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ルーツは17世紀の船乗り...企業運営に大切な「管理会計」と「財務会計」の違いとは?

2023年06月16日 公開
2024年12月16日 更新

金子智朗(コンサルタント、公認会計士)

財務会計の起源

「管理会計」と「財務会計」。この両者を区別できている人は多くないでしょう。実は、正しい意思決定の役に立つのは「管理会計」の方だとコンサルタントで公認会計士の金子智朗の金子智朗さんは指摘します。

しかし、大半の企業は財務会計ベースの決算書をそのまま役員会や経営会議で使っているケースが多く、「財務会計」を重視している印象が強いのではないでしょうか。そこで、17世紀のオランダ東インド会社の話を元に管理会計と財務会計の違いについて解説します。

※本稿は、金子智朗著『管理職3年目までに「会社の数字」に強くなる! 会計思考トレーニング』(PHP研究所)より、一部抜粋・編集したものです。

 

財務会計の起源は17世紀の貿易

管理会計という言葉を聞けば、「会計」と名が付いていますから、会計の一分野であることは想像がつくと思います。

多くの方は、会計と聞けば決算書をイメージするのではないでしょうか。制度に基づいて決算書を作成するための会計は「財務会計」と呼ばれます。これが多くの人がイメージする「ザ・会計」です。

管理会計はこれとは別のものです。会計には、大きく分けて、財務会計と管理会計という2つがあるのです。

財務会計と管理会計を一言で言えば、それぞれ「制度に基づき決算書を作成するための会計」「マネジメントのための会計」ということになります。しかし、これだけではピンとこないと思いますので、両者の違いを説明しましょう。

財務会計の起こりは、1602年に設立された世界初の株式会社、オランダ東インド会社に遡ります。

東インド会社は香辛料などの東方貿易のために設立された会社です。1600年にイギリス東インド会社が設立されたのが最初で、その後、フランスなどでも設立されました。

東方貿易のための航海には多額の資金が必要です。航海が失敗するリスクもあります。そのような多額のリスクマネーを誰か特定の人に出してもらうことはできません。

そこで、お金を持っている人たちから少しずつ資金を調達し、ビジネスがうまくいったら出資額に応じて還元するという仕組みを作り出しました。

こういうビジネスに出資をするのは経済的に余裕のある貴族などです。お金を出した貴族たちは、乗組員たちが東方貿易を成功させ、出資額以上のお金を返してくれることを期待しています。

しかし、港を出てしまえば、乗組員たちは出資者である貴族の目の届かないところに行ってしまいます。長い航海です。もしかしたら、寄る港寄る港で酒を買いあさり、ギャンブルに明け暮れているかもしれません。

それでは困るので、貴族たちは乗組員たちに航海中のお金の出入りを記録させ、港に戻ってきたら貴族に報告させる仕組みを作り、乗組員たちに課しました。これが、財務会計です。

今日において行われていることは、基本的にこれと全く同じです。現在に置き換えれば、貴族が株主、船長が社長、乗組員が従業員、乗っている船が会社です。

また、航海期間が会計期間です。現在の企業は半永久的に継続するという"ゴーイング・コンサーン"が前提になっていますから、人為的に会計期間を設定していますが、初期の東方貿易では航海ごとに清算していましたので、実際の航海期間が会計期間になっていました。

そして、港に戻ってきたときに貴族に対して行う報告が、現在の定時株主総会における決算報告です。定時株主総会のメインイベントは、決算報告に基づき、剰余金の分配に関して株主の承認を得ることです。剰余金の分配とはいわゆる配当です。

配当とは、今までの航海で稼いだ利益を貴族間で山分けすることなのです。このために使われる会計が財務会計です。

ということは、財務会計は誰のための会計かというと、港で待っている貴族のための会計だということです。

 

管理会計は乗組員のための会計

一方、乗組員たちは、そんな貴族たちとは置かれている立場がまるで違います。

乗組員たちは航海に出て大海原で戦い続けている人たちです。たとえば嵐がやってきた、進路を変えるのか、航海そのものをやめるのか、判断しなければなりません。

見知らぬ船が近寄ってきたら、真向勝負で一戦交えるのか、逃げるのか、仲良くするのか、そういうことも判断しなければなりません。

嵐がやってくるというのは、現在の企業経営で言えばマクロ的外部環境の変化です。見知らぬ船が近寄ってくるというのは、思いもよらなかったライバル企業が出現したようなことです。

そういう変化に常に晒されていて、その都度いろいろな判断、すなわち意思決定をしなければならないのが乗組員の置かれている立場です。

そういう乗組員にとって有用な情報が、安全な港で結果を待っているだけの貴族のための情報と同じであるわけがありません。乗組員には乗組員ならではの情報が必要なはずです。

そういう情報を提供するのが、管理会計です。管理会計は乗組員のための会計です。乗組員にとっての海図や羅針盤となる会計なのです。

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