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なぜ今「原発新設」が議論されるのか? 2030年代の日本を左右する電力問題

2022年09月14日 公開
2024年12月16日 更新

鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)

 

今後、大規模停電が頻繁に起こる?

このような逆風の中で、努力をして何とか2030年までに46%減の脱炭素目標を達成したとしても、2030年代には世界はさらに新たな目標に進みます。

2030年代には、世界はなるべく「物を燃やさない」方向へとさらに移行し、その中で段階的にガソリン車が廃止され、新規に発売される自動車はEV車のみになる予定です。

日本自動車工業会は試算として「日本中の自動車がEV車になった場合」には、電力需要が15%増え、新規の火力発電所が20基必要になるとしています。

つまり、日本全体で発電能力が足りないという大問題が起きるのです。2022年3月に地震で火力発電所が一時的に作動停止をした際に、寒波が訪れていたことと相まって、首都圏で停電の危機が起きました。こうした電力危機はこの先、冬になるといつ起きてもおかしくない。

それくらい電力の需要は供給能力ぎりぎりのところに来ているのです。そこで、原発再稼働が議論の俎上に上ります。原子力発電の問題は福島のような惨事を二度と起こさないということに加えて、発電が終わった後の核燃料をその後、3万年以上にわたってどう保管していくのか、隠れた社会コストがとても大きいという問題があります。

そのため原発への反対論は大きいのですが、一方で、原発は地球温暖化については有力な解決策になるという側面もあります。

簡単に言えば、あと20年後に地球が滅ぶ道を選ぶのと、これから3万年の間、社会にコスト負担が発生するのとどちらが良いのか、という選択です。

原発は世界に対して日本が誇る先端技術でもあります。そう考えるとあらゆる側面で、原発の稼働は日本のエネルギーの未来にとっては悪い選択肢ではない。あとはタイミングだけを見ていればいい。私には原発再稼働推進派のそのような意図が透けて見えるように感じます。

 

クリーンエネルギーが圧倒的に足りない日本 

とはいえ私自身も未来予測という立場に立つと、日本は原発という選択肢を選ばざるを得ないと考えています。日本の電力は石炭火力に約3割を頼っていますが、国際基準であれば2040年には容認されない発電方法となるはずです。

そして暫定的に許容されているLNG火力発電が全体の4割弱ですが、これも2030年代には基準が変わり禁じられるかもしれない。そして日本のクリーンエネルギーの比率は、8%の水力を合わせて現在は18%程度。

ここから増やして全体の3割は目指せるとしても、4割は難しい。そう考えたら、日本は原発を再稼働するしか選択肢はないのです。

もちろん、もう1つの選択肢として、国民全体が電力使用を大幅に我慢するという考え方はなくはありません。電力のピークは真夏のクーラーと冬場の暖房ですから、その両方を国民がとにかく我慢する。

実際、岸田総理はこの冬の節電義務化を提案しています。ただ、2011年の東日本大震災の直後の夏、原発が停止してエネルギーが足りなくなり、真夏にクーラーの使用を抑えて過ごしたあのときよりさらに厳しい状況が永続していくことに、日本人が耐えられるかは疑問です。

さらに言えば、その選択肢は未来の経済の大幅な縮小をもたらします。使える電力の量が制限される未来は、エネルギー不足の未来であり、GDPが縮小する未来になるのです。

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