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部下になると“最凶”マネジャーが抜け出せない「常識への執着」

2023年08月21日 公開

山本真司(立命館大学ビジネススクール教授)

 

「聞く」だけで仕事が変わっていった

そんな自分がどのように復活することができたのか。そのカギとなったのは「受容力」である。

具体的には、「とにかくまず、話を聞く」こと。

私が最凶のマネジャーと評されていた時、自分が正しいと信じて疑わぬことに固執し、他者の声に耳を傾けることは決してなかった。その後の「究極の一人プロジェクト」時代も同様に、自分が正しいと思うことをひたすらメンバーに押し付けるのみだった。

しかし、それを改め、とにかくまずはメンバーの意見を聞き、その思考を理解しようと努めた。そして、「なぜ、そう考えるのだろうか」を理解しようとし、自分の考え方を変えるようにしたのだ。

すると、意外なほどに多くの発見があることに気づいた。自分の間違いに気づき、改善を遂げることができた。

次に、マネジメントの方法を改革した。以前は、「自分が正しい」の一点張りで指示を出し、その結果、部下たちは私に従うだけの存在と化していた。だが、そのような状態では部下たちは成長するはずがない。

そこで今度は、彼らの意見に耳を傾け、思考を共有することに重きを置いた。そして、彼らが持つスキルや知識を最大限に活用し、自身で考え、行動できる環境を提供した。

メンバーは率直に意見を述べ、自主的に業務を進めてくれるようになった。その結果、メンバーは自信を持つようになり、成長し、優れた結果を出すようになった。当然、組織もよい方向に向かっていった。

すると、あれほど忙しかった私の仕事もいつの間にか非常に楽になっていた。

それで気づいたのは、マネジメントとは、上司が部下に命令を出すだけのものではなく、双方向の関係性でなければならないということだ。

 

「マネジャーは偉くなくてはならない」という誤解

多くの人は、マネジメントとは「部下を指示し、管理すること」だと考えているのではないかと思う。

しかし、こうした旧来型の組織でのマネジメントには、大きな課題がある。かつての私がそうだったように、いつまでたってもマネジャーの仕事が終わらないということだ。

私もかつては、上司の仕事とは完全な形で部下に仕事を投げ、部下にはそれに従ってひたすら成果を出してもらうものだと思い込み、その作業に終始していた。

しかし、その結果は多くの指示待ちのメンバーを生み出しただけだった。マネジメントとは単に仕事の作業分担を決めるだけではなく、チームメンバーの自発性を引き出し、成長させることが重要だということに気づいた。

かつて自分がメンバーから嫌われ、評価を下げた原因は、旧来型のマネジメントにとらわれていたからだった。

だからこそ、まずは常識に囚われずに柔軟に考える必要がある。その常識とはまさに「マネジメントとは部下を指示し、管理すること」であり、「上司は部下より偉くなくてはならない」「優れていなくてはならない」という上下関係である。

常識を捨て去るのはそう簡単ではないかもしれない。しかし、私自身も、新しいマネジメントの方法を積極的に取り入れることで成果を出すことができた。かつての私と同じようなあやまちを繰り返さないようにしてほしいと思う。

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