、快適でありながら安全、安心な住空間としての機能の提供が可能です。このように時代の変化と共に培ってきた技術ノウハウは、私たちの永年の地下室付き住宅実績が新しい価値を創造し、多くの方により安心で快適な暮らしを提案する原動力となっています」(中山氏)
現在、こうした地下室付き住宅の施工を主に担当しているのが、20代の多能工たちだ。彼らをまとめる直営室室長の小林裕行氏は次のように言う。
「現在所属する14人は全員20代で、入社時から多能工として育成しています。先輩社員について現場で学ぶのが基本ですが、大事なのは責任感があるかどうか。責任感をもって仕事をすれば成長できます。彼らが責任感をもって自由に仕事ができるように、室長である私が全責任を負うことをいつも念頭に置いています。
また、経験がものをいう仕事なので、住宅の建築現場だけでなく、土木の造成工事の現場や橋梁や建物の補強工事の現場など、様々な現場に行って経験を積んでもらっています」
多能工は、国家資格の保有を目指し、1人で測量から土木、鉄筋組立、型枠組立、コンクリート打設、足場組立までの6つの工種を担当できる。
社外の職人ではなく、社員が職人として施工するので、安定した施工体制を構築でき、生産性アップとコスト削減が可能になる。地下室付き住宅の多くをこうした20代の多能工が担っているというから驚きだ。
20代の若手社員の育成は、どの企業にとっても重要だが、厳しくすると辞めてしまい、甘やかすと成長しないというジレンマがある。どのような点に注意して接しているのだろうか。
「まずは、多様な経験ができること、仕事の面白さを伝えることを心掛けています。同時に悩みや不安も聞くようにしています。今は若手が少ないので、ちやほやされやすく、それで若手が勘違いして天狗になってしまうこともあるように感じています。厳しいことを言いづらい世の中ですが、それでも言うべきことは言わないといけない。
あとは、自分で考えさせること。指示ばかりだと、『やらされている』と思ってしまい、それが辞める原因にもなります。どうすればいいかを考えさせ、自分の意見を言ってもらい、それに対してこちらも意見をぶつける。良い意味での『言い合い』ができると、それが信頼につながります」(小林氏)
14日かかっている作業を12日間で完了するにはどうすればいいか、といったテーマでディスカッションをすると、有効なアイデアが次々に出てくるそうだ。例えば、現場に直接行くチームと荷運びチームを別にする。工事現場近くで駐車場を探す時間がムダなので、予約できる駐車場を見つけて予約しておく。一つひとつは小さな改善であっても、積み重なれば確実に時間短縮になる。
「14人は会社の宝です。色々な経験を積んで、多様な技能を身につければ、1人ですべてできるようになります。多能工として経験を積めば、将来的に独立することも可能でしょう。こうした将来像を語ることも、そこに到達するための道筋を一緒に考えることも、若手育成の大事なプロセスだと考えています」(中山氏)
最初は多能工を目指していても、色々な仕事を経験する中で現場監督や設計をやってみたくなる人もいるそうだ。そうしたキャリアチェンジも認められており、多能工からスペシャリストになる道もあるという。
地下室付き住宅の施工を担当する多能工の若者たち
緊急時の避難場所にも 工藤建設では、建設部門の営業担当者が住宅部門の会議に出たり、逆に、住宅部門の設計者が建設部門の会議に出るなど、他部門の会議に出ることや現場に行くことを推奨している。
そうすることで建設部門と住宅部門の違いを知ることができるからだ。住宅部門の社員が建設工事の現場に行けば、住宅工事の現場以上の緊張感を感じるなど、現場に行かないとわからないことを感じ取れる。社員に色々な経験をしてもらうことで仕事の幅や視野を広げてもらうことが狙いだ。
また、他部門の仕事を知ることで、それに挑戦したくなる社員もおり、そうした希望を叶えるかたちでジョブローテーションも行なっている。
「今までやったことがないことをやってみたいという気持ちを大事にしたいと考えています。技術やシステムはどんどん変わっていますし、法律や税制も変わります。そうした環境で会社のルールだけが今までと同じでいいわけがありません。『変わって当たり前』という意識で変化していかないと、会社も生き残れません」(中山氏)
こうした変化を恐れずに挑戦する企業文化があるから、独自の地下室付き住宅が生まれたのかもしれない。
そして、地下室付き住宅には、「床面積を広げる」「趣味の空間をつくる」以外に、防犯や防災に役立つ側面もある。
昨今、住宅に不法侵入する強盗事件が多発しているが、コンクリート壁に守られた地下室があれば緊急時の避難場所になる。 もちろん、地震や台風などの被災後の避難場所にもなる。地下室は温度変化が小さく、夏は涼しく、冬は暖かいので避難場所に適しているのだ。
工藤建設では、シェルター機能を取り入れた「SAFeREE (セーフリー)モデル」を開発。このモデルでは、コンクリート壁は22cmから30cmへ厚くなり、防護扉(防爆扉)や空気ろ過フィルターが装備される。
こうした防犯・防災といった地下室の新たな用途を提案すると共に、地下室付き分譲住宅や集合住宅を開発・販売することにもチャレンジしていきたいという。ますます地下室付き住宅のニーズが高まるかもしれない。
更新:01月18日 00:05