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なぜ今「原発新設」が議論されるのか? 2030年代の日本を左右する電力問題

2022年09月14日 公開
2024年12月16日 更新

鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)

 

原発新設を決めたフランス...では、日本は?

このように、論理的に予測すれば未来のどこかの時点で、日本は原発再稼働に踏み切ることは必至でした。もちろん再稼働する原発すべての安全対策が完了することが大前提ではありますが、再稼働が実現した未来において、実は日本は不都合な課題に気づくことになります。

それは原発を再稼働しても、長期的には電力が全然足りないという事実です。原発がフル稼働していた震災前の2010年当時、原発の発電能力は全体の25%で、これは石炭火力に匹敵する程度でした。

つまり原発が仮に(廃炉が決まっている原発を除き)すべて再稼働したとしても、日本が近い将来石炭火力を放棄した段階でやはり電力は足りなくなるのです。

それを太陽光や風力、バイオマスで補ったとしたら、ぎりぎり2022年の発電能力と同等のレベルが確保できるかもしれません。しかしこの計算には大きな穴があります。ガソリン自動車の廃止が計算に入っていないのです。

そうなのです。ここが最も不都合な論点で、日本が2030年代後半から2040年代に必要とするエネルギーの総量を考えたら、原発の再稼働だけではなく、原発を10~20基新設する必要があるのです。

実際にこれを実行している国があります。フランスです。フランスでは2028年頃から原発の新規建設を始め、2035年に稼働する計画です。

問題は新規の原子力発電所の建設には立地のアセスメントから始めて、フランスのように20年近くの時間がかかるということです。つまり、2040年に日本が必要とする電力をまかなうためには、今最も必要なことは原発の再稼働ではなく、原発を新規に計画し始めることなのです。

2030年代では使用できる電力エネルギーの不足が経済の最大のボトルネックになります。私は近著『日本経済 復活の書』において、この問題に早急に踏み込むことを提言したのですが、まさにそこに踏み込んだのが、今回の岸田総理の発言だったのです。

 

【鈴木貴博(すずき・たかひろ)】東京大学工学部卒。ボストンコンサルティンググループ等を経て2003年に独立。過去30年にわたり大手人材企業のコンサルティングプロジェクトに従事。累計20万部超のベストセラー『戦略思考トレーニング』シリーズ(日経文庫)、『仕事消滅』(講談社+α新書)、『日本経済予言の書』(PHPビジネス新書)など著書多数。経済評論家として多方面で活動している他、クイズ番組出演歴多数。「BAZOOKA!!!」(BSスカパー!)内の「地下クイズ王決定戦!!」では第7回地下クイズ王に輝いた。

 

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