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侍ジャパン・伝説の継投の舞台裏...吉井理人氏が目撃した「栗山監督の執念」

2023年05月01日 公開

吉井理人(千葉ロッテマリーンズ監督)

吉井理人 佐々木朗希
昨シーズン、史上最年少の20歳5カ月で完全試合を達成した佐々木朗希選手と。

WBC優勝を手土産に、今年から千葉ロッテマリーンズを率いる吉井理人新監督。従来の監督とは一線を画す多彩なバックグラウンドから、新時代のリーダーとの呼び声も高い。

日本中を熱狂させたWBCを振り返りながら、マリーンズでの抱負などを語っていただいた(開幕戦を2日後に控えた3月29日にインタビュー)。部下を育てることに腐心している管理職なら、マネジメントのヒントをきっと感じ取ってもらえるはずだ。(取材・構成:村尾信一)

※本稿は、『THE21』2023年6月号より内容を抜粋・編集したものです。

 

ダルビッシュのほうから若手に教えを乞う場面も

――まずはWBC優勝おめでとうございます。現役、コーチ時代を合わせて計7回のリーグ優勝、うち4回は日本一。これ以上ない輝かしい優勝経験をお持ちです。そんな吉井さんにとっても、今回の喜びは格別だったのでしょうか?

【吉井】ありがとうございます。メチャメチャ嬉しかったですね。負けたら終わりの一発勝負というのもこれまでにないシチュエーションでしたので、喜びの大きさも一番でした。

――日本の投手力を世界に示すことができましたね。これだけの陣容を整えたご努力には頭が下がります。どういう基準で選手選考を進められたのですか?

【吉井】NPBの昨年実績も考慮しましたが、それよりもデータに基づいて、MLBの投手が投げていない球質の投手をピックアップしました。また、東京五輪とは違う若いメンバーにしたいと思っていました。

――それはどうしてですか?

【吉井】昨年はピッチング・コーディネーターをしていたので、現場を離れ、NPBを俯瞰で見渡すことができました。すると、各球団には若くて素晴らしい投手がたくさんいることを知ったんです。彼らなら世界でも充分戦えると思いました。

――そんな若い投手たちがいよいよ宮崎キャンプで顔を揃えました。

【吉井】あらためて、すごいメンバーが集まったな、将来この中からMLBで活躍する選手が絶対に出てくるだろうと思いましたね。

――若い投手たちとのコミュニケーションで意識したことは?

【吉井】それは特にありませんでした。ご存じのように、ダルビッシュが宮崎キャンプ初日から来てくれて、彼が若い投手たちをしっかりまとめてくれましたので。私はただ見守っているだけでした。彼の存在はものすごく大きかったです。

――ダルビッシュ選手は、若い投手たちと積極的にコミュニケーションを取っていましたね。

【吉井】私たちコーチ陣が知らないところでも、けっこうコミュニケーションを取っていたようです。なので、すべてはわかりませんが、ダルビッシュが若い投手たちに教えるという感じではなかったですね。

教えるというよりも、意見交換をしていました。もともとダルビッシュは好奇心旺盛なので、自身が持っている技術に関して、彼らに意見を求めていました。

また、彼らが持っている技術にダルが教えを乞う場面もありました。若い投手たちも、あらためて自分のことを話してみて、色々と気づきがあったようです。

──「佐々木朗希がダルビッシュや大谷翔平とどんな会話をするか興味がある」とおっしゃっていましたが。

【吉井】これも詳しくはわかりませんが、ダルビッシュには技術的なこと以外に、調整方法や栄養の摂り方など多岐にわたって質問していたようです。

私の見る限りでは、朗希は大谷よりもダルビッシュと話していることが多かったですね。大谷に対しては、同じ岩手県出身ということでライバル意識を持っているのかもしれません。いっちょまえに(笑)。

――大谷選手が合流した際、佐々木選手、吉井さんの三人で談笑しているシーンを見ましたが。

【吉井】あれは彼らが話すきっかけになればと思い、私が朗希と大谷を引き会わせたんです。他愛のない会話でした。私が二人の肩を触りながら、「大谷の筋肉は朗希の2倍はあるな。朗希、おまえ負けてるぞ」。そんなことを話していました。

 

メキシコ戦の失投と佐々木朗希の成長

――WBCの間、佐々木選手の成長を感じる場面はありましたか?

【吉井】良い表現ではないのですが、あらゆる面で「傲慢」になったと感じました。自信の表れだと思います。

――プロとしては良いこと?

【吉井】もちろん、良いことです。メジャーリーガーは皆、多かれ少なかれ、「傲慢」な人間の集まりですから(笑)。若いときに一度そうなって、そこから痛い目を見たり、色々なことを経験したりして、大人になっていくんだと思います。

――痛い目と言えば、準決勝のメキシコ戦で失投をホームランされた場面は印象的でした。佐々木選手にとって、この経験は今後どういった意味を持っていくのでしょうか?

【吉井】これはこの先わかってくることかな。朗希の表情を見ているとかなり悔しそうでした。「しまった‼」と思ったはずです。

MLBのようにレベルの高い打者たちは、絶対に失投を逃しません。朗希も失投の持つ意味がよくわかったと思います。この経験を活かして、今後どういった努力をしていくかが重要です。

――ビジネスの世界では、成功体験よりも失敗体験のほうが学びが多いと言われています。

【吉井】スポーツの世界でもまったく同じです。だから「挑戦する」ことに意味があります。

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著者紹介

吉井理人(よしい・まさと)

千葉ロッテマリーンズ監督

1965年生まれ、和歌山県出身。箕島高校から83年にドラフト2位で近鉄バファローズに入団。88年に最優秀救援投手を受賞し、95年にヤクルトスワローズに移籍。97年オフにニューヨーク・メッツにFA移籍し、メジャー3球団を経て2003年にオリックスバファローズで日本復帰。07年途中に千葉ロッテマリーンズに移籍して同年限りで現役引退。引退後は3球団の投手コーチなどを歴任したのち、昨年10月に千葉ロッテマリーンズの監督に就任。侍ジャパンの投手コーチも兼任し、WBC優勝にも貢献。

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