採用難が叫ばれる昨今、企業は優秀な人材の確保に頭を悩ませている。そんな中で注目を集めているのが、学生時代にスポーツに打ち込んだ「スポーツ人材」だ。その魅力や活用の秘訣とは?
一般社団法人日本アスリート支援協会代表理事を務めるFBモーゲージ(株)代表取締役社長の根石高宏氏に、アスリートのキャリア支援の第一人者・吉浦剛史氏が話を聞く。(構成:坂田博史/人物写真撮影:長谷川博一)
※本稿は、『THE21』2025年1月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。
【根石高宏(ねいし・たかひろ)】
FBモーゲージ(株)代表取締役社長
1980年生まれ。長野県出身。俳優を目指して上京し、演歌歌手のマネージャー業を4年間務める。その後不動産業界へ転身し、マンション販売を手がける中で住宅ローンの「フラット35」に出合う。同商品を扱う代理店への転職を経て、2015年9月にFBモーゲージ(株)を設立。一般社団法人日本アスリート支援協会の代表理事も務めている。
【吉浦剛史(よしうら・つよし)】
スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」推進委員(株)スポーツフィールド キャリアサポート推進室長
1988年生まれ。奈良県出身。大和ハウス工業㈱で社内営業表彰を複数受賞後、2015年に(株)スポーツフィールドに入社。現在は関西と九州のエリアマネージャーとキャリアサポート推進室長を兼任。2020年からはスポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」の推進委員も務める。アスリート学生へのキャリア支援のための講演や授業を行ない、受講生は1万5,000名を超える。JKC(全日本フルコンタクト空手コミッション)キャリアサポートアドバイザー。
【根石】住宅を購入する際、住宅ローンを組むのが一般的ですが、そのお手伝いをするのが私たちの仕事です。中でも、ローンを組むのが難しい方々へのサポートを強みとしています。
例えば、経営者や勤続期間が短い会社員、個人事業主・フリーランス、スポーツ選手、芸能人など、収入が不安定な人たちは、住宅ローンの審査が通りにくいという現実があります。
しかし、こうした人たちもローンを組んでマイホームを買いたい。そこで私たちが、審査が通りやすくなるように助言を行なったり、金融機関と交渉したりすることで、住宅ローンが組めるようにお手伝いをします。これまでに1万組以上のお客様を支援してきた実績があります。
【吉浦】このお仕事に至るまでの経緯を教えていただけますか。
【根石】マンション販売の営業をしていたとき、住宅ローンの審査がどうしても通らず、マンションを買えなかったお客様がいました。そのお客様の役に立てないことが悔しくて、それから住宅ローンについて詳しく調べ始め、「フラット35」という商品があることを知ります。
【吉浦】私は住宅メーカーに勤めていたのですが、そのときフラット35はなかなか住宅ローンの審査が通らない人の「最後の砦」と呼ばれていました。
【根石】ある銀行の担当者に聞くと、フラット35なら、そのお客様もローンを組めることがわかり、急いでお伝えしたのですが、すでに購入意欲がそがれてしまっており後の祭りでした。同じようなお客様が少なからずいることは想像できたので、そうしたお客様の役に立ちたいと考え、フラット35を扱う代理店に転職しました。
【吉浦】そこで全国トップの実績をあげられたそうですね。それにもかかわらず、ご自身で起業されたのはなぜですか。
【根石】フラット35でも住宅ローンを組めないお客様がいたからです。困っている人の問題を解決するのが、サービス業の醍醐味。だから、「フラット35でもダメでした」で終わらせたくなかったのです。
実際、色々な銀行に当たっていくと、銀行によって審査基準が違うため審査が通る銀行があるのです。ローンが組めずにマイホームを諦めかけたお客様は、ローンが組めてマイホームを買えると、とても喜んでくれます。
フラット35の代理店なので、審査が通る銀行を見つけても対価はもらえないのですが、繰り返し行なっていると、「何とかしてくれる人がいる」という評判が口コミで広がり、お客様を紹介されるようになっていました。
また、住宅ローンをきっかけに、お客様のライフサポートをもっとやりたい、もっとできることがあると考えるようになり、やりたいことを思いきりやるために、2015年9月、FBモーゲージを創業しました。
【吉浦】住宅ローンの審査が通りにくい人たちの住宅購入をサートする事業は、社会的意義が高い一方、なかなか難易度が高い仕事なのではないですか。
【根石】そうですね。イージーな案件はほとんどありません。ただ、「住宅ローンが組めない人はいない」と私は思っていて、諦めなければ何とかなるものです。社員にも、「絶対に諦めるな。何か方法があるはずだ」と言い続けてきました。今では、社員にも諦めないマインドや思考が備わったと感じています。
しかし、諦めなくなるのはゴールではなく、あくまでもスタートです。諦めずにやり続けて、何か成果が出て初めてゴールできたことになります。
【吉浦】諦めない人に育てるのは簡単なことではないですよね。
【根石】はい、そこで一緒に考えることを徹底しています。一人では諦めてしまうことも、周囲が諦めずにやり続ければ、次第に諦めないようになります。
また、難易度が高い仕事だからこそ、成功したときの喜びが非常に大きい。マイホームが買えたお客様だけでなく、住宅メーカーや不動産会社の人たちからも感謝の声が届きます。こうした喜びや感謝の声を直接聞くことが、若い社員の活力になっていることは間違いありません。
【吉浦】住宅購入を検討している人に向けて、新しいサービスを始められたそうですね。
【根石】はい、お客様にとって最適な住宅ローンと最適な不動産営業マンを紹介し、スムーズに家を買っていただくためのサービスなので、「スムカウ」と名付けました。
