2022年12月16日 公開
こうして、「圧倒的存在感」「製造業の相談役」「夢」「働きやすさ」など、様々なキーワードが出てきた。次に行なうのは、その3つの枠が交わる「自社の本質的な強み(コアバリュー)」を探っていくというプロセスだ。
それがパーパスの原型となる。仙北谷の例では、図2のようなキーワードと強みが出てきた。もし、自分たちの本質的な強みがなかなか出てこないとしたら、手っ取り早いのは顧客に聞くことだ。
「なぜ、自社と取引をしてくれているのか」をストレートに聞いてみればいい。その答えにこそ、その会社のコアコンピタンスが凝縮されている。意外と自社の本当の強みを知らない会社は多いし、自分たちが思っていた強みと顧客の評価がまったく違っていた、ということも多い。
仙北谷の場合、「顧客の要望に沿って工夫して、それを実装する力」が評価されていることがわかったという。
実はここで最後までもめたのが、「宇宙技術」という言葉を使うか、「宇宙品質」という言葉を使うか、ということであった。
「技術という言葉は広すぎるのではないか」「品質という言葉だと誰かが設計したものを作っているだけのようだ」などと議論は白熱したが、こうした議論が極めて重要なのだ。自分たちの価値とは何かを言語化するための重要なプロセスである。
そして最終的に出来上がったのが、「宇宙技術でワクワクする未来へつなぐ──品質に挑むものづくりエンターテイナーズ」というパーパスである。
少々長いと思われるかもしれない。もちろん、短くてカッコいい言葉であるに越したことはないが、重要なのはそこに思いが込められているかどうか。変に言葉を練る必要はない。
ちなみにこのパーパスは後半がいわば「サブコピー」になっているのだが、この「エンターテイナーズ」という言葉を挙げたのは若手グループだった。匠の技で人々をあっと驚かせることこそが自分たちの価値だということで、彼らが最後までこだわった言葉だった。
このパーパス策定までに要した時間は、わずか1カ月。パーパス作りにはあまり時間をかけないほうがよいと私は常々言っているが、それでも通常は3カ月から半年はかかる。まさに「世界最短記録」だった。
短時間でパーパス策定ができたのは、仙北谷の強みが元々明確であったからだろう。その点では、中小企業のほうがパーパス策定には有利だと言える。
また、「完璧なパーパスなど存在しない」ということも言っておきたい。議論を尽くしたら最後はえいやで決めるしかない。
パーパスを策定した結果、仙北谷はどうなったか。もちろん、パーパスを策定したからといって、業績が急回復するわけではない。しかし、目に見えた効果があった。それは「採用」。
仙北谷のHPではこのパーパスをトップに掲げているのだが、それを見て共感した人が求人に応募し、新人の採用に成功したのだ。
実はパーパス策定の意義の1つがこの「採用」だ。特にBtoB企業は一般の人への認知度がBtoC企業に比べて低いため、若手の応募者が少ないという問題を常に抱えている。魅力的なパーパスが採用の決め手になることは非常に多い。
仙北谷の場合、若手社員がこだわった「エンターテイナーズ」という言葉も効いただろう。こうして出来上がったパーパスだが、実際に大変なのはこれからだ。社内にパーパスを浸透させるのには相当な時間がかかる。
私は大企業のパーパス経営のお手伝いもしているが、世界中で事業を展開している会社となると、浸透までには3年も4年もかかったりする。
俗に2・6・2の法則などと呼ばれるが、企業変革においては2割が推進派で2割が反対派、6割が様子見だと言われる。そして、推進派の2割がいかに6割の様子見を取り込めるかが、改革のカギになる。
仙北谷の場合、パーパス作りの時点ですでに26人中6人、加えて社長の計7人が参加している。つまり、最初から2割以上の人を巻き込めているわけだ。これも私が中小企業にこそパーパス経営が有利であると提唱する理由の1つだ。
加えてやはり、パーパスはなるべく多くの人を巻き込みながら作るほうがいいだろう。仙北谷では朝礼などで社長が、パーパスの進捗を逐一報告していたこともプラスに働いた。こうして全員が一緒に巻き込まれていった。
一方、パーパスを作ったはいいがまったく浸透せず、ただのお飾りになってしまう企業も多い。私はそれを「額縁パーパス」と呼んでいる。本当に重要なのはパーパスの浸透。いわば「パーパスに魂を入れる」ことである。
更新:11月22日 00:05