THE21 » キャリア » 所属する“会社らしさ”を説明できるか? 主体的な社員が集まる組織の特徴

所属する“会社らしさ”を説明できるか? 主体的な社員が集まる組織の特徴

2024年11月14日 公開

三坂健(株式会社HRインスティテュート代表取締役社長)

会社「らしさ」を共有する重要性

組織やチームの成長、個人のキャリアを大きく左右する要素として、主体性が重要視されています。しかし、主体的な社員を育て、主体的なチームを創り、ビジネスを成功に導くためには単に社員一人ひとりに働きかければよい、というものではありません。

そこで年間300社を超える企業に対しビジネスコンサルティング&研修プログラムの企画・開発・実施までを行っている株式会社HRインスティテュート代表取締役社長の三坂健氏が、組織の強みや個性を活かし、企業風土や文化といった環境を整えながら、社員が主体的に活躍するチームを創る方法を3回に分けて解説します。

第2回の本稿では、会社「らしさ」を共有する重要性について紹介します。

 

あなたの会社の「らしさ」とは

組織に身を置いて仕事をしている人なら誰しも自社の「らしさ」について口にしたことがあるのではないでしょうか。それは「うちらしい」や、「うちらしくない」といったものです。

例えば、新商品や新サービスを立ち上げる時、プレゼンテーションの後に役員から「うちらしい提案をしてくれてありがとう!」と承認をもらったり、一方で「ちょっとうちのらしさとはかけ離れている印象を持ったなぁ」などと再考を促されたりするシーンに遭遇することがあるはずです。

この「らしさ」とは一体何でしょうか。企業が大切にすべき「らしさの源」は次のとおり2つあります。

・会社が目指す姿を表すミッションやビジョン、パーパス など
・会社がもたらす価値を表すバリュー、ウェイ、イズム など

前述のミッションやビジョン、パーパスといったものは主に社会全体、お客様、社員を含むステークホルダーに向けて発信され、自社や自事業の存在意義を示すうえで重要です。

そしてこうしたミッション、ビジョン、パーパスと関連付けて主に社内に向けて定着が図られるものがバリューやウェイ、イズム、つまり「らしさ」です。この「らしさ」が共有されている組織では、組織が大切にしている価値観や考え方、行動様式に基づき現場が自律的に判断し行動できるようになります。

また、自分が所属する会社が目指す方向や大切にしているバリューをしっかりと理解、共感し、自分の言葉で説明することができる社員の割合が高ければ高いほど、その会社の一体感は高まり、同じ方向を向いて切磋琢磨を繰り返す集団となります。

反対に、社員がこうしたバリューに関心を向けず、また経営側もそのことを問題視しないようであれば、それは単なる寄せ集めの集団となり、相乗効果が生まれにくくなります。社員を育成し、組織を強くするためにもまずは企業として大切にする考えや価値を言語化し、社内外に発信し、定着する活動が欠かせません。

 

「らしさ」のある組織では社員が自然と質のよい「壁打ち」を行う

「らしさ」のある組織では、社員が自律的に行動しやすくなることに加え、自然と上司と部下、同僚間の壁打ちが行われやすくなります。「らしさ」の中にはその組織が大切にしている価値観が含まれます。それ自体が他社と差別化する競争優位性として位置付けられることから、「らしさ」を意識した壁打ちは、新たな商品やサービスを生み出す際にも自然と競合と異なる特徴を考えたり、実装したりすることに寄与する効果があります。

一方で、「らしさ」が共有されていない組織の壁打ちは数字ありきのものになる傾向があります。売上、利益、シェア、顧客数、訪問数......。

もちろんこれらも大切な指標ではあるのですが、こうした数字のみに焦点を当てた壁打ちは競争優位性を生み出すどころか、数字的に魅力がある市場であればなおさら競合も数字を意識して論理的にアプローチしてくることを踏まえると、競争を回避するどころかむしろ競争に巻き込まれていくリスクを生じさせます。

