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人生100年時代を楽しむために不可欠な「意外な資産」とは?

2024年01月24日 公開

大野誠一(ライフシフト・ジャパン(株) 代表取締役CEO)

変形資産とは?

"人生の主人公として「100年ライフ」をワクワク、楽しめる社会を創る"をビジョンとして、「人生100年時代」の個人のライフデザイン支援をテーマとしたコンテンツ開発やワークショップ、1on1型ダイアログなどを提供するライフシフト・ジャパン(株)。

退職後にも長く続く人生を楽しむために必要な「変形資産」とは?  ライフシフト・ジャパン代表取締役CEOの大野誠一氏が語る。

※本稿は、『THE21』2023年7月号~11月号に連載した「40代・50代からのライフシフト実践講座」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

人生100年時代に必要な3つの"無形資産"

変形資産

今回のテーマは「変身資産」です。

「人生100年時代」とも言われる超長寿社会を想ったときに、誰もが最初に心配になるのは「お金」の問題でしょう。2019年に話題になった「老後2000万円問題」を引き合いに出すまでもなく、超長寿社会における「お金」の問題は、個人個人がしっかり考え、準備することはもちろん、社会全体でも考えていく必要のある問題です。

しかし一方で、「お金」という"有形資産"さえあれば、「人生100年時代」をワクワク、楽しく生きていけるかというと、決してそうとは言い切れません。

ここで着目すべきは"有形資産"に対する"無形資産"。書籍『LIFE SHIFT』では「生産性資産」「活力資産」「変身資産」という3つの"無形資産"の大切さが指摘されています。

「生産性資産」とは、仕事で生産性を上げるための資産です。技術進化のスピードがどんどん早くなり、知識や技術の陳腐化が短期間で起きる時代となり、最近はリスキリングなど、「生産性資産」を磨き続ける必要も叫ばれています。

「活力資産」とは、精神的・肉体的な健康と幸福感を示す資産です。長寿社会において、健康を維持し、家族や友人との良好な人間関係を保つことが大切だということに疑問を持つ人はいないでしょう。

「生産性資産」の獲得に集中し過ぎると、「活力資産」が目減りしたり、枯渇したりすることがあるかもしれません。人生の時期によって、この2つの資産のバランスを意識することは、とても大切なことなのです。

 

「変身資産」に着目する2つの背景

これまで、様々な場面で議論されてきた「生産性資産」「活力資産」に加えて、『LIFE SHIFT』が新しく提示した3つ目の"無形資産"が「変身資産」です。

「変身資産」という言葉は耳慣れない言葉だと思いますが、長い人生において経験することになる変化や変身のために必要な資産です。

『LIFE SHIFT』の中では、「自分についてよく知っていること」「多様性に富んだ人的ネットワーク」「新しい経験に対する開かれた姿勢」といったポイントが指摘されていますが、その内容はやや抽象度の高いものだと感じます。

「変身資産」は、わかりやすく言えば「変わるチカラ」です。私たちが「変身資産=変わるチカラ」に着目する理由には、大きく2つの背景があります。

1つ目は、超長寿社会の到来です。

これからの長寿社会においては、これまで一般的だった「学習→仕事→引退」という変化の少ない「3ステージ型人生モデル」から、一人ひとりがそれぞれ違う、変化の多い「マルチステージ型人生モデル」に移行していくことになります。

そこでは、これまでの安定した人生モデルとは違う、様々な変化を経験することになります。「変化」には、チャンスと同時に、当然リスクも潜んでいます。そんなときに、誰しもの中に蓄積されている「変身資産」の特徴やバランスを知っていることは、大切な決断や行動を選択する際の大きな支えになるのです。

2つ目は、「VUCAの時代」と言われる、将来の見通しの不確かさです。

社会全体が安定して変化が少ない時代には、一人ひとりの「専門知識」や「専門技術・ノウハウ」などの「専門力」が差別化の大きなポイントでした。

一方、社会の不透明感が高まってくると、「対人能力」などの「コンピテンシー」や「思考力」「処理力」といった「リテラシー」によって構成される「基礎力」が問われるようになります。

さらにVUCA度が高まってくると、一人ひとりの「信念」や「環境適応性」などの「職業的態度」が重要度を増してくると指摘されています。

そんな中でVUCA度が最大限に高まっている現在の社会においては、環境の変化に対応してどんどん変化する「変わるチカラ」がより重要なポイントになってきているのです。

常に新しいことを「学び続け」、柔軟に「変わり続ける」ために、自分自身の「変身資産」の状態をつかんでおくことは、将来のライフシフトに向けても大きな自己発見のきっかけになることでしょう。

そこで、ライフシフト・ジャパンでは、「変身資産」を"見える化"し、より具体的に一人ひとりの体験と紐付けて理解するためのツールとして、「変身資産アセスメント」を開発しました。

その開発プロセスにおいて気づいたのは、人生の変化や変身、転機に際しては、誰の中にも「変化を前に進める要素」と「変化を押しとどめてしまう要素」があるということ。そこで私たちはこの2つの要素を「心のアクセル」「心のブレーキ」として、それぞれ10の項目を紡ぎ出しました。

 

