2025年03月17日 公開

最近、「退職代行サービス」を利用して会社を辞める若者が増えているという。彼らの上司の多くは、退職の予兆をつかむことさえできず、ある日突然かかってくる退職代行サービスからの電話に心底驚くそうだ。「辞めたいなんて言っていなかったのに」「ひと言相談してくれればよかったのに」――そんなすれ違いは一体なぜ起きてしまうのだろうか。
※本稿は、金間大介著『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)の内容を一部抜粋・再編集したものです。

感じよく、そつなく、その場に適した返答をする。しかし、決して本音は明かさない。目立ちたくもないし、その他大勢の中に埋もれていたい......。僕はこれを、若者たちの「いい子症候群」と呼んでいる。
なぜ、若者は本音を明かすことを避けるのだろうか。職場における若者たちの不可解な行動の解像度を上げ、その原因となる現象を深掘りすることで、「今の若者」の実像に迫ってみよう。
まずは「いい子症候群」の特徴について説明したい。それは図①の「行動特性(その①)」のようなものだ。
こうした行動特性から、世間ではよく、最近の若者を「素直でいい子」「まじめでいい子」と評する。ただし、彼らは同時に「行動特性(その②)」のような特徴も併せ持つ。
こういった極めて消極的な姿勢を伴うことから、「素直でまじめ」なのにもかかわらず、「何を考えているのかわからない」「自らの意思を感じない」といった不可解な印象を与える。
とはいえ、昔から消極的で主体性のない若者というのは存在した。彼らと「いい子症候群」とは何が違うのか。
それはキャラのわかりやすさだ。かつての消極的な若者は、「行動特性(その①)」のような振る舞いはあまりしなかった。一見しておとなしく、コミュ力が乏しいことがすぐにわかった。
しかし、今の「いい子症候群」は違う。一見、若者らしい前向きさがある。協調性があり、(表面的な)意欲も見せる。
年配者はこれに騙される。そしてこう言う。「今年の新人は優秀だ」。
それではなぜ、今の若者はそんなわかりにくい行動を取るのか。その内面にはどんな心理が隠されているのか。それを端的に表すと図①の「心理特性」のようになる。
例えば、大学の講義で「何か質問はありますか?」と問いかけても、今の大学生からまず返答はない。自分だけが反応すると目立ってしまうからだ。
こうしたいい子症候群の若者たちの話をすると、よく「それって若者だけではなく、日本人全体に言えることでは?」という反応が返ってくる。その通りだが、過去の若者よりもわかりにくくなっていることがポイントだ。
以前の若者はもっとわかりやすく、何らかの形で価値観が表面に現れていた。予想ができる分、若手社員たちのマネジメントは楽だった。「彼女はこっちの部署が合いそう」「彼はこの仕事が合うかも」といったふうに。
それが今は違う。みんなさわやかで、みんなコミュ力高め。表面的に観測できる水準(レベル)は明らかに上がっている。
良く言えば、人材としての質的向上だ。悪く言えば、量産化が進行している。量産化といっても、いわゆる雑魚キャラではない。「あなたは他の誰でもない、唯一無二の存在ですよ」と、ちゃんと教えられてきた世代だ。
ここが重要なポイントだと思うので、しっかり主張しておきたい。僕のこれまでの見立てでは、現在の若者の多くは「量産型」であり、「唯一無二の存在」だ。矛盾する2つの概念を組み合わせて生きるのは、今の若者のお家芸だ。
周りと同じではいけない、個としての貴重な体験こそが君を唯一無二の存在にする、と教わり続け、事実、就職活動でも「隣の人と君との違いは何か」、「隣の人ではなく君を採用する理由は何か」を問われ続ける。
それでもなお、他人と違う自分に自信が持てない。平均値付近にいることの安心感、安定感は手放せない。
その矛盾を内包するように得たスタイルが、「量産型」兼「唯一無二の存在」だ。唯一無二の存在というラベルを貼った量産型と言うべきか。
今の若者は、とても難しい役割を演じているのだ。

