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読みにくければ、文量を半分に...新聞記者による「失敗しない文章」の極意

2022年10月13日 公開
2023年01月18日 更新

野上英文((株)朝日新聞社 記者)

 

「3A分析」で見出しとリードを最終確認

見出しとリードを考えついたら、早速それにのっとって書き始めたいところ。しかし、そのまま暴走して「ジコチュー」な文章に陥ることを防ぐため、そのタイミングで「3A分析」に取り組んでほしいと思います。

3A分析とは、文章を書く前に再確認しておきたい3要素、

⃝Audience(読み手)
⃝Action(してほしい行動)
⃝Atmosphere(空気感)

の頭文字を取って、私が命名したノウハウです。

順番に説明します。まずは、その文章の「読み手」を具体的に想定してみてください。

そんなことかと思われそうですが、例えば「あまり顔を見ない隣の部の部長」相手と「毎日会う自分の部の部長」相手では、同じ「上司へのメール」でも書き方が変わるはず。

その人がどんな姿勢を好み、どんな要素を重視するか、などもリサーチできればベストです。読み手が複数いる場合も、その中の具体的な一人を想定したほうが、文章はぐっと引き締まります。

それが済んだら、次は「してほしい行動」です。書き手が読み手にしてほしい行動は「提案を採用してほしい」「自分の評価を上げてほしい」など、決して一つとは限りませんよね。文章が迷走しないよう、その中でも一番期待するものは何か、再確認しておきましょう。

最後は「空気感」です。「相手はどんな状況でその文章を読むか」想定した言葉遣いに、ということ。文章でのやりとりではすれ違いが頻発します。言い方や表現、態度など、ぜひ一度「相手の視点から」確認するよう心がけてください。

一通り再確認が終わったら、その結果を整理します。例えば「この文章は、中堅社員(読み手)に、モチベーションを落とすことなく制度変更を受け入れてもらうため(行動)の文章。そのためには失望感を与えない書き方(空気感)を意識する」などとまとめられるのが理想です。

 

最後まで一気に書き切る「アルペンスキー式」文章術

野上英文

仮の「見出し」「リード」が決まれば、あとはそこで生まれた指針を守って書き切るだけ。そのためにお勧めなのが、文章全体をいくつかに区切ってそれぞれの「小見出し」を定め、一気に書き切るやり方です。

この手法を、私は「アルペンスキー」にたとえています。まず、全体の見出しに入れた「一番伝えたいこと」を軸に、何をどんな順で説明するか、簡単に整理、区分けします。

そして、それらを「各主題&各結論」の小見出しの形に整えたら、それらを「旗印」に見立て、順に書き上げながら一気に最後まで滑り降りる(=書き切る)のです。

ポイントは、初稿作成中に細部の修正や図版の作成を一切しないこと。作成すべきグラフなども、初稿では「ここにこういうグラフが入る」などのメモだけを残しておき、まず最後まで書いてしまいましょう。

スキーでも、微調整を繰り返しながら1日かけてゲレンデを1回だけ滑走、なんて普通やりませんよね。とにかく何度も滑り切るのが上達の近道です。

文章もそれと同じ。とにかく一気に最後まで書いてこそ、自然な「流れ」を持った文章になります。一気に書いて、また一気に修正し、また戻って...と反復しながら文章を磨き上げていきましょう。

 

文章上達のための荒療治「とにかく半分にする」 

今回ご紹介した手法を実践してもらえれば、これまでより格段に論旨明解な文章が書けるようになるはずです。しかし、それでも「読みにくい」と感じる場合には、一度文量を「半分」にしてみるのもお勧めです。

自分の文章だと難しい、という場合は、同僚の文章を借りても構いません。意味が変わらないように、文量を半分に添削してみてください。一見無理そうに聞こえますが、いざやってみると、回りくどい表現や「~等」「~のような」などの曖昧な言葉を削るだけで、案外達成できてしまうのではないでしょうか。

日本人はとにかく「言い切り」を避ける傾向があると言われます。しかし、そのせいで文章が冗長になるのは本末転倒。「一気に半分」は荒療治のようですが、確かな効果が期待できるやり方です。

欧米には「Kill your darling」という文章法の格言があります。直訳で「愛する人を殺せ」──つまり「お気に入りの表現こそ削れ」ということ。もちろん相手にもよりますが、ビジネスの文章においては、修飾語は「削っても意味が通りそうなら削ってみる」が最適解なのです。

 

【野上英文(のがみ・ひでふみ)】

(株)朝日新聞社 記者。1980年、兵庫県生まれ。大学卒業後、朝日新聞社入社。社会部、国際報道部などを経てジャカルタ支局長に。そのかたわら文章講座を主宰し、40歳を機にMITへ私費留学、MBAを取得。2010年には、大阪地検特捜部による証拠改ざん事件の調査報道で新聞協会賞も受賞している。著書に『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)、共著に『プロメテウスの罠4』(学研プラス)などがある。

(『THE21』2022年11月号特集「生産性2倍の『文章術』」より)

 

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