2023年05月01日 公開
――マイアミでの準決勝・決勝はそれぞれ佐々木朗希、山本由伸の先発というのが、かねてから吉井さんが希望されていたプランだったと思います。しかし、準決勝でこの二人の継投になったのは驚きました。どういった経緯だったのでしょうか?
【吉井】私としては、二人の適性を考えると、それぞれの試合の先発で起用するのが良いと思っていました。
しかし、栗山監督はWBC全体の流れを見て、準決勝では侍ジャパンで考えられる最強の継投を選択したということです。負けたら終わりですから、準決勝で出し惜しみはしたくないという判断でした。
もちろん、勝ち進んだ場合のことも想定して、決勝では二人以外の投手たちによる総力戦で充分戦えるという算段はしていましたが。
――その結果、決勝戦の素晴らしい継投が実現したのですね。登板したピッチャーが揃いも揃ってナイスピッチングだったのが驚きでした。
【吉井】はじめから継投策の内容を本人にきちんと伝えておけば、成功するものなんです。事前に「ここでいくぞ」といった具合です。
しかし、多くの場合、試合展開によって急きょ準備を強いられるケースがあります。こういうときはどうしても厳しい結果になることが多いのです。あの試合はうまくハマりましたね。
――8回のダルビッシュ投手と、9回の大谷投手は志願登板だったそうですね。
【吉井】彼らは球団の意向を踏まえて、決勝では登板しないことが決まっていました。しかし、準決勝のメキシコ戦を見たエンゼルス、パドレスサイドが「これは決勝で投げさせないわけにはいかないぞ」と思い直してくれて、OKが出たらしいです。
もともと本人たちは投げたい気持ちを持っていたので良かったです。
――メキシコ戦は、球団の心をも動かすほどのすごい試合だったということなのですね。決勝で二人がマウンドに上がったときは心から感動しました。お聞きしたいのは、ダルビッシュ投手が被弾した直後、吉井さんがマウンドに行かれたときのこと。どんな言葉をかけたのですか?
【吉井】あのときは球場の声援が大きくて、私の言葉はダルビッシュには聞こえていないはずです。だから、大したことは言ってなくて、「頑張れ」だけだったと思います。
でも、あの後、彼からは「良いタイミングで来てくれました」と感謝されました。彼ほどの投手でも、あの場面はいっぱいいっぱいだったんですね。我ながら良いマウンドビジットだったと思います。
――栗山監督についても、お聞かせください。ファイターズ時代から続いている監督・コーチの間柄ですが、ご自身が監督になられたことで、何か新たな発見はありましたか?
【吉井】もちろん。これは大いにありました。栗山監督はチーム全体に目配りしながら、どんなに小さなことでも見逃さず、勝つために最善の方法を探っているということがわかりました。
今までの自分は、投手コーチの立場で投手のことだけを考えて意見を言ってきました。でも栗山監督にとっては、けっこう面倒くさいコーチだったんだろうな(笑)と、あらためて気づかされました。
――貴重な気づきでしたね。立っている場所によって見え方は変わりますから、興味深いお話です。同じ監督という立場から見て、栗山監督のマネジメントですごいと感じたところはどこですか?
【吉井】侍ジャパンは素晴らしいメンバーが揃っていましたが、チームが勝ち切るために監督としてできることはすべてやろうという考えを持たれていました。それは「ここまで考えるのか?」と驚くほどの執念でした。
作戦面で一度決定したことも、「本当にそれで良いのか?」と何度も練り直しを求められ、コーチとしては大変でしたが(笑)、やり残しをしたくはなかったんでしょうね。
例えば、決勝のダルビッシュ、大谷の登板も先ほど言った通り、球団の意向で難しい状況でした。自分が栗山監督の立場だったら、「そういうことなら仕方がない」と諦めてしまったと思います。でも栗山監督は最後まで諦めず、登板の可能性を探り続けていました。
――そんな栗山監督のマネジメントを参考に、マリーンズで実践してみようと思いましたか?
【吉井】正直言うと、栗山監督のようなマネジメントは自分にはまだ難しいと思っています。これは、ある程度長く監督をやって、経験を積まないと気づかないことだと思います。
あらためて感じているのですが、監督はとにかく考えることや、やることがたくさんあります。これまで監督経験のなかった自分には、栗山監督のように、あらゆることに目が行き届きません。だからこそ、コーチたちと気持ちを一つにして、彼らに助けてもらおうと思っています。
更新:11月21日 00:05