「アクセル」と「ブレーキ」からの様々な気づき

私たちが開発した「変身資産アセスメント」は、「心のアクセル」と「心のブレーキ」という2つの要素で構成されています。

アクセル、ブレーキという言葉の印象から、最初は「アクセルが高く、ブレーキが低い」状態が望ましいと考える人もいるのですが、決してそういった「正解探し」のためのツールではありません。

まずは自分自身の状態を知ること、そして、これからその資産をどのようにマネジメントしていこうと考えるかが、大切なポイントになります。時には、「アクセル」が変化の邪魔をしていたり、「ブレーキ」がエンジンの役目を果たしていたといった、思いもよらない「自己発見」をするケースもあるのです。

ここからは、私たちのワークショップに参加し、「心のアクセル」「心のブレーキ」と向き合ったケースを見ていきましょう。

広告代理店の営業職として仕事を続けてきたAさん(男性)は、「過度な自己犠牲」と「完璧への執着」が特に強いブレーキとして出ていました。これを見て、「これまでクライアント最優先で考えてきた姿勢がはっきり出た結果だと思います。

正直、自分が何をしたいのかとか、自分がどうしたいのかといったことは考えず、ひたすらクライアントの意向を大切にして、それをいかに実現するかだけを考えてきました。

これからは、この2つのブレーキを少しずつ手放していくことが、自分らしく生きることにつながると思います」と語ってくれました。「変身資産」を知ることで、Aさんはライフシフトのスタートラインに立てたのかもしれません。

「自己との対話」や「学びのひきだし」などのアクセルが高い一方、ブレーキでは、「対立からの逃避」と「承認欲求の目的化」が特に高く出ていたBさん(女性)は、その気づきを次のように話してくれました。

「基本的に学ぶことは大好きで、日々、内省をすることもわりと得意だと思います。このアクセルは、これからも伸ばしていきたい。一方、組織の中では、とにかく人と対立するのが嫌いで、承認欲求も強いほうだと思います。今までは、承認欲求が自分の成長エンジンだと思ってきましたが、それが強くなり過ぎていたのかもしれません」

「変身資産」を"見える化"することで、これからの人生において、それぞれの「変身資産」をどのようにマネジメントしていくかを考えるきっかけが得られるのです。

「変身資産」は、その人の基本的なキャラクターとして、なかなか変わらないものもあれば、自身を取り巻く環境や日々の意識・行動によって、意識的・無意識的にかかわらず、変化するケースもあります。

次のコメントは、定年を意識する年齢に近づいてきたメーカー勤務のCさん(男性)のもの。

「これまでのキャリアを通じて、『社会へのまなざし』『マルチリレーション』を身につけ、『年齢バイアス』『マニュアル依存』は意識的に手放してきたと思います。

これから先の人生に向けては、アクセルの中では『スモールステップ』を一番大切にしていきたい。ブレーキで気になるのは、『失敗する恐怖』。やっぱり失敗するのは怖いですが、スモールステップでリスクをコントロールしながら、小さな体験を繰り返す中で、恐怖心を超えるワクワク感を見つけていきたいですね」

これまでのキャリアを客観的に振り返り、未来に向けての方向性を考えるうえでも、「変身資産」はきっかけを与えてくれるのです。

 

「心のブレーキ」のマネジメントが鍵

心のアクセル

心のブレーキ

私たちライフシフト・ジャパンでは、これまで多くのライフシフター(ライフシフト実践者)のインタビューを行なってきました。そして、複数のライフシフターの人たちにも「変身資産アセスメント」を体験いただきました。

その結果、見えてきたのは、ライフシフターは、アクセルが極端に高いのではなく、ブレーキが相対的に低くなっているという傾向でした。

ライフシフターの皆さんは、ライフシフトを実践するプロセスで、様々なブレーキを意識し、変化の行動を起こすことを通じて、ブレーキをマネジメントしてきたのでしょう。「変身資産」は、一度固まってしまうと基本的に変わらないものではなく、日々の意識と行動によって、変化するものなのです。

つまり、ライフシフトの1つの鍵は、アクセルとブレーキの状態を認識したうえで、「心のブレーキ」をどのようにマネジメントするかというところにありそうです。

これからライフシフトを目指す40代・50代の読者の皆さんは、アクセルとブレーキの項目を見ながら、次の3つの質問に答えてみてください。 

①あなたが元々、キャラクターとして持っていて、これからも変わらないと思う変身資産はどれですか?
②あなたがこれまでの人生の中で、手に入れたり手放したりした「変身資産」はどれですか?
③これからの人生で活かしていきたいアクセル、手放したいブレーキはどれですか?

皆さん自身の答えの中に、皆さんが進むべき道が、すでに見えているのかもしれません。

「ライフシフト」の本質は、単に転職や独立、移住といった目に見える外形的な変化ではなく、「何を大事に生きていくのか?」という内面的な価値軸の変化です。そして、それを前に進めるときの武器が「変身資産」です。

「人生100年時代」をワクワク、楽しく生きていくために、読者の皆さんそれぞれがロールモデルとなる時代が始まっています。さあ、「ライフシフトの旅」に出発しましょう!

 

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