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金融資産の中央値は810万円...50代が直面する「老後2000万の壁」はどう超えるか

2023年06月19日 公開
2024年06月12日 更新

中野晴啓(セゾン投信株式会社代表取締役会長CEO)

 

退職金はご褒美ではない

「定年になって退職金が出たら何がしたいですか?」と定年間際の人に質問すると、「夫婦で海外旅行に出かける」とか「住宅ローンの残債があるから、それを返済する」といった答えが返ってくることがよくあります。

退職金は、長年、会社に貢献してきたことに対する報償というイメージが強く、実際に退職金を受け取った人たちも、「これまで頑張ってきたんだから、少しくらい贅沢をしよう」と思っているようです。

でも、この考え方は改めたほうがいいでしょう。そもそも、退職金制度がなかったら、皆さんが現役時代に得ていた給料は、もっと高かったかもしれません。退職金は、いうなれば毎月の給料の先送りです。

要するに「今の仕事は大変だけれども、あと10年も頑張れば定年で退職金が受け取れるから、それまで我慢して働こう」という気持ちにさせるのが退職金制度なのです。

本当なら毎月、もっと多めの給料が受け取れたはずなのに、会社に対する忠誠心を持ってもらいたいがために給料の一部を先送りされているだけですから、これはご褒美でも何でもありません。

定年までに受け取れるはずだった給料の一部に過ぎないのです。そういう気持ちを強く持っていないと、退職金を無駄に使ってしまうことになります。

 

お金を持っていないのは、皆、同じ

実際のところ、50代の人たちは、どのくらいの金融資産を持っていると思いますか?「資産」ということでいえば不動産も含みますが、本稿では預貯金、株式、投資信託といった金融資産に限定して話を進めていきましょう。

これにはしっかりした統計があります。金融広報中央委員会が毎年公表している「家計の金融行動に関する世論調査」(2022年)によると、50代の平均的な金融資産保有額は1684万円です(二人以上世帯)。

「え? そんなに持っているの?」と驚かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?でも、この数字はあくまでも平均値です。平均にはちょっとしたトラップがあります。大きな数字に引っ張られる特性があるのです。

たとえば、それぞれの金融資産保有額が1億円、100万円、80万円の3人がいるとしましょう。この3人の金融資産額の平均値がいくらになるのかというと、(1億円+100万円+80万円)÷3=3393万円です。

1億円もの金融資産を持っている人の金額に、平均値が引っ張られているのが明らかに分かります。金融資産保有額が100万円の人、80万円の人からすれば、「どこのお金持ちの話?」ということになります。つまり平均値はあまりあてにならないのです。

そこで使われるのが「中央値」です。データを大きさの順に並べた時、全体の中央に位置する数字のことです。先ほどの例の1億円のように、突出した数字に引っ張られてしまうのを防ぎ、より実態に近い数字を把握するために用いられます。

この中央値で50代の金融資産額を見ると、810万円です。平均値の実に半分程度に過ぎません。この金額のほうが、50代の人たちの多くにとって実感に近いでしょう。

さらにいうと、これらの数字はあくまでも50代で金融資産を持っている人たちの平均値であり、中央値です。裏を返すと、金融資産を全く保有していない人たちの数字は、ここに含まれていません。

では、50代で金融資産を保有していない人はどのくらいいるのでしょうか? これも「家計の金融行動に関する世論調査」に出ています。実に24.4%の人たちが、50代で金融資産を保有していないのです。約4人に1人です。

これらの数字から察することができると思いますが、意外と皆、お金を持っていないのです。同窓会に参加した時、周りにいる同級生のうち4人に1人はほとんど貯蓄を持っておらず、仮に持っていたとしても、多くの人は810万円程度の金融資産しか保有していないのが実情です。

だから、「今さら資産形成を始めても手遅れだ」などといって、いじける必要は一切ありません。50代になった人の多くは、70歳に向けて、「よーい、どん!」でこれから長期投資を始めるのです。決してあなた一人ではありません。そう考えると、少し気が楽になるのではないでしょうか。

 

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