では、今の若者はどんな理由から退職を考えるのだろうか。体調不良やパワハラ被害、ブラック企業からの脱出といった理由を除くと、今の若者が会社を辞める理由は、大きく分けて4つある(図②)。
1つ目は、想定と現実のギャップだ。当然のことだが、仕事は楽しいことばかりではない。多くの若者は「普通の職場環境」「普通の待遇」「普通の上司」を想定して職に就く。しかし、現実は「理不尽な職場環境」「不公平な待遇」「意味不明な上司」のうち、1つか2つには当てはまってしまうのが「普通」だ。事前の想定が甘いほど、このギャップを強く実感することになる。
2つ目は、「ゆるブラック」企業からの退職だ。日本企業の多くは、残業を含めた労働時間を着実に減らすとともに、ハラスメントへの対策を強化することで、職場を働きやすくクリーンな場に変えてきた。
ところが、そんな全国クリーン化計画によって、逆に一部の若者にとっては、「成長」の機会が奪われていると感じられるというのだ。
仮に若手に与える仕事を、誰にでもできるような作業に限ってしまえば、身を切られるようなストレスを感じることはないし、彼らから「理不尽だ」「ブラックだ」「搾取だ」と訴えられるような状況にはならない。
ただし、そのような職場環境に身を置くと、新たな仕事に対する知識やスキルが身につかないのは明白だ。一部の若者は、ここに不安や危惧を覚える傾向にある。
若い世代における「働きがい」と「働きやすさ」は反比例しているという分析結果も散見されるようになった。貴重な人材に配慮し、「働きやすさ」を追求することで結果的に働きがいが低下しているとなれば、これは皮肉なことだ。
3つ目は、配属が希望通りにならなかったときの退職だ。そんなことなら昔からあっただろう、と思われる人も多いと思うが、昔と異なるのは若者のリアクションだ。
昨今の特徴としては、その若手になぜ希望通りの配属にならなかったかをしっかりと説明しそれが理不尽ではないことを、時間をかけて理解してもらう必要がある。
そんな一連の努力を重ねて、ようやく「わかりました。ありがとうございます」という返答が返ってくる。そしてその翌週に退職願を持ってくるのだ。
彼らの「わかりました」は、「会社の考えと自分の考えとは違うということがわかりました」という意味なのである。
昨今の若者の潮流として、会社や組織のことを、自分からは遠く離れた大きな流れのようなものと見なす傾向が強くなっている。それが表れたのが、かつて使われていた「配属(異動)ガチャ」という表現だ(もう誰も言わなくなっているが)。
経営者や上司にしてみれば、配属や異動には当然意味や根拠があり、決して「ガチャ」と呼ばれるようなものではない。にもかかわらず、若者は「ガチャに外れたんで、会社辞めるわ」となるのである。
そして4つ目は、「会社は自分に何をしてくれるか」という考えが、若者の間で強くなっていることだ。スキルや能力向上の機会は、会社や上司が「仕組み」として用意すべきものであって、それがない、あるいは自ら作らなければならない会社は理不尽だ、と考えている。
僕はこの背景に、知識やスキル、能力の取得に対する「ファスト化」があると考えている。
2022年9月にレジー著『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書)という本が出版され、若者を中心とした教養の取得に対するファスト化が話題となった。簡単に言うと、手っ取り早く仕事に役立つ教養を身につけたいという若者が増えている、という主張で、僕もまったく同感だ。
入門書や専門書を何冊も読んだり、大学の講義に参加したりすることは、コスト負担が大きいし、効率も悪い。それだったら、「〇分でわかる△△解説」といった動画はたくさんあるし、何なら詳しい人にさっと教えてもらえれば十分、という考えが強くなっている。
こういった、いわゆるコスパやタイパを計算した行動が目につくようになった。そしてこのファスト化の対象が、教養だけでなくスキルや能力にまで及んでいると、僕は考えている。
そして今の若者の多くは、それらが得られる機会は会社側から提供されてしかるべきであって、それがない会社は良くない会社と考える、というのが僕の主張だ。
今の若者の多くは、成長を実感したい、職業人として通用する能力を身につけたいという気持ちが確かに強い。かといって、がむしゃらに働かなければならないような業務を求めているわけではない。何年もじっくりと時間をかけて身につける職人的下積みを求めているわけでもない。
要するに、今の若者の多くは、「なるべく手軽に成長を実感したい」「周りに遅れないよう効率的に職業人として通用する能力を身につけたい」という気持ちが強いのだ。
だから、スキルや能力向上の機会を無視してこき使う職場を「ブラック」、逆に仕事量が少なく、身につく知識やスキルが少ないと感じる職場を「ゆるブラック」と評して、どちらも敬遠することになる。

では、そんな今の若者たちが上司に期待しているのはどんなことだろうか。
多くの調査会社が取得・公表しているデータを解きほぐしていくと、今の新入社員にとっての「理想の上司・先輩像」が、図③のように見えてくる。
「わかりやすい言葉で説明してくれる」「具体的なアドバイスをくれる」「いつでも相談に乗ってくれる」「業務に一緒に取り組んでくれる」「部下の意見・要望に対し、動いてくれる」といった項目が票を集め、逆に「場合によっては叱ってくれる」「仕事の成果にこだわる」といった項目は支持を失っている。
Z世代との間に生じるコミュニケーション・ギャップの大きさに戸惑いながらも、上司という立場上、組織の利益と秩序を守るために、若者を何とかコントロールしようとがんばっている人は多いだろう。
若者たちの行為を「なんで」「おかしい」と思う感覚は否定しない。しかし、若者の目線と立場から考え直すことで、そう思う自分たちこそズレてしまっている可能性はないかと、一度立ち止まって考えてみてほしい。
若者たちは、先輩世代の皆さんのことが嫌いではない。むしろ、できることなら仲良くしたいと思っている。
だからこそ僕は、先輩世代の皆さんに若者たちの気質を理解してもらい、それをそのまま受け入れながら、共に前へ進める社会にしていきたいと、強く願っている。
【金間大介(かなま・だいすけ)】
金沢大学教授。北海道生まれ。横浜国立大学大学院卒業(博士)。応用物理学の博士後期課程中にバージニア工科大学にてイノベーション・マネジメントに魅了され、以来イノベーション論、マーケティング論、産学連携論等の研究に従事。「イノベーションのためのモチベーション」研究も行なっており、教育や人材育成の業界との連携も多数。著書に『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』(東洋経済新報社)、『静かに退職する若者たち』(PHP研究所)などがある。
更新:03月18日 00:05