時流に乗って商品が売れている。能力が突出したトップセールスがいる。だから、自社は大丈夫――。そう考える企業ほど、組織運営としては危険かもしれないと、『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』(かんき出版)の著者・山下貴宏氏は指摘する。
会社にとって大事なのは、目先の利益獲得やスーパー営業の存在だけではなく、組織を成長させ続けること。そのためのキーは「人材の育成」だ。中でもマネージャー層の育成が鍵を握る。
プロスポーツの世界では、「名選手、必ずしも名監督にあらず」といった言葉があります。輝かしい成績を収めたスター選手でも、監督に転身するとチームが勝てなくなるケースがあることを表現しています。
プレイヤーとしての能力の高さがマネジメント能力と必ずしもイコールにはならない。これは、ビジネスの世界でもよくあることです。
なぜ、ハイパフォーマーであるにもかかわらず、優れた指導者になれないケースがあるのでしょうか?
これには2つ理由があります。
1つは、事業環境が大きく変化したことです。顧客行動の多様化にともない、製品やサービス、売り方そのものに付加価値をつけるなど、マニュアルに頼らない柔軟な営業スタイルや、スピーディな意思決定が求められる中、旧態依然としたやり方は通用しなくなりました。
そうした背景の変化に加えて、コロナ禍によるDXの加速によりリモート前提の組織マネジメントが求められるようになり、上司部下のコミュニケーションの難易度が一層増しているのです。
もう1つは、営業マネージャーに就く人材が2タイプいるからです。
1つ目は「模範営業」タイプ。彼らはハイパフォーマーになる過程で体系的な教育を受け、成果を積み上げます。自分のやってきたことが腹落ちしていて、ロジックなどを他人に伝える力もある。優秀なマネージャーへの段階を歩んでいます。
2つ目は「天才/きまぐれ」タイプです。彼らは教育を受けながらも、センスや感性、環境など、偶然性の中でハイパフォーマンスを発揮したタイプ。体系的な学びがなく、マネジメントに必要なスキルを持ち得ていないことも多く、こちらのタイプがマネージャーになる場合、壁にぶつかる可能性があります。
いざマネージャーになって部下に指導する際、体系化や言語化に苦労し、「自分のやり方になぜついてこれないんだろう?」と、ストレスを感じたり悩んだりしてしまうのです。
どうすれば、的確に「名選手を名監督へ」と導けるのでしょうか? それはマネージャー人材育成の「早期化」です。
企業にとって、営業マネージャーの育成といえば、結果を出したプレイヤーがマネージャーに昇格する際の研修などが考えられます。
ですが、じつはその手前の段階にこそ、育成の要諦があると考えます。プレイヤーとして成長を遂げているけれど、まだマネージャーには抜擢できない、力をつけている若手のプレイヤーを「次期マネージャー候補」として、早い段階から高いマネジメント力を身につけさせる「バディプログラム」への取り組みを推奨しています。
バディプログラムとは、次期マネージャー候補生を対象に、擬似マネジメント体験を通じて、実際にマネージャーになった時の部下育成やチーム運営を加速するための支援をするプログラムです。将来のマネージャーの選考と育成を兼ねたもので、候補に入れば上を目指すチャンスと教育の機会を同時に得られるわけです。
この段階で選ぶ次期マネージャー候補生は、営業成績だけで判断しないことが大切です。成績はそこそこでも、会社が期待するコンピテンシーを持ち合わせている人材も視野に入れます。
営業マネージャーの仕事は、メンバー一人ひとりだけではなく、チームの成果創出を目指すことが重要。メンバーをいかに育てて動かせるか。そこにある程度の資質があれば、選考の対象にしたいですね。
バディプログラムの柱となるのは、「知ること」「実践すること」「振り返ること」の3つです。これら3つを遂行するために、半年ほどかけて実施していきます。
まず、キックオフとして、「会社のプログラムとして実施します」と、次期マネージャー候補生やバディ(彼らの下につく若手メンバー)に参加を呼びかけます。
次期マネージャー候補生には、「次世代のマネジメントを期待しているから、通常業務に加えて、一定の時間を割いてこのプログラムに参加して欲しい」と伝えると、モチベーションが高まります。
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更新:11月22日 00:05