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なぜ今「原発新設」が議論されるのか? 2030年代の日本を左右する電力問題

2022年09月14日 公開
2023年02月21日 更新

鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)

原発

震災以来、多くの日本人にとってタブーとなっている「原発」の問題。しかし、この問題に向き合わなければ、2030年代の日本は「皆で暑さや寒さを我慢する」世の中になるかもしれない...。鈴木貴博氏が、そんな「不都合な論点」に正面から切り込む。

※本稿は、『THE21』2022年8月号に掲載された「コロナ後の日本経済「復活への10のアジェンダ」」を一部編集したものです。

 

今すぐ決めないと禍根を残す「大問題」とは

2022年8月、岸田内閣は原発新設の姿勢を明確にしました。多くの人が「なぜ今?」と思ったかと思いますが、実はこの論点は日本経済復活のために、早急に決断しなくてはならないものなのです。

岸田政権では総理をはじめ、閣僚が原発再稼働についてたびたび「安全性を前提としながら進めていく」と言及してきました。

一方で5月31日には、札幌地方裁判所で泊原子力発電所について「地震や津波に対する安全性が不十分」という周辺住民の訴えを認め、運転差し止めの判決が言い渡されました。

この原発の問題ですが、10個の論点の中でも実に不都合なものです。今から10年後、2030年代の日本の大問題になる話であり、かつ今、政府がある決断を下さないと将来に禍根を残すことがわかっている。

にもかかわらずこの問題、「原発再稼働」を巡る議論で話が止まっていたのです。本稿ではこの原発という日本の大問題について、解説したいと思います。

 

環境先進国になりつつある中国

この話の出発点は地球の気候温暖化と、それを止めるための2050年までのカーボンニュートラル目標です。世界中で脱炭素を進めていかなければ、地球は人類が住めない場所になることが科学的にわかっていて、その絶対目標として気候サミットでは、首脳国がかつてない厳しい目標を設定することになりました。

日本の場合、2030年度までに二酸化炭素の排出量を46%削減しなければなりません。各国も程度の違いはあれ、大幅に脱炭素を進める必要があります。

そこで、太陽光発電や風力発電などクリーンエネルギーへの投資が必要なのです。実はこの問題を深刻に受け止め、脱炭素を大きく進めている国がお隣の中国です。

ついこの間まで北京の大気汚染問題が深刻だった中国では、ここ数年、脱炭素が大幅に進みました。私も驚いたのですが、発電に関してはそれまで7割が石炭火力だったものが、太陽光発電所の建設が進んだことであっという間に石炭火力の比率が5割を切りました。

中国という国は一度トップが号令をかけると、一気に状況が動く国なのです。近年では太陽光などのクリーンエネルギーの発電能力も上がってきて、最新設備を使えば従来の発電方式と同程度のコストで電力を供給できるところまで、技術も進んでいます。

ところが日本にとって大問題なのは、日本がクリーンエネルギーの非資源国であるという事実です。中国やアメリカのように広い砂漠があるわけでもなく、ヨーロッパのように遠浅の海上に強い風が吹くわけでもない。

日本中に太陽光や海上風力発電所を建設しても、必要とする発電能力には届かないというハンディを抱えているのです。

そこで日本としては、石炭火力やLNG火力発電の環境性能を向上することで、それを準クリーンなエネルギーだと認めてもらえるように働きかけてきたのですが、これがどうも世界各国から評判が悪いのです。

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