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国際競争力低下の一因...中国、韓国の2倍まで高騰した“日本の電気代”

2023年12月13日 公開

渡邉哲也(経済評論家)

 

2024年、日本の懸案事項は?

日本の懸案事項

――リスクが高まる一方、それをチャンスに変えられる可能性もあるというのは、非常に勇気づけられるお話です。

【渡邉】とはいえ、国内にも解決すべき問題はあります。特に大きいのがエネルギーコスト問題。端的に言えば、電気代が高すぎるんですね。

――確かに、電気代の問題はニュースでもよく目にします。

【渡邉】その裏にあるのが「原発再稼働」の問題です。福島第一原発の事故以降、全国で問題なく稼働できる原発まで停止させてしまっている。そのせいで高コストなガス発電に依存する羽目になり、アメリカの3倍、中国や韓国の2倍という産業用電力価格が、日本企業の国際競争力をむしばんでいます。

――そう聞くと、経済的にはあまりに不合理ですね。

【渡邉】心理的な抵抗があることを否定はしませんが、電力価格というのは先ほど申し上げた「国内回帰」の流れにもかかわってきます。現に今、「半導体」関連産業の参入が相次いでいるのは、国内でいち早く原発を再稼働させた九州です。

九州電力の電力原価は、いまだ原発を再稼働させられずにいる北海道電力の約半分。それだけが参入の理由ではないでしょうが、それを知ってなお、原発を再稼働しないままでいいんですか、という話です。

ただ、九州電力や関西電力を軸に、ここにきてようやく「再稼働」の流れが生まれています。私の考えでは、これは日本経済にとって大きなプラス。2024年以降の動向を、期待しつつ見守りたいところです。

――エネルギーの話をすると、ガソリン価格も気になります。

【渡邉】その点については、電気代やガス代と同様に「激変緩和措置」というのをやっていますね。

――名前はよく聞くのですが、どのような措置なんでしょうか。

【渡邉】ざっくり言えば、ガソリンの小売価格が「170円/ℓ」程度に収まるよう、石油の元売り業者に補助金を出しているんです。現在(11月中旬)の時点で、ガソリン1L当たり30円前後、補助金によって価格が下がっています。

――いまだにガソリン価格は高いと言われていますが、それなりの補助金を投入してはいるわけですね。

【渡邉】エネルギーとは、経済にとって血液のようなもの。その価格が高くなるということは、つまり動脈硬化に近いことが起きるわけですから。ガソリン単体ではなく「石油元売り」に補助を出すこの措置は、物流を支える軽油や航空機燃料、灯油といったものの価格高騰抑制にも、多大な成果を挙げています。

――なるほど。かなり大規模な措置かと思いますが、恒久的なものではないですよね。いつまで続くものなのでしょうか。

【渡邉】2024年の4月までは続ける、という方針は公表されています。その後については情勢を見てということになるでしょう。 とはいえ、もしこの措置をやめるという場合も、代替措置は必要になるはず。例えば「トリガー条項(※下記参照)」を発動するなど、やり方は色々考えられます。

個人的には「エネルギーと食品」にかかる消費税をゼロにするのが、必要な準備期間や手間も短く、効果も高いと考えていますが、実現するかどうかは微妙ですね。

※トリガー条項:レギュラーガソリンの平均小売価格が3カ月連続で160円を超えた場合、ガソリン税のうち「上乗せ分」と呼ばれる分(25.1円/ℓ)の徴収が停止されるという規定。本来なら発動するはずの状況だが、東日本大震災後に復興財源確保のため作られた特例法が政府方針により維持されているため、発動は凍結されている。

 

著者紹介

渡邉哲也(わたなべ・てつや)

経済評論家

1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業の運営などに携わる。国内外の経済・政治情勢のリサーチおよび分析に定評がある。主な著書に『世界と日本経済大予測』シリーズ(PHP研究所)などがある。

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