2024年11月18日 公開
組織やチームの成長、個人のキャリアを大きく左右する要素として、主体性が重要視されています。しかし、主体的な社員を育て、主体的なチームを創り、ビジネスを成功に導くためには単に社員一人ひとりに働きかければよい、というものではありません。
そこで年間300社を超える企業に対しビジネスコンサルティング&研修プログラムの企画・開発・実施までを行っている株式会社HRインスティテュート代表取締役社長の三坂健氏が、組織の強みや個性を活かし、企業風土や文化といった環境を整えながら、社員が主体的に活躍するチームを創る方法を3回に分けて解説します。
第3回の本稿では、人が育つチームに必要な「質のよい経験」について紹介します。
人が育つ条件を表したものとして有名な考え方が「70:20:10の法則」です。これは経営コンサルタントであるマイケル・ロンバルド氏とロバート・アイチンガー氏の研究によるもので、米国の様々な経営者を対象に「何がリーダーとしての成長に役立ったか」を調査したものです。
それによると、人は7割を仕事上の経験から学び、2割を先輩や上司からの助言やフィードバックから学び、残りの1割を研修などのトレーニングから学ぶというものです。
この考え方に基づくと、リーダーシップ育成の要素として最も重要なものは「経験を得ること」となります。そしてその経験をもとに先輩や上司と対話をすることで、自らの解釈と他社の解釈を照らし合わせ、新たな気づきを得て成長します。
ではこの「70:20:10の法則」をさらに深ぼって、人が育つチームに共通することは何かを見ていくと、それは「質のよい経験」が存在し、「質のよい対話」がなされている、ということになります。この「質のよい」という言葉は曖昧ではありますが、それは、
・その人にとってちょうどいいタイミングで、
・その人にとって受け入れやすく、
・一方でその人にとって刺激がある。
というニュアンスを束ねた状態を意味しています。
みなさんにとって「質のよい経験」、すなわち自らの成長につながった経験とはどういうものだったでしょう? 例えば同じ本を読んだり、同じ経験を得たりしてもタイミングによってとても刺激となるときとそうでないときがあると思います。このように「質のよさ」とはその個人が置かれている状況によって異なります。
この、個人が置かれている状況を成長度合と考えます。例えば、新入社員や初めての業界に転職したての中途社員など、仕事についてまだ知識もなく、技能も伴わない相手の場合は「問い」を与えるよりも「教える」ことが優先されます。まず必要な知識を教えることで、相手が知識を得、自分で考える土台を築く必要があるのです。
人にはそれぞれ、人材としての成長度合がありますが、それを次の4つのレベルに分けて考えます。ここでは会社組織を前提に考えることとします。
レベル1:まだ社会人、職業人として未熟な段階で仕事そのものの学習を必要とする
レベル2:仕事を覚え始めたが成果につながらないことで不満が生じやすい段階
レベル3:仕事も理解し、実践を通じて成果も出ているがどこか不安を抱えている状態
レベル4:社会人、職業人としての人格を形成し、キャリアの自覚を有している段階
次に、レベルに応じて必要な経験とはどういうものかを定義します。例えば、
レベル1:経験範囲は狭くて可。まずは仕事を覚えるための経験が必要。この段階で時間をかけすぎてはいけない。できるだけ早くレベル2へのシフトが求められる。
といった具合です。このように、人にはそれぞれのタイミングで必要な経験というものが存在し、また、そうした人材の成長度合に応じて必要な周囲(主に上司など)の関わりも異なることがわかります。
注意すべきは、一つの経験を中途半端に終えて、次の経験にシフトすると、その人の成長につながるサイクルを中断させてしまうことになる点です。チームのメンバーに質のよい経験をさせるために、ぜひ覚えておいていただきたい点です。
ここまで、質のよい経験とは何かをお伝えしてきました。ただし、大切なのはこれだけではありません。この「経験」と合わせて「解釈」「判断」「行動」にも質が求められるのです。経験・解釈・判断・行動のサイクルを繰り返すことで、社員は主体性を発揮する組織となるのです。
更新:11月18日 00:05