2022年11月01日 公開
BtoB企業も見てみよう。富山県に技術の中心拠点を置くYKKは、世界トップシェアを誇るファスナー事業や、建材事業などを持つ優良企業だ。皆さんも毎日、YKKの「ジッパー」にお世話になっているはずだ。
このYKKが創業以来大切にしてきた精神が「善の巡環」だ。まずは他人の利益を考える。すると、それが世界を良くしていき、巡り巡って自社の利益になる。
YKKの特徴は、徹底的な顧客目線だ。いち早く製品を納入するため、取引先の工場のそばに自社工場を建てる。それを繰り返していくうちに、YKKは世界70カ国以上に進出するグローバルカンパニーになった。
そして、進出した地域への貢献も強く意識している。YKKの社員は20代から海外に派遣される。そのときのはなむけの言葉は「土地っ子になれ!」だ。現地に溶け込み、現地に貢献することが求められる。20年以上暮らしていないと、海外駐在経験とは認められないという徹底ぶりだ。
もう一つ、ユニークなパーパスを持つBtoB企業を紹介したい。京都の計測機器大手・堀場製作所だ。そのパーパスは「おもしろおかしく」。
一見、ふざけているように見えるかもしれないが、その本意は「人生の一番良い時期を過ごす『会社での日常』を自らの力で『おもしろおかしい』ものにして、健全で実り多い人生にして欲しい」(堀場製作所HPより)ということにある。
余談になるが、私は昨今の「働き方改革」に少々疑問を抱いている。ライフとワークを切り離し、なるべくワークを早く切り上げてライフを楽しもうという発想では、結局、どちらも充実させることができないのではないか。
堀場製作所の考え方では、ライフとワークは一体化している。働くことこそが自己実現だと考えているのだ。
これは日本的な考え方だと思うかもしれないが、そうではない。「おもしろおかしく」は英語で「Joy & Fun」と訳され、世界中で共有され、共感されている。
堀場製作所は企業買収を繰り返した結果、今では60%以上の社員が外国人だ。買収といってもむしろ向こうから「傘下に入りたい」と言ってくるケースが多いという。
これは堀場製作所のパーパスに多くの人が共感を抱くからこそだろう。ちなみに堀場製作所には英語の社歌があり、外国人の社員も含め、みんな喜んで歌っているそうだ。世界各国の堀場製作所のある街のカラオケ店には必ずこの曲が入っているという。
昭和の日本の象徴とも言えるような「社歌」が世界で受け入れられているというのは、とても興味深いことだ。
ここまでご紹介してきたのは、主に大企業の事例である。骨太なものが多く、「ちょっと荷が重い」と感じた人もいるのではないだろうか。しかし、私は実は中小企業にこそ、パーパスは重要だと考えている。
象徴的な例が「中川政七商店」だ。元々、300年の歴史を持つ奈良晒の問屋だったが、15年ほど前に13代目中川政七社長(現会長)が、日本各地の老舗に工芸品を作ってもらう「SPA」方式を導入し多店舗展開を開始。
伝統に現代的な意匠を加えた商品を販売し、人気を博している。中川社長(当時)は周りにある工芸メーカーが続々と廃業していくのを見て、「このままでは日本の伝統的な素材や技術がなくなってしまう」と感じたという。
その思いのもと、「日本の工芸を元気にする!」というパーパスを掲げて事業を拡大。その結果、工芸品は我々にとって大いに身近なものとなった。
もう一つは、新潟に本社を置くアウトドアブランドの「スノーピーク」だ。
元々は専門的な登山用品を扱うメーカーだったが、二代目の山井太社長は、プロだけではなく、広く一般の人にもアウトドアの良さを広げたいと考えた。
そこで改めて自分たちのビジネスの価値を考えたときに出てきたのが、「人間性の回復」というパーパスだった。都会で働き、マンションに住むような人は、自然と遠く離れた生活をしている。
そんな人たちが自然に触れる体験をすることで、人間性を回復してもらいたい。このような思いのもとでキャンプ用品を始めとしたアウトドアグッズを提供し、高い支持を得ている。
ちなみにスノーピークのある新潟の燕・三条地域は金属加工で知られており、同社の製品はそれらの地元メーカーの技術を巧みに編集したものである。日本のモノづくり力の維持にも貢献しているのだ。
「日本の工芸を元気にする!」「人間性の回復」...もちろん、どちらも素晴らしいものでありつつ、等身大のパーパスでもある。「これなら自分たちでも真似できるのではないか」と感じた人も多いのではないだろうか。
更新:12月04日 00:05