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金融資産の中央値は810万円...50代が直面する「老後2000万の壁」はどう超えるか

2023年06月19日 公開

中野晴啓(セゾン投信株式会社代表取締役会長CEO)

現在さまざまな形で誰でも行える資産形成。しかし、その実態をつかめていない人は多いのではないでしょうか? 50代から無理なく、老後資金の不安を抱かずに済む資産形成を実現するにはどうすればいいのか。2024年1月にスタートする「新しいNISA」から資産形成の変遷と特徴についてご紹介しましょう。

※本稿は、中野晴啓著『1冊でまるわかり 50歳からの新NISA活用法』(PHPビジネス新書)より内容を一部抜粋・編集したものです。

 

平成のデフレ期は現金を持っているだけでよかった

よく、日本の個人は保有している金融資産の半分超を現預金にしているという話がされます。

日本銀行が定期的に発表している「資金循環統計」によると、2022年12月末時点における個人金融資産の総額は2023兆円で、そのうち55.2%にあたる1116兆円が現金・預金で保有されています。

このように、資産が現金・預金に偏在している点を指摘して、「日本人は保守的だからリスクを取らない」とか「日本人は農耕民族だから投資は苦手」といった適当な分析をする人もいますが、そうではなく、これまで日本人は、リスクを取った資産運用をせずとも、何とかやってこられたというだけのことなのです。

1990年代半ば以降は、バブル崩壊による金融不安や長期的な不景気によって、会社員の給料がほとんど伸びない状況に陥りました。

それでも多くの日本人が、運用で資産を増やそうという気にならなかったのは、物価がほとんど上がらず、時には前年比でマイナスになるデフレ経済に直面していたからです。

デフレによって物価が下がる局面では、現金をそのまま持っているだけで資産価値が上がっていきます。日本人は平成の30年間を通じて、現金を持っているだけ、もしくはほとんど利息が得られない超低金利の預貯金に資産を預けっぱなしにしても、何ら問題がなかったのです。それでは令和時代ではどうなのでしょうか。

 

NISAと新NISA

2022年5月、岸田文雄首相が英国・ロンドンの金融街であるシティで講演を行いました。その時、突然打ち出したのが「資産所得倍増プラン」です。新NISAはその「資産所得倍増プラン」の中核を担っています。

その名前からは、1960年、当時の池田勇人首相が打ち出した「国民所得倍増計画」が思い起こされます。しかし、成熟社会に入って久しい今の日本に国民所得を倍増させられるだけの経済力はありません。周知の通り、日本の人口は減少傾向をたどっているからです。

特に、働き、消費を活発に行う世代の人口減少が著しく、そのなかで日本が一定の経済力を維持していくためには、AIの導入やIoT、DXなどの推進によって生産性を高める必要があります。その実現に向けて、各企業が経営努力を行っている最中です。

しかし、それらを実現したとしても、日本の経済規模が今後10年間で倍になることは、恐らくないでしょう。そのくらい、人口が減ることは経済にとってネガティブな要因なのです。

そこで新NISAは日本経済の再生に直結する、日本再生プランの根幹ともいうべき国策であると考えられます。

通常、株式や投資信託などの金融機関に投資した場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して焼く20%の税金がかかります。

しかしNISAはNISA口座内で毎年一定金額の範囲内で購入したこれらの金融商品から得られる利益が非課税になる、つまりは税金がかからない制度なのです。

そしてその年間非課税投資枠が120万円となっていました。しかし新NISAは年間非課税投資枠が360万円に拡大するということで、使い勝手が大きく向上するということです。

現在、個人資産の大半は、預貯金という、ほとんど利息が得られないもので運用されています。その一部を、新NISAを活用して積立投資に回せば、金融所得を増やすことが期待できます。

全国民が同じようにすれば、皆が等しく、恐らく金融資産における貧富の差が大きく広がることなく、一定水準の豊かさを享受できるようになるでしょう。

「所得」というと、普通は働くことによって得る勤労所得を指しますが、よく考えてみると、金融資産から得る金融所得も所得の一種です。両者を合わせた所得を増やす方向に舵を切れば、日本全体の所得が向上していきます。

所得がこれからも増え続けるという期待が広く共有されれば、増えた所得が、預貯金ではなく、消費に回るようになります。そうなると、アベノミクスが行われてきたこの10年間でも全く喚起されなかった個人消費に、ようやく火が点きます。

日本のGDPは過半が個人消費で占められていますから、そうなれば、日本のGDPも増えます。

また、個人の消費意欲に応えるために、各企業はより付加価値の高い商品やサービスの開発に努力するようになるでしょう。すると、企業の競争力が高まり、従業員の勤労所得も増えることになります。

このような流れをつくって、日本経済を今一度大きくしていこうというのが、「資産所得倍増プラン」です。

このように好循環を始める日本経済の成長の恩恵を受けるためにも、新NISAを活用して資産運用をすることは重要です。「50歳にもなったら、資産形成を始めるのはもう遅い」と考える必要はありません。

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