 

「らしさ」の存在は心理的安全性を高める

「らしさ」の存在は社員や関わる人の心理的安全性を高めることにもつながります。心理的安全性の高い職場は、社員が思ったことを気軽に発言したり、上司や同僚に相談できるばかりか、考えていることを少しだけトライしてみて、その結果をもとに周囲にプレゼンテーションできたりすることから、結果的に生産性が向上するだけでなく、イノベーションを生み出しやすくなります。

この心理的安全性を高めるうえでも「らしさ」の存在は重要な要素となります。組織が何を大切にしているのか、ということを明確に示すことは、社員にとってむしろ自由度が高まることになります。ルールは最小限にし、「らしさ」を共有するスタイルのマネジメントこそ、社員が思い切り仕事をできる環境をつくり出すのです。

以前、米国のマリオット等で長くホスピタリティ教育に従事された方のお話を聞く機会がありました。その際に「最高のサービスはどのように生まれるか」という話題になったのですが、「『こうしなさい』『ああしなさい』という教育では一定のサービス品質には届くけれど、最高のサービスには至らない。

最高のサービスはむしろ逆で、大きな価値観としてのそのホテルらしさをしっかりと伝えたうえで、これだけはやってはいけない、というタブーを明確にし、残りを余白として残しておくことで生まれる」とのことでした。

前者のアプローチよりも、後者のアプローチのほうがホテルスタッフの裁量や判断の自由度が高まります。「らしさ」を明確にすることで組織の心理的安全性を高め、余白の中で社員に思い切り仕事をしてもらう。こうすることで組織の生産性だけでなく、働く人の意欲の向上にもつなげることができるようになるのです。

 

「らしさ」の言語化ができているか

今は多くの企業がミッション、ビジョン、バリューを掲げています。重要なのはそれらをお飾りにしないために「言語化」するプロセスに社員を巻き込むことです。ここでいう言語化とは、結果としてこうなったよ、うちが大切にするのはこれだよ、と社員に示すのではなく、

・それってどういうこと?
・自分の言葉で説明すると?

といった問いを立て、メンバー一人ひとりがミッション・ビジョン・バリューを自分事とするアプローチです。

言語化することで自社の「らしさ」がより明確になり、自分たちの行動指針として自分事化することがでます。また組織としても主体性と一体感を持って行動することができるようになるのです。

 

著者紹介

三坂健(みさか・けん)

株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長/プリンシパルコンサルタント

慶應義塾大学経済学部卒業。安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。2020年1月より現職。企業向けの経営コンサルティングを中心に、組織・人材開発、新規事業開発など、様々な支援を行っている。また、各自治体の教育委員会、国立高等専門学校における指導・学習支援にも積極的に関わっている。

株式会社HRインスティテュート

1993年設立。経営支援、組織・人材開発を主とする実践重視のコンサルティング会社。個人・チーム・組織の主体性を挽き出し社会を変えることをミッションに、ビジネスコンサルティング&研修プログラムの企画・開発・実施までを一貫して行う。年間300社超の会社に対し、経営課題をクライアントと共に解決する「ワークアウト」、即効性重視の実践型研修「ノウハウ・ドゥハウプログラム」を軸に展開している。顧客は日本のみならずアジアをはじめ、世界に広がっている。著書に『この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本』(日本実業出版社)、『人材育成コンサルタントが本気で考えた 全員転職時代のポータブルスキル大全』(KADOKAWA)、『図解オンライン研修入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

THE21 購入

2024年12月

THE21 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

18時に帰る若手を横目に残業...「管理職の罰ゲーム化」が加速する日本の職場

小林祐児(パーソル総合研究所上席主任研究員)

終身雇用は望んでいない...Z世代に見放される「旧来型企業」の特徴

山本真司(立命館大学ビジネススクール教授)

「余剰人員に任せればいい...」インサイドセールを軽視する日本企業の末路

庭山一郎(シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役)