2023年05月01日 公開
――WBC期間中、マリーンズのコーチの方々とはオンラインでミーティングをされていましたね。
【吉井】これがなかなか難しくて......。結局チーム全体のことはほぼわかりませんでした。でも良かったこともあります。オンラインなのでコーチ一人ひとりが必ず発言しました。彼らが何を考えているのかは、一緒にいるよりもむしろわかったかもしれません。
これは彼らとの距離が縮まったというのとは少し違うのですが、コーチたちの考えが俯瞰で見渡せたといったところでしょうか。有効なマネジメントだったと思います。
――そんなコーチの方々へ意識してかけている言葉はありますか?
【吉井】これはもう、まさしくコーチングの実践をお願いしました。まずは選手の主張を真摯に聴いてあげてほしいということ。そして、できるだけ答えを言わないようにしてほしいということ。
マリーンズが目指しているのは、選手の「主体性」を育てることです。そのためには、選手が「自分を知る」ということから始めなければなりません。課題発見のためにはまず自分を客観視させて、それを言語化させることが重要です。
――吉井監督が標榜するコーチング理論は、マリーンズにどの程度浸透してきましたか?
【吉井】一軍は大人の集団なので、徐々に理解が進んでいることを実感しています。でも、二軍は「自主性」と「自由」を履き違えて何もしない選手がいたりします。「そうか、放っておくと、こうなるのか」と気づかされた部分もありました。
やはり、何も知らない若い選手にはきちんと指導しないと駄目だということですね。二軍のサブロー監督がしっかりと頑張ってくれているので、これからが楽しみです。
――20代の部下とのコミュニケーションに悩む40~50代の管理職の人たちに向けて、ぜひアドバイスをお願いします。
【吉井】まずは部下の意見を肯定することから始めないと、コーチングは始まりません。そこから信頼関係が生まれ、上司の言うことにも耳を傾けてくれると思います。
――部下の間違いに気づくと、ついその場で否定してしまうのですが。
【吉井】頭ごなしに否定すると、心の耳が閉じてしまうので、どんなに良いアドバイスも届きません。私はまずは「そやな」「そやな」と選手の話を聴くようにしています。
――優勝以外に吉井監督が目標とされていることはありますか?
【吉井】明るいチームにしたいですね。私もベンチではしかめっ面をせず、明るく積極的にコミュニケーションを取っていきたいと思います。
また、WBCを通じて、野球ファン以外の方々にも、「野球は面白い」と知ってもらえました。マリーンズでも、そう思ってもらえるような野球をしたいと考えています。
とにかく「野球を楽しむ」ということですね。これから、選手たちがどんなプレーをしてくれるのか、今からワクワクしています。
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吉井監督は輝かしい現役時代の経歴に頼ることなく、コーチング理論を一から学んだ。ご興味ある方にはコーチングを語った吉井監督の著書をお勧めするが、インタビューの行間には確固たる信念がにじむ。
佐々木選手の1年目からの育成方針は物議を醸したが、吉井監督の未来を見据えた信念があったからこそ、完全試合からWBCに繋がる今がある。要は選手一人ひとりを注意深く見て、その選手に適った導きこそがコーチングの真髄であろう。
侍ジャパンでのアプローチを、そのままマリーンズに持ち込むことはしないだろう。その代わり、選手一人ひとりに合ったアプローチで、コーチたちと一緒にPDCAを回していくはずだ。機会があれば、あらためてその途中経過を聞いてみたい。
更新:11月21日 00:05