2022年01月08日 公開
2023年09月25日 更新
――そもそも、なぜガーナに行こうと思われたのですか?
【田口】一番大きい理由は、チョコレートが好きだということです。
幼少期から、テストや発表会など、頑張る場面の前におじいちゃんにチョコレートをもらって元気を出す習慣があって、それが大切な思い出になっています。人生の重要な瞬間に登場するのがチョコレートだったんです。大学受験の前や、今でも仕事の大事な場面の前にはチョコレートを食べています。
また、出身が岡山で、顔が見える農家の生産物を農協で買っていたので、おいしいと思ったものの先を考える習慣もありました。チョコレートはそれが見えないので、調べてみると、児童労働などの悲しい現実を知ることになりました。
私はチョコレートから元気をもらっているけれども、その先で悲しんでいる人がいるのなら、食べないほうがいいんじゃないか、と思った時期もありました。
でも、私がチョコレートを食べなければ世の中がよくなるのかと言えば、それも違うと思い、いつか現地に行ってみたいと思うようになりました。
それで、2018年に大学に入って最初の夏休みに、初めてガーナに行きました。日本が輸入しているカカオの8割がガーナ産ですし、国名を知っていて親しみも感じる国だったので。
――旅行のような感じで?
【田口】様子を見る旅行で終わってしまってはもったいないので、何かわからないけれども、現地でできることを探したいという気持ちで行きました。7~8月の2カ月間の滞在の間に、農業系のNGOを訪ねたりしました。
首都のアクラに到着して、カカオはどこでとれるのかを聞くと、皆「北だ」と言いました。バスで北へ向かって、カカオ栽培が盛んなエンプレーソ地域を含む、いくつかの地域を回りました。
――ICU(国際基督教大学)に在籍されているということですが、もともと海外に関心があった?
【田口】父の仕事の関係で、4歳の頃にポーランドで暮らしたことがあります。日本人には馴染みの薄い国だと思いますが、日本製品はあって、それを見て「世界はつながっているんだな」と幼いながらに感じた覚えがあります。
日本語も英語もようやく話せるようになってきたところで、ポーランド語の環境の中に入ったのですが、ジェスチャーや気持ちで意外とコミュニケーションがとれるのだということも実感しました。
ですから、ガーナに行くときも、首都以外では英語が通じないと聞いても、「まぁ、何とかなるでしょう」と思いました。
――実際、何とかなりましたか?
【田口】そうですね。ビジネスの話や政府による買取についての話はできませんでしたが、カカオに対してこだわりを持っている人がたくさんいることは、視線や姿勢からわかりました。
言語が話せないからといって拒絶されることもありませんでしたし、色んなものを指さして「これは何?」と聞いて、単語をメモして、少しずつしゃべれるようになると、喜んでくれました。
最初は「Give me money.」みたいなことをよく言われましたが、お金のない学生で、ただただ現地のことが気になってきたんだと話して、一緒の服を着て、一緒のものを食べて、一緒に雨水のシャワーを浴びているうちに、どんどん受け入れてくれました。
絆が深まった、一番大きなきっかけは、チョコレートを作って食べてもらったことだと思います。「チョコレートが好きで来たんだ」と言っても、現地の人はチョコレートに馴染みがないので反応が薄かったのですが、カカオを持ってきてもらってチョコレートを作ると、とても喜んでくれました。「自分たちが作っているものは、こういう味なんだ」ということを初めて知ったんです。
――その場で、自分でカカオからチョコレートを作れるというのもすごいですね。
【田口】粗削りだったんですけど(笑)。米を米粉にする機械を持って行って使いました。カカオは油脂分を多く含んでいて、強力に細かくするとドロドロの状態になります。そこに砂糖とミルクを加えると、チョコレートになります。
――ホテルにも泊まらなかった?
【田口】農家に泊めてもらったりしました。今は、Amanfromという村に小さな工場を建てたので、現地に行ったときは、そこで寝泊まりしています。
更新:11月17日 00:05