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「永久歯はもう生えない」が覆る"歯生え薬"とは

木原洋美(医療ジャーナリスト)

からだスマイル26年5月号

「大人の歯は、一度抜けたら生え変わらない」そんな常識が、変わりつつあることを知っているだろうか。京都大学発のベンチャー企業が開発に取り組んでいる「歯生え薬」について、医療ジャーナリストの木原洋美さんに解説していただきます。

※本稿は、『からだスマイル』2026年5月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※写真はイメージです。

 

歯の「成長を止めるのを止めれば」歯は生える

「毛生え薬」ならぬ「歯生え薬」が、もうすぐ実現しそうな段階に来ていることを知っていますか。

取り組んでいるのは京都大学発のベンチャー企業「トレジェムバイオファーマ」です。2030年からの実用化をめざして研究・開発を進めてきましたが、昨年9月、開発中の薬(抗USAG-1抗体「TRG035」)がついに、厚生労働省より希少疾病用医薬品に指定されました。

「まずは、重症型先天性部分無歯症という生まれつき永久歯が6本以上欠如する病気の治療薬として使用し、次のステップとして、虫歯や事故などの後天的な要因で失われた歯の治療に取り組みます」と語るのは、社長の喜早ほのか氏。2024年までは京都大学医学部附属病院に勤務する歯科医師でした。

私たちの歯は、「歯胚」という〝歯の芽〟から生まれます。最初に乳歯の歯胚が、次に永久歯の歯胚が成長することで新しい歯が形作られ、その歯が歯茎を押し上げて、乳歯から永久歯に生え替わるのです。

実は、私たちの顎の骨の中には、乳歯、永久歯に続く「第3の歯」の芽(第三歯堤)があるのですが、その芽が歯として成長することはありません。

しかし、2007年、通常よりも多くの歯が生えているモデルマウスが発見されたのをきっかけに、パラダイムシフト(歴史的転換)が起こりました。そのマウスは歯の芽が歯へと成長するのを阻害するタンパク質「USAG-1」が欠損していることで、歯胚が過剰に育った状態でした。

つまり、歯の発生は、歯の成長を阻害するUSAG-1によってコントロールされていることが判明したわけです。

 

「第3の歯」を生やしてオーラルフレイルを予防

そこで元京都大学准教授でトレジェムバイオファーマCTOの髙橋克氏が開発したのが、USAG-1の働きを抑えることで新しい歯を発生させて「歯生え薬」となり得る「抗USAG-1抗体」です。

「実際に、マウスやビーグル犬、フェレットなどの動物の体内に、抗USAG-1抗体を投与したところ、歯が欠如していた箇所から新しい歯が生えることが確認できました」(喜早氏)

現在、先天性部分無歯症に対しては、根本的な治療法は存在せず、義歯(入れ歯)やインプラントを入れる治療が行なわれています。ただし、子どもの場合は顎が成長する段階なのでインプラントではなく義歯を使います。義歯は、顎が大きくなるのに合わせてその都度作りかえなくてはなりません。

また、大人の場合でも、顎の骨の作り直し、骨移植をしてからインプラントを埋入して噛み合わせを矯正して―と大変な手間と時間を要します。

昨今、インプラントの品質は向上しており、噛む力や耐久性は天然歯とそれほど遜色がなくなっているといいます。しかしながら、手入れを怠るとインプラントを支える骨を溶かすインプラント周囲炎になる可能性は依然として高いので、長持ちさせるためには、自分の歯以上に気を付ける必要があります。

「歯科医師として患者さんを診る中で、お子さんの無歯症が分かって悲しむ保護者の方々に多く接してきました。そうした方々に、一筋の光になるような治療薬を1日も早く届けたいと思っています」(喜早氏)

さらに、永久歯が欠損してしまっても、歯生え薬で第3の歯を生やすことが可能になれば、歳をとっても自分の歯で噛めるようになります。すると、加齢等にともなって口腔機能が衰えるオーラルフレイルの予防につながり、認知機能や身体機能が低下するリスクを軽減させて、健康寿命の延伸も期待できます。

 

「歯を失うことが怖くない」未来はすぐそこに

喜早氏たちは、永久歯の次の歯の芽である第三歯堤に抗USAG-1抗体を注射で投与することで、歯が生えそろった大人であっても、永久歯の次の「第3の歯」を生やすことができる可能性があると考えています。

現在、日本国内の先天性無歯症の患者数はおよそ60万人、後天的に歯を失う人の数はおよそ300万人と推定されています。歯の有無は、すぐさま生命にかかわりませんが、健康寿命に大きな影響を与えます。「歯を失うことが怖くない」未来が、すぐそこに来ています。

◎監修:喜早ほのか(歯科医師・医学博士/トレジェムバイオファーマ株式会社代表取締役社長)

プロフィール

木原洋美(きはら・ひろみ)

医療ジャーナリスト

コピーライターとしてさまざまな分野の広告に携わった後、軸足を医療へと移す。雑誌やWEBサイトに記事を執筆。著書に『「がん」が生活習慣病になる日』(ダイヤモンド社)がある。

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