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「日本の社歌」が海外で人気? 昭和企業の象徴が世界で受け入れられる理由

2022年11月01日 公開

名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

 

SDGsの「18番目」を考えてみる

ここで改めて「自社のパーパスをどのように設定するか」について考えてみたい。そこには、3つの共感要件がある。

「ワクワク」「ならでは」「できる!」である。

自分たち自身がそのパーパスに対してワクワクできるかがまず重要。そして、自分たち「ならでは」のものであることが必要だ。さらに、当然のことながら、自分たちが「できる!」ことでないと、夢物語で終わってしまう。

難しいのは「ならでは」だ。自社にしかできないことというのは、なかなか見つけるのが難しい。パーパスを「世の中を良くするための目標」だと考えたとき、多くの人が思い浮かべるのが「SDGs」ではないだろうか。

実際、SDGsの17の目標をもとに、自社のビジョンやパーパスを考えようとする企業は多い。SDGsは確かによくまとまった目標ではある。

しかし、これだけ広く出回っているものである以上、そこから選ばれたパーパスは「ならでは」にはなり得ないことが多い。優れた企業はSDGsの「その先」を考えている。

例えばトヨタは、SDGsの「18番目」のゴールとして、「waku‒doki」(すべての人に感動を)というものを掲げている。SDGsのゴールを超えたところにパーパスを据えているのだ。

 

「今もやっているよ」で終わらないでほしい

何も難しく考えることはない。自分たちの原点を見直すことから始めればいいのだ。仕方がなく今の仕事をやっているという会社はないはず。

では、なぜ自分たちはその仕事をやっているのか。そこを原点に「何をやりたいか」を考えればいい。ソニーや中川政七商店、スノーピークの例は、そのことを教えてくれる。

この「原点から考える」という点も、事業が多角化して本業が見えにくくなっている大企業よりも、中小企業のほうがやりやすいし、それを現場にも浸透させやすい。

だからこそ、パーパスは中小企業こそ経営の一丁目一番地として、真摯に取り組むべきなのだ。

最後に1つだけ注意点を述べたい。それは、「開き直り志本経営」になってはならない、ということだ。自分たちのパーパスとは何かを考えるにあたり、必ずと言っていいほど出てくる意見がある。それは、「今、自分たちがやっていることだって十分、世の中を良くしている」というものだ。

それは確かにその通りで、世の中のためになっていないような仕事は、見つけるほうが難しい。ただ、それではとても「もったいない」のではないだろうか。

せっかく志本主義経営に舵を切るのなら、今を肯定するだけではなく、さらに一歩踏み出してほしい。より社会を良くすることに、よりインパクトを与えることに。それが、企業と社会を変革し、あなた自身の閉塞感を打破することにもつながるはずだ。

 

【名和高司(なわ・たかし)】1980年、東京大学法学部卒業、三菱商事入社。90年ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得(ベーカー・スカラー)。その後、約20年間、マッキンゼーのディレクターとしてコンサルティングに従事。2011〜16年、ボストンコンサルティンググループのシニアアドバイザー。14年より30社近くの次世代リーダーを交えたCSVフォーラムを主宰。10年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授、18年より現職。多くの著名企業の社外取締役やシニアアドバイザーを兼務。

 

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