通常は購入する住宅を検討してから、住宅ローンの審査を受けますが、「スムカウ」では物件を決める前に住宅ローンの審査を先に通すことができます。そのため、「希望の物件が見つかったのにローンの審査が通らず、物件をまたイチから探し直すことに」という無駄を防げます。
また、お客様の資産状況や先々の返済を見据えて適切な住宅ローンをご提案しますので、無茶なローン契約を結んでしまう恐れもありません。お客様は予算が明確になった状態で、安心して物件を探せるのです。
一方で、不動産会社や営業マン選びも、お客様の大きな不安要素でしょう。不動産会社にはそれぞれ特徴があり、営業マンも言葉を選ばずに言えばピンキリですから。そこで「スムカウ」では、当社独自の厳しい基準をクリアし、お客様を安心して委ねられると判断できた不動産営業マンのみをご紹介することにしました。
【吉浦】御社が住宅ローンに精通しているのはわかりますが、不動産会社の営業マンについて詳しいのはなぜですか。
【根石】これまでに関東1都6県の約500社の不動産会社と取引をしてきました。その経験から不動産会社の特徴、営業マンの特徴を把握することができるようになっています。これは他社にはない私たちの強みです。
最初は「優秀な」営業マンを紹介すると表記していたのですが、何をもって優秀だと評価するかの客観的判断基準がなく、お客様のニーズによっても優秀さの定義は変わってきます。そこで、「最適な」に変更しました。
お客様が営業マンに求めるものを10項目から5つチェックしてもらい、営業マンが自分の営業姿勢としてチェックした項目と照らし合わせ、最適な営業マンをマッチングするようにしています。こうしたスムカウのサービスはすべて無料です。
【吉浦】御社の強みを活かした画期的な新サービスですね。
【根石】ありがとうございます。「不動産取引において顧客第一主義を実現したい」という想いを形にした、次世代型住宅購入サービスだと自負しています。
顧客にとって最適な住宅ローンと最適な不動産営業マンを紹介することで、スムーズに家を買えるようにする次世代型住宅購入サービス「スムカウ」を2024年5月に開始。「不動産取引において顧客第一主義を実現したい」という根石社長の長年の想いを形にしたものだ。
「FBMキッズ」は、幼稚園や保育園にアスリートを派遣し、子どもたちに運動する楽しさを知ってもらう取り組み。サッカー日本代表で活躍した岡野雅行さんと坪井慶介さんも参加。
女性アスリートの自立支援を目的としたプロジェクト「SUNNYS」も手がけている。担当者も元アスリートの女性社員だ。「私はスポーツ選手から多くの勇気をもらってきました。だから少しでもその力になりたいんです」(根石社長)。
【吉浦】一般社団法人日本アスリート支援協会を立ち上げられたのはなぜですか。
【根石】私はスポーツが大好きで、学生時代はサッカーをやっていました。カズこと、三浦知良選手は、今でも私のヒーローであり、これまでに多大な影響を受けてきました。
三浦選手の言葉に「お金をもらうからプロじゃない。どんなときでも手を抜かず、全力で戦うからプロなんだ」というものがあります。これこそが本当のプロ意識だと心の底から私も思っており、だから直接的には対価を求めないサービスにも注力してきました。相談されたことに全力を注ぐのが私の信条です。
私のようにスポーツから多大な影響を受けている人は多いと思いますが、選手たちはスポーツから離れると様々な困難に直面します。住宅ローンの審査が通りにくいのもその一つです。
そこで、「アスリートに対して、競技以外の支援を行なう」「セカンドキャリアを支援する」「スポーツイベントなどの開催を通じて地域社会に寄与する」ことを目的に立ち上げたのが、日本アスリート支援協会です。
【吉浦】実際にスポーツ人材を採用されていると聞きました。
【根石】元女子サッカー選手がプロモーション事業部で働いており、2つの取り組みを担当してくれています。1つが「FBMキッズ」で、幼稚園や保育園にアスリートを派遣し、スポーツ指導を行なってもらう取り組みです。本社が埼玉県にある関係で、浦和レッズの元選手などが協力してくれています。
2つ目が「SUNNYS」で、これは女性アスリートの自立支援を目的としたキャリア形成支援プロジェクトです。女性アスリートは、競技での収入が多くないため、ネット販売などの副業を行なっている人が多いのですが、一人ではどうしても情報発信力が弱い。そこで、まとまってチームとして行なっていこうという取り組みです。
【吉浦】相手の話をよく聞いて相談にのる、交渉するといった仕事は、スポーツ人材に向いていると思います。お客様が話した言葉だけをとらえるのではなく、態度や雰囲気も含めてとらることができます。監督の歩いている姿を見て、今怒っているかどうかわかるのがスポーツ人材ですから(笑)。
【根石】私たちの仕事では、洞察力が欠かせません。スポーツ人材は、スポーツを通して洞察力が鍛えられているのでしょう。
【吉浦】最後に、今後の抱負を聞かせてください。
【根石】私は若い頃から12年をひと区切りと考えてきました。24歳まで俳優を目指していたのですが芽が出ず、きっぱりと諦めました。独立したのが36歳のときで、現在44歳ですが、48歳までにスムカウの全国展開を実現することを目指しています。
60歳のときには、スムカウパークをつくりたいと夢見ています。人口が減少し、高齢化が進むと、みんなが集まる場所が大切になります。パーク内には身体を動かせる施設を色々と整備し、子どもから年輩者までが一緒に楽しめる場所にしたい。施設の運営やサポートを行なうのは元アスリート。スポーツ選手のセカンドキャリアとしても最適なのではないでしょうか。
また住宅を入口に、自動車や保険などもお客様にとって最適なエージェントからスムーズに買えるようにしたい。お客様のライフサポート事業は無限に広がっていますので、どんどん実現していきたいと考えています。
更新:01月18日 00:05